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Reversal!

作者: グレファー

過去に読み切り短編小説賞としてバディものという指定で書いたものを、まとめてアップしてみました。


漫画の読み切りや第一話といった形とまとめ方をしており、俺たちの旅はこれからだ!といった話になります。

 真夜中の路地裏を、一人の男が歩いている。散々引きずり回されたのか服はボロボロで、顔も殴られたのか頬が大きく晴れていた。地面は石畳で整備されてはいたが、まだ明かりが出ていないのと、目まで腫れて前がよく見えていないのか、ひどく歩き辛そうであった。


「くそ……あの観光客ども……しこたま殴りやがって……」


 男はフラフラと蛇行しながら、たまに壁に手をつき這うように前へ進んでいる。そして何とか歩き続け、その男が暮らしている小さな宿屋がある道までたどり着いた。


「や……やっとだ……」


 男は膝から崩れ落ちるが、頭を振って意識をしっかりさせる。あともう少し、もう少しだ――。だが、その男の希望は、この時間帯に聞こえるはずの無い声にかき消された。


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 赤ん坊の泣き声が男の耳に入ってきた。いつもなら気にするほどではないが、今は時間帯に加え、その声の近さと方向が気になってしまった。なぜすぐ近くから聞こえる――?


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 男がその泣き声の出どころを探すと、路地裏のゴミ捨て場の中に、それはあった。


「おいおいまじか……?」


 男がそう漏らすのも無理はなかった。――どこからどう見ても捨て子であった。毛布に全身を包まれてはいるが、それ以外に周りに何もなく、母親らしき人影も、痕跡すら確認できなかった。疲れていた男は関わりあいになるのはごめんと、通り過ぎようとした――。


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 しかし、男はどうしてもそれを無視できなかった。男はゴミ捨て場から赤ん坊を抱きかかえた。うっすらと白い髪が生えており、どうやら女の子のようだった。男に抱きかかえられた赤ん坊は泣きやむのをやめ、男を親だと勘違いしたのか、安心したように笑い出した。男はその赤ん坊の様子に苦笑すると、宿屋への道を再び歩き出した。


× × ×

 

 男の名前はフェイ。ここ北大陸最大の都市『ジヴァアト』にて、魔術師となるべく魔法大学の試験を受け続けているいわば浪人生だった。しかし―年一回の試験に8回連続で落ちており、彼はもう27歳になっていた。


 普段は勉強の時間をかくほどするためにまともな職につくこともなく、観光客相手のしがない寸借詐欺で生計を立てていた。しかし今日はその詐欺がバレ、袋叩きにあってボロボロになりながら下宿している宿の道を向かっていたのである。そして今は下宿先の女将であるマーサにどのような言い訳をするか、それだけを考えていた――。


× × ×


 翌朝、疲れ切って熟睡していたフェイは、部屋のドアがノックされる音で起こされた。


「フェイ! いるのかい! フェイ!」


 けたたましく自分を呼ぶ声に、フェイは慌ててベッドから跳ね起きる。


「い……いるから! 静かにしてくれって!」


 フェイは返事をしながらドアに向かうが、部屋に散らかっていた薬品精製用の器材に足をぶつけ、涙目で足を押さえる。そして片足立ちになりながらドアを開けた。


「はいはいマーサさん……」


「フェイ! …ってその顔!? また何か怪しげなことでもしてきたのかい!」


 フェイにマーサと呼ばれた恰幅のいい女性が、フェイの顔を見るなり呆れと怒りを込めて言った。右手側には白髪の小さな女の子を連れており、手を握っていた。


「マーサさんこれはだな…」


 フェイはしどろもどろに言い訳をする。昨晩、観光客相手に寸借詐欺を働いていたらバレて、袋叩きにあって逃げたとは、さすがに正直に言えなかった。


「とりあえず朝食の仕込みの時間だから、早く準備しておくれ! 話はその後だよ!」


「あ…マーサさんちょっと緊急の話が…」


 フェイは恐る恐る言った。


「わかってるよ!この子のことだろう! しっかしあんた隠し子でもいたのかね!?」


「…この子? …え?どの子?」


 フェイは自分の部屋のソファーに、寝かせていたはずの赤ん坊を見る。しかし、なぜかソファーはもぬけの殻になっていた。


「…あれ? もしかして昨日のことは夢?」


「なーにいってんだい! 寝ぼけてんなら顔洗ってきな! あんたが自分で私の部屋にメモを残したんじゃないか!! “子供が宿屋の前にいたから拾ってきた”って! この子がそれだろう!?」


 フェイはマーサが手をつないでいた子供を改めて見る。その子供は何も言葉を発さなかったが、じっとフェイを見つめていた。


「えーと……待て待て待て……。マーサさん…その子は?」


 フェイはようやくマーサが連れていた子の存在に気づいた。マーサは子供の手を離すと、その子供はフェイの足にぎゅっと抱き着いてきた。


「何って、あんたが連れてきた子だろ? 一人で下にいたから、ここまで連れてきてやったんだよ。だいたいなんだい! あんた服着させてやんなかったのかい!? 娘の昔の服を着させてやったけど、拾ったあんたがちゃんと責任もって……!」


 フェイは子供の頭に手をのせてやりながら、放心状態で顔から表情が消えていた。理解が全く追い付いておらず、ただ頭の中に思った一言を放った。


「俺が昨日拾った子供は赤ん坊だったんですが…?」


 フェイのその言葉を聞き、マーサ―も息が止まる。そして二人してフェイに抱きついている子供を見た。どうみても5歳くらいであり、赤ん坊には全く見えない。しばらく二人とも固まっていたが、マーサ―はハッとしてフェイに言った。


「……とりあえず今は準備をしないかい! お客さんが来ちゃうよ!」


 フェイはマーサに促され、急いで仕事の準備をする。フェイにくっついていた子供は、どうしたらいいかわからずフェイを見るが、フェイは膝を屈めて、子供と顔を合わせた。


「……お前も行くか?」


 子供は無言でうなずいた。


「俺は仕事で料理作んなくちゃいけないから……座って見ててくれよ? ……あ、そうだ」


「フェイー! まだなのかい! 早く来な!」


 先に下に降りていたマーサが大声でフェイを呼ぶ。


「わかってるって! ちょっと待ってくれよ!」


 フェイは返事をすると立ち上がり、子供に手を伸ばした。


「昨日、名前考えてたんだ。アンヘル。お前の名前はアンヘルって呼ぼうと思ってな。……嫌か?」


「アン……ヘル……?」


 子供は繰り返した。


「そう、アンヘル。……ほかに名前あったりしない?」


 アンヘルは首を横に振った。そしておずおずとフェイの手に、手を伸ばした。


「フェイー! 早くしないかー!」


「今アンヘル連れてくから待ってくれよ!」


 フェイはアンヘルの手を握ると、抱き上げて下へ向かった。


「あ、そうそう。俺の名前はフェイ。フェ・イ。……言えるか?」


「フェ……イ……」


 アンヘルはフェイを指さしながら言った。フェイは笑顔を浮かべて返事をする。


「そう、フェイ。よろしくな、アンヘル」


× × ×


 マーサが切り盛りする宿屋『黎明亭』に、フェイは今年で8年下宿していた。宿屋の仕事を手伝う代わりに宿代を融通してもらっており、長年働いていた結果、今ではフェイの作る料理がこの店の名物になっていた。宿屋に泊まっていない近隣の住人も、フェイの作る朝食を食べに来ているほどであった。


