心臓血管外科医のファド
我らの心臓が
必死に熱泉を汲み上げているうちは、
お前は思想に銃口を突き立て、
老いと密告に怯え、
夜の荒海の浜に打ち捨てられた
子犬の死体を見るだろう。
腐敗した惨めな肉に哀れみを感じるのは、
お前の滾る心臓の見せる熱だ。
接続を断て!!
循環停止させ、
凍えた臓物を見つめる時、
心臓外科医は、
他者の夢の秘密を覗き見る。
ああ、心臓にメスを突き立て、
我々の情熱を冷気で冷やすのだ。
夜の沼地に浸かる臓器は
有肺類の歯軋りさえも逃さない。
だが、テナシバクラムや破傷風菌が
命の肉を突き破り、
魂を摩耗させ、
そして、何より・・
熱情が・・
人間社会を愚鈍にしていく。
そうしている間にも、
心臓外科医の術式は続く・・
キリストのいない手術室では
適宜の器具こそが十字架故に・・
吻合し、腐肉を現世に執着させる。
それは命を繋ぎ変える行為であろう。
ああ、密告され、
怯えた詩人は
プラサ・ド・コメルシオで心臓を突き刺される。
ファドよ・・
お前は毎夜、
詩人のかつての吐息を歌うのだ。
記憶に過ぎない死者の心音を響かせる為に。
社会は、方々で
亡霊の心臓を響かせる蓄音機だ。
どんなに吻合し、生き足掻こうと、
思想の道は狭窄し、肉は腐る。
だから心臓外科医は
そっと愛用のメスを置く。
最後は結局、手術室を出て行く。
亡者もこの世に未練はあるか?
虚のバルサルバ洞を抱え、
死者は眼球の無い眼窩で
何を眺める?
臓物の暗闇の中から。
ある日、その心臓の音が途切れた時に、
全ては変わるだろう。
空の血管が白く変色し、
あらゆるもの全てが夢から覚め、
口の中を切った血の味も、
砂の色も、哀れさも、
全てが手術台で見た影絵だと気づくのだ。
別の存在になるんだよ。
ポンプで血を身体に巡らせ、
不器用なブリキの様に粋がるのではなく、
死肉は朽ち、分解され、
物言わぬ高貴な汚泥となる。
ああ、心配いらない。
我らが死肉として、
夕暮れの海岸を認識しなくなった後も、
波は存在し続ける。
それは思想も無く、
哀しみも無く、
苦痛も無く、
ただ、永遠に無人の浜を飽く事なく
打ち続ける虚栄の水なのだ。