 アンヘルはじっと、フェイが料理を作っている様子を見ていた。フェイは客の対応をしながら、アンヘルへの朝ごはんを作り、それをアンヘルに差し出した。


「お腹減ったか? ……食べ方とかってわかる?」


 フェイが聞くと、アンヘルはただ黙ってうなずいて、フェイが作った料理をスプーンを使って食べ始めた。汚くはあるが、食器を使うという知能があるようだった。


「どうしたフェイ!? …まさか!? お前子供いたのか!?」


 客の一人がフェイがアンヘルに食事を出している様子を見て、驚きの声を上げた。フェイは慌てて否定する。


「ち…ちげえって! …ただ…その…」


 その客はフェイが困っている様子を笑いながら見ていた。


「お前ももういい歳なんだから、そんな子供がいるなら魔術師目指すのいい加減諦めて、さっさとちゃんと働けって。魔術師目指さなきゃ大抵のことで食ってけるだろ」


「余計なお世話だっての!」


 フェイは怒りながら言い、周りの客もその様子を見て笑っていた。フェイが長期間浪人生活を送っていることは、街の住人にも周知の事実になっており、度々魔術師になることを諦めるよう、周りからも言われ続けていた。フェイが周りからからかわれている様子を見て、アンヘルは楽しそうに笑っていた。


× × ×


 朝食の時間が終わると、フェイは部屋に戻り机に向かっていた。魔法大学の次の入学試験まで一月と迫っており、その試験の課題である、回復用の魔法薬の精製を行っていたが―。


「これが……こうして……こうして……ああで……」


 フェイは自分が調べた魔法薬の素材を、フラスコの中で混合させた。そしてそれに両手をかざし、魔力を込めようとする。


「う~む……! ふ~む……! おりゃあああああ!!」


 フェイは大声を上げ気合を入れる。その様子を横で見ていたアンヘルはビクッと身体を震わせるが、結局フラスコの中の薬品は何の変化も示さなかった。


「また……だめか……」


 フェイは落胆し、肩を落とす。フェイがここまで試験に落ち続けていたのには理由がある。頭が悪いわけでも、サボっているわけでもない。――単純に魔術師としての才能が絶望的に無いのだ。生まれつき持っている魔力が人並み以下であり、目指すだけムダ、ずっとそう言われ続けていた。


 本人もその現状について打開しようと思わなかったわけではない。魔力がない分知識でカバーしようとしたり、魔力を向上させるトレーニングや怪しげな薬、なんでもかんでも手を出した。だがそのすべてに効果はなく、ただ時間と金だけを浪費するばかりだった。そのために短期間で金が稼げるバイトや、観光客狙いのケチな犯罪に手を出し、何も為せないまま次で9回目の試験を受けようとしているのだった。


「……どうして何も反応を示さないんだ! 配合は完璧なはずなのに!」


 フェイはフラスコを床に投げ出し、机に突っ伏す。故郷で時計職人をやっている父や家族に反発して、魔術師になると家を出て8年。全く結果が出せないまま、ここまで来てしまった。フェイは机に突っ伏したまま、首を横に向けてアンヘルを見た。客の一人に言われた言葉が頭に繰り返される。『いい加減諦めろ』。だがフェイには諦めきれない理由もあった。だが――。


「フェイ……これで、いい?」


 先ほど投げ出したフラスコをアンヘルが手に取っており、フェイがいくら唸っても何も反応を示さなかった薬品が、綺麗な緑色に光っていた。


「な……!? あ……ああっ!?」


 フェイは驚きながらその薬品を眺めた。


「ちゃ……ちゃんと反応を示してる!? ……アンヘルか!? お前何やったんだ!?」


 アンヘルは首を振ってわからないと答えた。しかし薬品が反応したということは魔力が込められたということであり、アンヘルが魔法を使ったということになる。昨日まで赤ん坊だったのが急に5歳相当の見た目になり、言葉も話せるようになったうえに魔法まで使う。…触れてはならない存在だという思いが頭の片隅にはあったが、フェイの胸の中にはある希望が芽生え始めていた。


 ――アンヘルに替え玉で試験用の薬品を作ってもらえば、いけるのでは?


× × ×


 フェイは試験勉強を切り上げ、アンヘルを連れて街に出ていた。シヴァアトは大陸でも有数の港街でもあり、商業の流れが活発なためか、多数の露店が並んでいた。アンヘルはフェイに肩車をしてもらい、初めて見るその活気に顔を輝かせていた。


「フェイ! あれ! あのお菓子美味しそう!」


 アンヘルはカステラを焼いている屋台を指さした。


「ほいほい。じゃあ2つくらい買って、一つは持ち帰るかね」


 試験合格のためにはアンヘルの気を害してはならない。フェイはそんな下心もあり、アンヘルと仲良くなるために買い物に出ていた。道中、アンヘルはいろんなものを欲しがり、フェイはそれを全部買ってやった。――これはこいつを利用するためだ。そう自分に言い聞かせながらも、フェイは心のどこかに痛みを感じていた。


 しばらく街を歩き回り、アンヘルを肩車していたフェイは息を切らし、広場のベンチに腰を降ろした。アンヘルは広場の芝生の上で、買ってもらった馬のおもちゃを走らせて遊んでいた。


「フェイー! 見て見てー!」


 アンヘルはフェイの目の前で馬を走らせ、笑顔でフェイを見る。今日一日買い物に付き合わせたことで、多くの言葉を覚えたのか、朝に比べるとハツラツと話しかけるようになっていた。フェイはアンヘルの言葉に答え、笑顔で手を振った。アンヘルはフェイからの返事を受け取り、嬉しそうに走り回る。


 フェイはこの8年の間、ただ焦燥感と、先の見えない絶望感だけ感じてきた。ただ今だけは、この街に来て初めて充足感というものを感じることができていた。


 アンヘルはしばらく走り回っていたが、広場の反対側に人だかりができているのを見かけて足を止めた。どうやら大道芸人が芸を披露しており、多数の観客が集まっていた。


「フェイ。あれ何?」


 アンヘルはフェイに尋ねた。大道芸人の男は5つのコーンをもって、ジャグリングをしており周りにいた観客たちは歓声を上げる。フェイは気まずい気持ちでアンヘルと一緒に見ていたが、芸人の男がフェイと顔を合わせると、手を振ってフェイを呼んだ。


「フェイじゃねえか! どうした…って、その子供! ……お前子供いたのか!?」 


「ち……ちげえって! ちょっと預かってるだけだよ! ……それよりお前芸の最中だろ!?」


「いやそれがさぁ、交代要員のヤツが風邪拗らせて来れなくなってさ。トイレとか飯とか済ませたいんだけど代わりがいなくて……。バイト代出すからお前ちょっとやってくんない?」


「はぁ!? おま……代わりって……!」


 フェイは反論するが、アンヘルがフェイのことを凄い期待した目で見ていた。フェイは観念してため息をつきながら回答する。


「わーったよ。1時間場を繋いでやるから飯でも行ってこい」


「サンキュー!」


 芸人の男はフェイに道具一式を渡すと、急いで走っていった。フェイは男が元立っていた舞台に上がり、転がっていた道具一式を確認した。


「じゃあ……アンヘルは一旦下がってくれるか?」


 アンヘルは頷いて、フェイの後ろ側に下がった。フェイは一度深呼吸をすると、広場の観客たちに向き直り、大声で叫ぶ。


「さーて皆さん! この度はわたくしフェイが! この広場にいる皆様を驚きの渦に巻き込んでみせましょう!」


 客たちは拍手をして答える。フェイは一度礼をすると、地面に転がっていたコーンを一度に4つ投げ、それらを体を一回転させながらジャグリングを始めた。フェイは何度かバイトで大道芸人として芸を披露しており、慣れた風にジャグリング、両手からコインを出したり消したりする手品、バルーンアートなど様々な芸を披露していく。


 アンヘルはフェイが見せるそれらの芸を、屈託のない笑顔を浮かべながら見ていた。フェイも芸を披露しながらアンヘルの様子を見ており、アンヘルの笑顔を見るたびに、心の中の何かが浄化されていくような気がした。


 あっという間に一時間が経ち、フェイに代わりを依頼した芸人の男が戻ってきた。フェイはこれが最後のパフォーマンスとして、コーンを一つ取り上げた。


「さぁさぁ皆さん! 本日最後のパフォーマンスになります! これからこのコーンをお客様の下へお投げします! ですが安心してください! お客様には一切危害を加えません! このコーンを空中で消し去って見せましょう!」


 フェイはコーンを思いっきり上への投げ、観客から悲鳴が上がる。そして仕掛けてある紐を引っ張りコーンを回収するはず――が仕掛けが作動しなかった。やば――そう思った瞬間だった。


 空中でコーンが音を上げて破裂し、観客の下にコーンは落ちてこなかった。フェイは最初訳が分からなかったが、慌てて観客の前で取り繕う。


「せ…成功です! ご…ご臨席いただき、ありがとうございました!」


 フェイは頭を下げて礼をして、観客は盛大な拍手でフェイを見送った。慌てて後ろに下がったフェイは芸人の男に問い詰めた。


「お…おい! 何があったんだよ!? あの仕掛け失敗してたんだぞ!?」


「し…知らねえって! なんか気づいたらコーンが爆発してたぞ!?」


 芸人の男は答えた。フェイは残りの心当たりとして、アンヘルを見た。アンヘルは自慢げにフェイのことを見ており、フェイが合点がいって肩をすくめる。


「あ~……わかった。……とりあえずバイト代くれ」


 フェイは男から金を受け取ると、アンヘルを肩車してその場から離れていった。その様子を物陰から三角帽子を被った一つの人影が覗いていた。


「……あれは……もしや……」


× × ×


 黎明亭への帰り道の中、アンヘルはとてもご機嫌な様子で飴を舐めていた。フェイは先ほどの芸のことを思い返していた。動かなかった仕掛け、なぜか空中で破裂したコーン、そしてアンヘルの上機嫌ぶり。フェイはアンヘルを肩から降ろし、面と向き合った。


「……アンヘル。さっきの仕掛け、お前がやったんだな」


 アンヘルは満面の笑みで頷いた。フェイが褒めてくれると思ったからだ。フェイはしばし考えた。アンヘルの機嫌を損なわないためなら言わない方がいいこと、しかしフェイはどうしても言わなければならなかった。フェイは厳しい表情でアンヘル言った。


「駄目じゃないか、危ないだろう! もしあのコーンが爆発するのが遅かったらどうなってた! 怪我する人が出るかもしれなかったんだぞ!」


 予想と違うフェイの態度にアンヘルがびっくりして悲しげな表情を浮かべる。


「そして……次からは人前であまり魔法を使うな。今回は誰もケガしなかったから良かったけど……。人に当たったら痛い思いしちゃうからな」


 アンヘルはフェイを見ながら涙を流していた。フェイはアンヘルの頭をなでる。


「こういう時は“ごめんなさい”って言うんだ」


「ご……ごめ……ごめんなさい…!」


 アンヘルはたどたどしい口調で言った。


 フェイはアンヘルを抱き上げてやり、やさしい口調で言う。


「よく謝れたな。えらいぞアンヘル。じゃあ帰ってご飯でも食うか!」


 フェイはアンヘルを肩車して、大げさに動いてやる。許されたと感じたアンヘルは満面の笑みでフェイに答えた。


「うん! 私フェイのごはん食べたい!」


 アンヘルの笑顔にフェイもうれしくなって互いに屈託なく笑いながら、帰路についた。


× × ×


 それから1か月、アンヘルの体調に最初のような変化は見られず、穏やかな日々が過ぎていった。アンヘルはより活発的に明るくなり、今では黎明亭でのフェイの仕事も手伝うようになっていた。マーサもアンヘルを大変かわいがり、アンヘルもまたマーサに懐いてよく遊んでもらっていた。


 しかしフェイは日ごとにナーバスに、暗くなっていった。試験が1週間後に迫っているにも関わらず、アンヘルに手伝ってもらった薬品以外で成果が出せていないからだった。


 フェイは自分の部屋でひたすらに机に向かっていた。アンヘルをマーサに預かってもらい、一人で集中できるようお願いをしていた。次で9回目の試験になる。試験を受ける回数に制限はないが――もうギリギリ限界だった。


 ドアのノックの音が聞こえ、フェイは集中が途切れてうめいた。


「あー……誰っすか?」


 フェイは苛立ちながら返事をする。


「私だよ。入るけどいいかい?」


 マーサの声が聞こえ、フェイはぶっきらぼうにどうぞと答える。部屋に入ってきたマーサは一人であり、アンヘルの姿はなかった。


「アンヘルは?」


 フェイは尋ねた。


「私の部屋でおもちゃで遊んでる。……ちょっと話があるんだ」


 フェイの胃が不安でうねった。


「次の試験落ちたら、どうするんだい」


「……今から落ちることなんて考えたくないんですが」


 フェイは不満げに答えるが、マーサは真剣な表情をフェイに向ける。


「しっかり話しな! あの子はどうするんだい!」


 マーサの言葉にフェイはバツの悪そうな顔を浮かべた。


「あんたが望むなら、あの子と一緒にここで暮らしてもいいさ。ちゃんとお金を入れてくれるならね。だがそのために日雇いの不安定な仕事や、怪しげなことに手を突っ込んで、あの子をちゃんと育てられるってのかい!」


 フェイは答えに詰まった。考えなければいけないことだが、考えたくないことであり、成り行きとはいえ、自分一人の身ではなくなってしまったことが何よりも嫌なことだった。しかし、今更アンヘルを引き離すということは――考えられなかった。


「……すみません。すこし……考えさせてください。今は試験に集中したいんです」


 フェイはうつむきながら答え、マーサは立ち上がり部屋を出ようとする。そしてドアを閉める前に立ち止まった。


「もし……必要なら、あんたがここを引き継ぐのも構わないさ。あの子を学校に通わせる事もね」


 マーサはドアを閉め、部屋が静寂に包まれた。その静寂の中、フェイは自分の過去を思い出していた。


× × ×


 フェイは過去に魔神を倒した勇者が興したという『アルスリア』という町の出身で、時計職人の父の下で育っていた。母は幼いころに亡くなっていたが、父は自分が10の時に再婚して、3歳年下の義弟ができた。その義弟は自分と違って何でもできて、義兄である自分より、勉強も運動も人間関係もすべて勝っていた。あらゆる方面で完璧な成績を残した義弟は勇者の生まれ変わりと評されるほどだった。


 そして義弟からは軽蔑され続け、周りから常に義弟と比べられる環境に嫌気がさしたフェイは、故郷を出て魔術師となり、自分を軽蔑してきた連中を見返してやろうと決意し、シヴァリアにやってきた。しかしそこでも才能がないという現実にぶつかり、8年もずるずるとここまで来てしまった。


× × ×


「俺だって……わかってるんだ」


 フェイは目に涙を浮かべ一人呟く。そんな中、ドアがノックも無く開けられ、ドアがきしむ音で気づいたフェイは慌てて腕で涙をぬぐった。部屋に入ったアンヘルは、フェイの表情を見て心配するようにフェイに近づく。


「フェイ……どこか痛いの?」


 アンヘルがフェイの頭を撫でようと、背伸びして手を伸ばそうとする。フェイはアンヘルを抱き上げてやり、膝の上に乗せた。


「……大丈夫だよ。大丈夫」


 フェイはアンヘルを優しく抱きしめた。もう最初のころにあったアンヘルを利用するという思いは完全に消え去っており――フェイの中でアンヘルの存在が大きくなっていた。


× × ×


 マーサが1階に戻ると、魔術師特有のつばが広い三角帽子をかぶった、緑髪の妙齢の女性がカウンターに来ていた。


「いらっしゃい。女性が一人でとは珍しいね。この街の魔法大学に用かい?」


 マーサが宿泊受付をしようと帳簿を出そうとすると、その緑髪の女性はそれを止めた。


「いえ……少し質問したいことがあるの」


「……なんだい?」


「1月前くらいから、この宿屋に不思議な少女が泊ってない?」


「不思議って……そんなんじゃわかんないねえ」


 マーサはとぼけて答えた。


「例えば……急に成長したりとか」


 マーサは緑髪の女性を睨んだ。――心当たりしかないが、正直に答えるか否か、それを考えていた。


「……知らないねえ。それよりお客さん、泊っていくのかい?」


 マーサが選んだのは答えないことだった。緑髪の女性は落胆した表情を浮かべると、振り向いて宿から出ていく。


「すまないけど、もう宿は取ってあるの。でもいい雰囲気の店ね。次は利用させてもらうわ」


 女性が出ていくのをマーサは見届けると、フェイの部屋に行き、アンヘルの安否を確認しにいった。部屋ではフェイとアンヘルがベッドの上で疲れ切ってぐっすり眠っていた。マーサは安堵の笑みを浮かべ、二人にシーツをかけてやる。


 思えばフェイがこの子を拾ったとき、赤ん坊だったと言っていた。その時から嫌な予感はしていたし、この子が普通でないことも理解はしていた。だけど――。


× × ×


 試験が3日前に迫り、フェイは魔法大学で試験の手続きを行っていた。用を終えると、大学の教師が利用している研究棟へと向かう。そこの一階は喫茶室となっており、各々のテーブルに座っている者たちが、研究のための討論を行っていた。


「こっちだ。フェイ君」


 金髪の長い髪をした男性がフェイに声をかける。彼の名前はグランデ。この大学の教員であり、次の試験の試験官でもあった。呼ばれたことに気づいたフェイは頭を下げ、グランデのいるテーブルに座る。


「すみませんグランデさん。試験前で忙しいのにわざわざ時間取ってもらって」


「いや、かまわないよ。私はせいぜい試験の題目を出すのと、その後の事務処理くらいだから、今はむしろ暇なくらいさ」


 グランデはコーヒーを口につけながら言った。


「それで…何の用かね?試験の融通を利かせて欲しいというなら無駄だよ。実技の試験官は別の人間なうえに機械的に判定するからね。……君も詳しいだろう?」


「いえいえ試験は自力で受けますから…。…グランデさん、急に成長する赤子とかって知ってたりしますか?」


 フェイの話を聞いたグランデの眉が吊り上がる。


「……どうしたんだい。そんな藪から棒な質問を」


「いや……ちょっと資料調べてたらそんなのがありましてね。そういう人間とは異なる何か……が存在するなら、そこから俺が魔力を得る手段があるかと」


 グランデはしばし目をつぶり考え、回答した。


「魔物がそいういった成長過程を省略し、短期間で成熟するという話は聞いたことはあるが、人間では聞いたことがないな」


「そうですか……そうですよね。……じゃああの資料は魔物のことを指してたのかな?」


「仮に魔物のことを指していたとして、そんな研究資料を君はどのように使用するつもりだったのかね?」


 フェイは慌てて手を振って否定する。


「いえいえいえ!たまたま目を通しただけですから!だいたい次の試験は回復薬の薬効を示すって内容ですから!特になんかしてるわけでは…!」


 グランデは薄く笑みを浮かべ、立ち上がった。フェイがグランデが向かおうとしている先を見ると、黒髪の眼鏡をかけた痩せ型の男が、グランデを呼んでいるようだった。


「まぁ……君の知識や器用さは私も買ってるんでね。ぜひ次の試験は受かって私の課まで来てもらえると嬉しいよ。頑張ってくれ」


 グランデはフェイの肩をポンと叩き、その場を後にした。フェイは立ち上がって礼をする。


「は……はい! ありがとうございます!」


 グランデは手を挙げて答えるが、顔は一切笑っていなかった。


× × ×


 試験前夜、すでに日が変わり夜が更けているが、フェイはまだ起きて勉強をしていた。アンヘルがベッドで寝ているのを起こさないよう、明かりもできるだけ薄くして、机にかじりつくように資料に向かっていた。


 いまだ自力で薬効を示す薬品は作れず、アンヘルの魔力が込められた薬品だけが、机の上で緑色の光を薄く放っていた。フェイは肩を鳴らしながら椅子にもたれかかり、寝ているアンヘルを見る。もし明日の試験までに薬効を示すことができなければ、アンヘルの作った薬品を出すしかない。だがそれは――。フェイは立ち上がって寝ているアンヘルの側に寄った。


× × ×


 月明りだけが道を照らず夜中に、いくつかの影が黎明亭の周りを伺うように動き回っていた。


「本当にそうなんだろうな?」


「ああ、確かに信頼できる筋からの情報だ」


「……明日の朝、例の男が出た後に決行する」


 その影たちはいくつかの言葉を交わすと、闇に紛れて消えていった。その様子を建物の屋根から三角帽子を被った緑髪の女性が見下ろしていた。


× × ×


 試験当日。宿屋の朝食の支度をすませ、試験に出発しようとしているフェイは、がちがちに硬くなっていた。その様子をマーサやアンヘル、宿屋の客たちは不安そうに眺めていた。


「大丈夫かありゃあ」


「また落ちたら今度は9回目だっけ?」


「魔術師を目指さなきゃ、いくらでも道はあるだろうになぁ」


 あまりに緊張しているフェイを見かねて、客たちがそれぞれ思い思いのことを話していた。そんなフェイをマーサは背中から思いっきりひっぱたく。


「いつまでもガチガチしてるんじゃないよ! この子のためにも受からなきゃいけないんだろ!」


 マーサは手を繋いでいるアンヘルをフェイの前に押し出してやる。アンヘルはフェイの服を掴み、励ますように言った。


「フェイ! がんばって!」


 アンヘルの励ましを聞いて、フェイは強張らせた表情を柔らかくし、屈んでアンヘルの頭を撫でた。


「……ああ、そうだな! よし! 俺がんばっちゃうぞ!」


 フェイは全身の筋肉をほぐす様に、肩をぐるぐる回し、屈伸をした。そして入り口の前に立ち、全員に礼をする。


「皆さん! 心配しれくれてありがとう! こうなりゃやるだけだ! 行ってきます!」


 フェイは手を振って黎明亭から飛び出していく。時間に余裕を持っているから走る必要はないのだが、自分の不安な気持ちを誤魔化すように、あえて走って学園に向かっていった。そんな様子を見て、客の一人がマーサに声をかける。


「……実際落ちたらどうするんだ?」


 マーサは肩をすくめて客に答えた。


「まぁ……最悪この宿屋で雇ってやることもできるし……故郷に帰るってのもありそうだね」


「故郷に帰る、ね……。俺らとしてはあいつの飯が食えなくなるのは寂しいし……マーサさんアイツと再婚したら?」


「あのねぇ!私16の娘がいるんだよ!?まだ35だけどさぁ!」


 マーサは赤面して客に答えた。その時宿屋のドアが開き、黒いローブを被った4人の男たちが宿屋に入ってくる。


「いらっしゃい。朝食かい?それならこっちのテーブルに……」


 マーサは客として対応しようとするが、男の一人が剣を抜いて言った。


「お前の下にいる女の子を出してもらおうか」


× × ×


 魔法大学の試験は至極簡易的なものであり、出された題目に沿った成果物を出し、それが適切な効果を示せば合格となる。今年の試験内容は回復薬で、試験官が提出された薬品に魔法を当て、薬効を示すかどうか確認するというものであった。


 今年の受験者は80人ほどで、試験会場で全員の前で試験官が一斉に提出された薬品に魔力を与えていく。80人分の薬品の中で、十分な薬効を示したのは20個ほどであった。


「……これにて一次試験を終了する! 薬効が示された受験者は別室に移動するように!」


 周りが落胆し部屋から出るもの、一緒に受かったと喜んでいるもの、悲喜こもごもな様相の中、フェイはただ一人、机に座って動かなかった。――落ちた。また。


 そこからどうやってここまで来たかは覚えていない。ただ失意の中、フラフラと歩き回り、気づいたら黎明亭の前まで戻ってきていた。酒も飲んでないのに、帰る間の記憶がほとんどない。ただもう何もかも終わったということしか考えていなかった。昼に試験が終わったはずなのに、すでに日が暮れはじめるくらい、歩いていたようだった。


「あんたがフェイね」


 声をかけられて、初めてその人物が黎明亭の前に立っていたことに気づいた。三角帽子を被った緑髪の――魔術師だった。今は魔術師という言葉だけ吐き気がし、膝をついてえずいた。


「どわっ!? 顔合わせていきなりゲーゲーしないでよ!?」


 女性に怒られ、フェイは無理やり気合を入れなおし立ち上がる。そして女性に尋ねた。


「……で? どちらさんで?」


「……さきほどこの宿屋が謎の集団に襲われて……あんたが面倒見てた子が連れ去られた」


 フェイはしばらくその言葉を理解できず、立ちすくんでいた。そして言葉の意味を理解すると、すっ飛んで黎明亭の中へ入っていく。中は荒らされ……机がひっくり返され、物は壊れ、戦闘の形跡があった。


「すまない…。私が…奴らを止めようとして、こうなってしまった」


 フェイは緑髪の女性に詰め寄り、襟をつかんだ。


「アンヘルは……! マーサさんはどうした!」


「この店の女将さんなら部屋で寝てるわ……!」


 フェイは女性の襟を離すと、急いでマーサの部屋に向かった。部屋のベッドでマーサが寝ていたが、その体には包帯が巻かれていた。


「マーサさん!」


「遅いじゃないか……フェイ……」


 フェイはマーサが横になっているベッドに近づき、その手を握る。


「アンヘルは!? アンヘルはどうしたんですか!?」


 フェイに追いついた緑髪の女性は、フェイをマーサから強引に引き離した。


「動かさないで! 治療はしたけど重傷なのよ!」


「重傷…!?」


 フェイはマーサの手を離すと、よろめきながら後ずさり、椅子に腰を下ろした。マーサは苦痛にうめきながら、フェイに言った。


「そのお嬢ちゃんに……ミルリアに感謝しな……。その子がいなかったら今頃……」


「大丈夫ですか女将さん。回復魔法をかけ直しますから」


 ミルリアと呼ばれた女性は、マーサに回復魔法をかけ、マーサは呼吸が落ち着いていく。


「……少し話しましょうか」


 ミルリアは魔法をかけながらフェイに言った。


× × ×


 フェイが黎明亭を出た後、4人ほどの顔を隠した男たちが黎明亭にやってきて、マーサに剣を向けながら質問をしていた。


「お前の下にいる女の子を出してもらおうか」


 マーサはアンヘルをかばうように背後へと隠す。


「何言ってんだい? 私の娘は寄宿舎に行ってるから、ここにはいないよ!」


 後ろにいた男がマーサに魔法を放とうと魔力を貯めたその時、その男は後ろから飛んできた氷塊に頭をぶつけ、壁にたたきつけられた。


「早く逃げて!」


 ミルリアが宿屋の入り口の前に立ち、男たちに向かって氷塊魔法を連射する。客は慌てて窓や別の出口から逃げ出そうとし、1階はパニックになっていた。ミルリアは男たちの足を止めるため、杖を構えて突撃していく。一人は近づいた際に杖で殴り倒したが、残りの一人がこちらに火炎魔法を放とうとしていた。


 ミルリアは最初に氷塊魔法で気絶させた男を引っ張り上げ、魔法を放とうとしていた男にぶん投げる。魔法を放とうとした男はよけきれず、バランスを崩して倒れてしまう。男を立ち上がろうとしたが、ミルリアが追い打ちとばかりに顔面に氷塊魔法をたたきつけ、気絶させた。


「おばちゃん!」


 アンヘルの叫び声が聞こえ、ミルリアはとっさに声の方向を見る。マーサがアンヘルをかばって、残りの男の剣による攻撃をまともに受けてしまい、背中から血を流して倒れていた。


「クソッ!」


 ミルリアはその男に対し氷塊魔法を放つが、男はアンヘルを抱きかかえると窓から飛び出して逃げていった。


「待て!」


 ミルリアも窓から身を乗り出して追いかけようとするが、マーサのうめき声を聞いて足を止める。傷の度合いは深く、今すぐ治療が必要だった。そうしてマーサの様子を見たあとにはすでに手遅れで、アンヘルを連れ去った男の痕跡は無くなっていた――。


× × ×


 フェイとミルリアはマーサの様子を見ながら、横のテーブルに座り話し合っていた。


「おそらく女将さんに“あえて”重傷を負わせたんだと思う。あの子を攫うだけなら斬る必要もないし、生かしておく必要もない。……私に治療をさせて足を止めるため」


 フェイはうつむきながらミルリアに質問をした。


「アンヘルを攫ったやつに……心当たりはあるのか?」


 ミルリアは首を振った。


「ない。襲ってきた奴らはすでに官憲に引き渡したけど……身元につながるものは何も出てこなかったから。ただ女将さんを襲った手際からしてプロであるのは間違いないと思う」


「……じゃあお前はなんでアンヘルを張っていた?」


「今はそれを話してる時間はないわ。それよりもアンヘルちゃんのことを知っていると思われる人間に、あんたは心当たりはないの?」


 ミルリアの言う通りだった。フェイは必死に頭を回転させ、今までアンヘルに関わりがあったと思う人間をたどった。マーサ、大道芸人、宿に来ていた客、露天商の商人、そして。


「……グランデさん?」


 フェイは自分の口から出た言葉に自分で驚いていた。


「グランデ?」


 ミルリアはフェイに尋ねた。


「魔法大学の教師で……一度それとなくアンヘルのことを相談したことがある」


「魔法大学…!」


 フェイは自分で理論を組み立てながらも、まったくそれが信じられなかった。グランデとは5年くらい前から知り合っていて、アンヘルよりも付き合いは長い。それにアンヘルのことは何も明言していないのだ。だが。


「魔法大学は前からきなくさい話はあった。……あのようなプロを雇っていてもなんら不思議じゃない」


 ミルリアは合点がいったように言う。


「とりあえず私は確認のために魔法大学に行ってみる。あんたは女将さんの容態を見といて」


 ミルリアは立ち上がり部屋を出ようとする。フェイは一度立ち上がろうとして、迷った末に動けなかったが、マーサが怪我の身体を押してミルリアを止めた。


「待った!」


 マーサからの切実な声に、ミルリアは足を止めた。


「どうしました? 怪我なら…」


 マーサはフェイの腕をつかみ、ミルリアの方へ押しだした。


「この子も…連れてっとくれ」


 マーサの言葉に、フェイはおびえるように驚いた。


「俺が……!?」


 フェイは自身なさげに答えるが、マーサは怪我をしている身とは思えないほどの力強さで、フェイの腕を握る。


「あの子が……あんた以外に誰を信用するっていうんだい……!」


「でも……落ちこぼれの俺なんかじゃ……」


「ふざけるんじゃないよ!」


 マーサは無理やり身を起こしてフェイの襟首をつかむが、傷の痛みで咳をこんでうずくまってしまう。ミルリアがマーサに寄ろうとするが、マーサは手を出してそれを止める。


「……あんたが自分をクズだのなんだの言うのは構わないさ。……だがあの子は今、あんたの助けを待っているんだ……! あんたが拾ってやった時のように、あんたなら……って!」


 フェイはハッとしてあの夜を思い出した。ボロボロの身体を引きずりながら帰り、路地裏に捨てられていたアンヘルを拾った時のこと。あの時の俺は――何を考えていた?


「……私が保証してやる。あんたはクズでも足手まといでもない。……ただ生き方が下手くそなだけなんだよ……あの子を救えるのは……あんたしか……!」


 マーサは力を失い、ベッドに倒れこんだ。フェイはざわつく自分の胸を抑えるように、自分の胸倉をつかんでかきむしった。そして数瞬考え、思い切り息を吸い込む。


「うわあああああああ!!!」


 自分の胸の中の何かを吐き出すように叫び、そして壁に思いっきり頭を打ち付けた。――このバカ野郎が死ぬように、そう思いながら何度も。そして5回打ち付けたあたりでミルリアがフェイの肩を掴んで、打ち付けるのを止めた。ミルリアもフェイの胸中を理解していたのか、心配するでもなく、決意を促すように言う。


「……覚悟はできた?」


「ああ。……できたよ。俺の目的はもう……一つだけだ」


 額から血を流しながらも、フェイのその目は決意に光っていた。ミルリアはその表情を見て、やれやれといった表情を浮かべる。そして杖でフェイの頭を叩いてやる。突然の衝撃にフェイは頭を抱えるが、気づくと頭の傷が魔法で治っていた。


「じゃあ行くわよ。あの子を救いに……大学に」


× × ×


 フェイは一度自分の部屋に戻り、バッグに荷物をまとめると、ミルリアと共に黎明亭を出発し、魔法大学に走って向かっていた。日は暮れ始めており、魔法大学につく頃には夜になっていると思われる時間帯だった。


「あの子は……一体何なんだ? なぜ……攫われなきゃいけなかった?」


 フェイはミルリアに質問しながら、今までのアンヘルの異常さを思い出していた。赤ん坊からの急な成長、薬品の反応、コーンの爆発。


「私もあの子を初めて見たのは、1月前のあんたが広場で芸をやってるところだった。……もうあのころから魔法が使えるようになってたのは私も予想外だったし……赤ん坊だと思ってたから探すのも遅れてしまった。……あんたにも話しておくべきかもね。あの子の正体を」


× × ×


 アンヘルは両手両足を布で縛られ、石造りの部屋に閉じ込められていた。ドアは施錠され、天窓には鉄格子がかけられており、脱出は難しそうであった。アンヘルが閉じ込められている様子をグランデと、グランデの助手であるアンドレイが、ドアの覗き穴から覗いていた。


「この女の子が……本当に例の“裏返ったもの(リバーサー)”なんですか?」


 アンドレイはグランデに尋ねた。グランデは笑みを浮かべ答えた。


「ああ、あの“ゴミ”から話を受け、その筋の連中に調査させたから間違いない。なんせ同じようにあの子を狙っている奴もいたからな。おかげで何人か優秀な手駒を失ってしまったが」


「ゴミ……、あああの連続不合格者、8浪生のアレですか」


「あのゴミは私に気に入られたと勘違いして、余計なことをベラベラと話してくれたからな。おかげであの裏返ったものを手中に収めることができた……!その点は役立ったと言ってやるか」


× × ×


「“裏返ったもの(リバーサー)”? なんだそりゃ?」


 フェイは走りながらミルリアに尋ねた。


「人間でありながら、魔物に堕ちたもの。魔物は……この世界の魔力の流れの澱が形を取って、

生物として生まれるものだけど……たまにいるのよ、人間の状態で強い魔力を纏って、半人間半魔物になる存在が」


「…俺の故郷にも似たような話があったな。魔神だとかなんだとか」


「人がその裏返ったものに堕ちるには色んな過程がある。強大な魔力を浴びすぎたり、極度の絶望から魔に染まったり、……生まれつきだったり」


「つまりアンヘルは……?」


「そう、生まれつき裏返ったものになる定めだった。私は……私たちの故郷はそれを知っていた」


 フェイは足を止めて、ミルリアに詰め寄る。


「知ってた!? それはどういう……!」


「そういう運命の下に生まれた子ってことなの! ただ想定外だったのは生んだ母親が想像以上のろくでなしで、そこらへんに生まれたばかりの赤ん坊を捨てたってことよ!」


 フェイはアンヘルを拾った夜のことを思い出していた。路地裏に捨てられていた、産まれたばかりのアンヘルを。


「予言に沿って母親を保護したら、赤ん坊を捨てたって言って! いざ探したらすでに持ってかれてどこに行ったか分からず! しかも生まれてすぐ成長してたせいで、そもそも探すことすら困難だったわけ! あんたが大道芸やってた時に、あの子が魔法使ってたのを見てたからそっから追えたけど、確証をとったときには別の奴らが突き止めてたし!」


 ミルリアは詰め寄っていたフェイを突き放し、ローブの埃を払うように叩いた。


「ミルリア……あんた何者なんだ?」


「私はミルリア・アルスリア。あんたがさっき言ってた魔神を倒した勇者の末裔で……、今復活を遂げようとしてる魔神を止めるのが目的。アンヘルは……その魔神に繋がってる」


× × ×


 日が落ちて夜になり、大学にいた生徒は下校し、多くの棟の明かりが落ちて、大学内は静かになっていた。しかしまだいくつかの棟には人がおり、見張りも数多く立っていた。本当は深夜になってから侵入がしたかったが、アンヘルの身柄がここにあると決まったわけでもない。確認のためにも今すぐに動かく必要があった。


 フェイとミルリアは、見張りが立っていない裏口に回り、フェイはピッキングツールをバッグから取り出す。そして錠前を10秒ほどでこじ開け、すんなりとドアを開けた。その様子をミルリアが呆れた様子で見ていた。


「あんた……魔術師なんか目指さないで、鍵士にでもなった方がいいんじゃないの?」


「ふざけ……というかなんでお前俺が魔術師志望だって知ってんだよ!?」


 フェイは怒りながら尋ねた。


「いや、だって女将さんにあんたの話聞いてたし」


「マーサさん……!」


 フェイはがっくりしながら額を抑えた。


「というか手際よすぎるし……あんた本当に泥棒してないでしょうね?」


 ミルリアの質問を受け、フェイは一瞬硬直したあと、黙って走り去っていく。


「あ! ちょっと待ちなさい! あ……あんたね!」


「い……今はそれどころじゃないだろ!? とりあえずグランデさんがいる研究棟はこっちだ! でも俺も1階までしか入ったことないから、建物の見取りはわかんねーぞ!」


 フェイは走りながら前方の建物を指さす。石造りの建物で、最上階には尖塔が建てられていた。その尖塔でアンヘルは天窓から空を見ていた。今日は満月であり、月の光がアンヘルを照らしていた。


「フェイ……怖いよ……」


 アンヘルはうつむいてフェイの名前を、小さな声で呼んだ。見張りの警備員は時折のぞき穴からアンヘルの様子を除くが、明らかに不真面目な態度であり、時たま欠伸を浮かべていた。そのため気づかなかった。アンヘルが月の光を浴びるたび、身体に変化が起こっていることに。


× × ×


 フェイとミルリアは、研究棟の裏側に回り、窓にテープを張り音も無く叩き割り、内部へと侵入していた。


「こっからどうすんだ?」


 フェイがミルリアに尋ねた。


「外から見る限り、一番上の尖塔が怪しいからまずそこに向かいましょう。……一番手っ取り早いのは、そこらのマヌケを捕まえて尋問することだけど」


「怖いこと言うなオイ……」


 階段を上っていく途中で、ミルリアは各階に張り出されていたフロア表を確認していた。どうやらこの建物は5階建てで、この階段は4階までしか通じていないらしい。尖塔の方に行くには建物の反対側の階段から行く必要があるようだった。


「フェイ。とりあえず3階で一回……」


「うおっ!? ……お前ら何者だ!?」


 階段を上っている最中に、別の職員3人と鉢合わせてしまう。


「うわわわっ!!!」


 ミルリアは咄嗟にその職員たちを、華麗な杖さばきで殴り飛ばし気絶させた。その様子を見てフェイは呆れた表情を浮かべていた。


「お前……魔法使うより杖でぶん殴った方が強いんじゃ……?」


「うるっさいわね! さっさとコイツら隠すの手伝いなさいよ!」


 ミルリアが必死に職員を運ぼうとしていると別の男が顔を出してきた。


「お前ら……何やっ……!?」


 顔を合わせたミルリアとその男は驚きの声を上げる。


「「あーーーっ!?」」


 あの時の―マーサに重傷を負わせた男だった。その男はまずミルリア達に向かうでもなく、一旦引き返すと、大声で叫んで研究棟全域に伝えた。


「侵入者だーっ! 敵が3階にいるぞーっ!」


 その声をきっかけに、各階の警備員たちが集まってきた。呆気にとられ立ちすくんでいたミルリアがフェイだったが、正気を取り戻すとミルリアはフェイの腕を掴み向き合った。


「フェイ! いい! さっき女将さんを傷つけたヤツがここにいた……つまりアンヘルちゃんはここにいる! 私がこれからここで暴れて時間を稼ぐから、あんたはアンヘルちゃんを助けに行って!」


「お前一人でって……! そんなん無茶だろ!?」


「ど素人のあんたよりは遥かにマシよ! それにアンヘルはあんたしか信用しないんでしょう!? ……ほらさっさと行って!」


 フェイは何度かミルリアを見ながら、アンヘルを救うべく走り出していった。その様子を見て、ミルリアはフェイに叫んで声をかける。


「フェイ! アンヘルちゃんを救い出したら、まず私の故郷で保護する! だから…脱出したら私を待つこと! わかった!?」


「ああ! わかった! 頼んだミルリア!」


 フェイが行ったことを確認し、ミルリアは警備員たちを見下ろした。階段下の狭い通路に見えるだけで10人はいるようだった。


「単なる魔法大学に、こんなに警備員いる? ……あ、いるか、機密事項取り扱ってるだろうし」


 独り言を言いながらミルリアは笑い、杖を剣のように構えた。


「まぁ…久しぶりに本気ださせてもらおう…かな!」


 フェイは外から見て、尖塔があったと思われる方に向かっていた。下から衝撃音が聞こえ、棟全体が激しく揺れる。どうやらミルリアが大暴れしているようであり、おかげでフェイは警備員に出会うことなく、尖塔に向かう階段にたどり着いた。だが、このままこの階段は登れない。自分が例の刺客に会ったら、全く抵抗できずやられてしまう可能性のが高いからだ。フェイは窓から外を覗いた。窓から屋根伝いに尖塔にまで行けるようであり、最上階に天窓があるのが見えた。フェイは自分のバッグの中を覗き、ある道具を持ってきている事を確認した。


 × × ×


 尖塔の前でグランデとアンドレイは、下からの騒音に慌てて、警備員に確認を取っていた。


「何が起こってるんだ!?」


 グランデは警備員に詰め寄った。


「は! それが侵入者が現れ、3階で警備員相手に大立ち回りをしていると…!」


「……例の女が現れた。凡兵じゃあ時間稼ぎが精いっぱいだろう」


 グランデが警備員に詰め寄る中、刺客の男が息を切らして上ってきて、グランデに報告した。


「ではなぜお前はここにいる! その女を倒してこないか!」


 グランデが刺客の男に激しい剣幕で怒鳴るが、その男は鬱陶しそうに答えた。


「じゃあ、あの嬢ちゃんは奪われていいってことか?」


 男は尖塔の入り口のドアを指さした。


「俺はあの嬢ちゃんの確保が任務だ。だから下の時間稼ぎは雑魚に任せてきたんだが……。あんたがそう言うなら仕方ない。下に行って……」


「待て!」


 グランデは男を止めた。


「それならそうとさっさと言え!」


 刺客の男は呆れたようにグランデに言った。


「あんた……人使うのがヘッタクソだな……。まぁいい。女の他に、あの嬢ちゃんの世話をしてたホラ……あんたの言うゴミも一緒に来てたぞ」


「ゴミ……あああの落第生か。あんな奴どうでもいいだろう。それよりあの小娘だ。あの小娘を調べつくし、リバーサーの原理を解き明かせば、私は今の地位より…准教授にすらなれないこの立場よりもっと…!」

 

 余裕を見せるグランデに男はぼそりと呟いた。


「やれやれ……そんな小物ぶりじゃあ、そんなん無理だと思うがね……」


 ―突如、尖塔の上で爆発音が鳴り響き、建物が大きく揺れた。振動でその場にいた4人は膝を突き、再び立ち上がるのに数呼吸が必要だった。


「何があった!」


 刺客の男は上にいたであろう警備兵に対し叫んだ。しかし返事はない。


「ちっ!」


 刺客の男は尖塔の階段を上っていく。アンヘルを閉じ込めていた階にたどり着くと、そこは土煙が立ち込めており、警備員が部屋から吹っ飛んできたであろう瓦礫に埋もれてノビていた。

部屋を見ると外から壁を爆破したのか壁が無くなっていた。――そしてアンヘルも。


「こんな威力の爆発じゃあ嬢ちゃんも無事に済まないだろう!? まさか瓦礫に……!?」


 刺客の男はあたりを見回すが、そのような気配はない。そして少し考えてすぐに理解した。


「……しまった」


 刺客の男が尖塔の空いた穴から階下を覗くと、すでにフェイとアンヘルは地上にたどり着いており、走って逃げだそうとしていた。


「この爆発は罠だ! 奴らはすでに脱出している! これは俺たちを上に引き付けるための…!」


 男はグランデたちに報告しようと下に降りて行った。だがそこでは、想像だにしない光景が広がっており、男は今までの経験から瞬時に理解した。――俺はここで死ぬ。


× × ×


 この少し前、フェイは両手に壁を登る用途の鍵爪をつけ、密かに尖塔の天窓まで外から登っていた。ミルリアが下で暴れているおかげで、塔を登っているフェイに気づく者はいなかった。


 天窓に鉄格子がついているようだったが、長い間整備されてないのか錆びついており、バッグからノコギリを取り出し、一瞬で鉄格子を切り外した。フェイは天窓をノックして下にいるであろうアンヘルに呼びかける。


「アンヘル……! 聞こえるかアンヘル!」


 うずくまっていた何かがその音を聞いて、顔を上げた。フェイは驚きのあまり壁を離し、落ちかけて慌てて壁を掴み直した。――あれはまさか?


 とりあえず指を立ててアンヘルに声を上げないように指示をし、窓を叩き割ってロープを垂らす。本来アンヘルにロープに捕まって脱出は無理―という想定だった。だが“今”のアンヘルはそのロープに捕まり、フェイが引っ張り上げて救出することが可能になっていた。

 

 フェイに引っ張り上げられたアンヘルは、フェイに思いっきり抱き着いた。


「フェイ!」


 フェイもアンヘルを受け止め、力いっぱい抱き寄せる。


「アンヘル!」


 二人は壁にぶら下がりながら抱き合っていたが、そのうちフェイの顔が青ざめはじめた。


「お……重い……」


 フェイは命からがらアンヘルを壁に捕まらせる。――朝別れた時は5歳くらいの大きさだったはずなのに、今のアンヘルは12歳くらいの大きさまで成長していた。縛られていたはずの両手両足は、身体が大きくなった際に外れていた。


 『裏返ったもの』『半人間半魔物』『運命の子』。そういった言葉がフェイの頭の中に流れていたが、今はそれをすべて無視した。再会して改めて分かったのだ。自分がすべきことが何なのかを。


「私、分かってたから。フェイなら必ずきっと来てくれるって……!」


 アンヘルは目に涙を浮かべながら、フェイに言う。


「よーしじゃあ脱出だ。……あ、そうそう後でミルリアも紹介しないとな」


「ミルリア?」


 アンヘルは尋ねた。


「頼りになるお姉さんだよ。……あとで歳聞いとかんとな」


 フェイはロープを下に垂らし、一気に下に降りて行った。そしてフェイの部屋があったと思われる辺りに、黒い粘土のようなものをつけていく。


「何してるの?」


「爆薬をつけてる。ったく試験のために、色んな薬品常備しててよかったぜ」


「でも、私はもうこうやって外に……」


「ああ、これは脱出のためじゃないんだ」


× × ×


 そうして地上まで降りたフェイとアンヘルは、研究棟から走って離れていた。誰もが尖塔で起きた爆発に注視し、研究棟から走って離れるフェイとアンヘルの姿は、自然なものとなっていた。追手もまずはアンヘルの身柄の確認の為に尖塔に向かうだろう。


「ハハハ! 大成功! 爆発が起こったら様子を見に行くと思ったよ!」


「頭がいいっていうか……やっぱりフェイ、魔術師よりこういうのが向いてるんじゃ……?」


 アンヘルからの冷静な指摘に、フェイはがっくしと頭を垂らす。


「お前まで言うんかい! ……というか本当に一気に成長したなお前!」


 アンヘルはフェイの様子を見て笑った。


「女子は3日合わざれば刮目してみよ!でしょ?」


「そんな言葉教えた覚えねえぞ! ……マーサさんだな!? ったくあの人は……」


 だが次の瞬間、フェイは横から飛んできた黒い影に弾き飛ばされ、両腕の骨がグチャグチャになりながら、近場の木に叩きつけられていた。


「フェイ!?」


 アンヘルはその黒い影を見る。人ではない――4足歩行の形容しがたい“獣”。だがその姿に影が覆いかぶさると、人の形をした“何か”が姿を現した。


「さすが…“運命の天使”。たった1か月でここまで成長するとは」


 黒髪に眼鏡をかけた痩せ型の男。フェイは痛みに悶えながら身を起こし、その姿を見た。


「あんたは……グランデさんと一緒にいた……!」


 アンドレイは仰々しく礼をし、自己紹介をする。


「ええ。私はグランデ教員の補佐をしておりましたアンドレイ……そちらのお嬢さんと同じく、“裏返ったもの”でございます。ああ、もっともすでに補佐の業務は終わりましたが。グランデ教員が“事故”で亡くなったのでね」


× × ×


 尖塔の入り口前で、グランデが瓦礫に埋もれ、見るも無残な姿で事切れていた。刺客の男はかろうじて息があるが、起き上がることができず、血まみれの状態で壁にもたれかかっていた。


× × ×


 フェイは呼吸をするのも辛く、いくつかの質問がすべて咳へと消えていった。先ほどの突撃で、両腕だけでなく肋骨も複数本折れており、肺に骨が刺さっていた。


「いろいろ聞きたいという顔をしておりますね?ですがもう死ぬ定めのあなたに話しても無駄でしょう。それよりも運命の天使――アンヘルー―とはいい名前を付けていただいたではありませんか。アンヘル、私たちと共に来ていただけませんでしょうか」


 アンドレイはアンヘルに手を伸ばすが、アンヘルはフェイをかばうように立ち、拒否した。


「私は……フェイと一緒にいる!」


「もう自分で物事を考えられるようになっているのでしょう? あなたはその男……いやこの街にいる者たちと同じ、人間ではないのだと」


「だったらなんだっていうの!? 私は私! フェイは私がおかしいからって捨てたりした? 私を利用しようとした? ……どちらもしてない! フェイは……フェイは私の……!」


「もう、いい」


 アンドレイは一切の感情がこもっていない冷徹な口調で言うと、自身の身に再び影を纏わせた。そして低い唸り声があたり一面に鳴り響く。


「もとより、大人しく連れ出せるとは思ってはいない。なに、簡単に死なないということは私自身が一番よく知っていますからね」


 アンドレイは強大な狸のような化物に変身すると、雄たけびを上げ威嚇した。アンヘルは息も絶え絶えなフェイを見て、決意を込めた表情を浮かべる。


「私が、フェイを守る」


 アンヘルはフェイの懐から短刀を取り出すと、アンドレイに向かっていった。


「愚かな……お前ごときが私に!」


 アンドレイが巨大な爪をアンヘルに振りかざすが、アンヘルはそれに反応し避け、アンドレイの腕にナイフで切りかかる。


「な…!?」


 攻撃を食らったアンドレイと、それを見ていたフェイは驚いていた。おおよそ戦いの訓練を受けたことがないはずのアンヘルが、巧みなナイフ捌きを見せたのは想定外であった。


「フェイが勉強で忙しいとき、マーサさんが色々教えてくれたの。“なにかあったとき必ず役に立つから”って」


 フェイは言葉には出せなかったが、マーサに文句を言いたくなった。確かにアンヘルはとても怪しい存在だったが、それはないだろうと。だが皮肉にもマーサが懸念していた通り、教えたナイフ術は非常に役に立っていた。アンドレイの攻撃を間一髪でかわしながら、アンヘルは上手に立ち回っていた。――アンドレイに全く効いていないことを除けば。対してアンドレイは当たれば一撃必殺の威力の攻撃を、アンヘルの攻撃を全く意に介さず続けている。いずれはどちらが勝つか火を見るよりも明らかだった。


 それに、フェイの残りの命もわずかに迫っていた。呼吸がさきほどからできておらず、口から血が垂れ流しになっている。早く治療しなければ――何か――何か。


 その時、バッグの中からガラスの当たる音がした。フェイは残っている力すべてを振り絞り、折れた腕を使ってそれを取り出した。――そして感謝したくなった。自分の矮小さと、偶然に。

 

 アンドレイとアンヘルの攻防は5分ほど続き、均衡しているように見えた戦いも終わりが見えてきていた。アンヘルは汗まみれで息が切れており、アンドレイは体中に傷跡があるもののまだ余裕を浮かべていた。


「素晴らしい……! さすが運命の天使! 覚醒したばかりなのにこの力とは! なればこそ、あの方があなたを欲しがるわけだ! ……魔神を打ち倒すために!」


 アンヘルは息を切らしながらナイフを構える。


「ハァ……言ってることが……ハァ……わかんない……。ハァ……ハァ……。天使とか魔神とか……ハァ……」


 アンドレイはアンヘルの構えを見て、邪悪な笑みを浮かべる。


「私は単なる獣ではないのでね。もう無駄なことはしない。……あなたを狙っても当たらないのなら、当たる方に向かえばいい!」


 アンドレイは倒れているフェイの方向へ突進していった。


「しまっ……! フェイ!!」


 アンヘルは慌ててフェイを庇おうとアンドレイの進行方向に立つ。アンドレイは目論見が上手くいったとほくそ笑んだ。だが、その刹那アンドレイは見た。両手の上がらないフェイが、薬瓶を咥え、上体を起こすようにそれを――緑色の液体を飲んだことを。


 アンヘルは激突する寸前、恐怖で目をつぶった。――だが想像していた衝撃は来ず、代わりに何か暖かいものに身体が包まれていた。恐る恐る目を開け、自分の体を包んでいるものを見る。


「ま……まさか……!」


 アンドレイが驚愕の声を上げる。そして自分を包んでいたものが分かったアンヘルは、自分を掴んでいる者の名前を呼んだ。


「フェイ!」


 フェイはアンヘルの脇に抱きかかえ、間一髪でアンドレイの突撃をよけていた。だが、その様子は明らかにおかしい。呼吸の荒さは収まらず、顔色が非常に悪くなっていた。


「フェ……フェイ?」


 アンヘルに声を掛けられ、フェイはやせ我慢の笑みを浮かべた。身体が熱いんだか寒いんだかわからない。全身の折れた骨が超速で治ろうとして身体中から不快な音が鳴り響き、そして―体の奥底から訳の分からない何かが溢れだそうとしていた。


「この……ゴミがぁぁぁ!!!」


 アンドレイがフェイに攻撃を仕掛けるが、フェイはその攻撃をアンヘルを抱えながら飛んで回避した。今までの自分の身体能力からは考えられない力だった。そしてそのまま、アンドレイの空いた腹部にパンチを入れる。だが、全くそれは効いておらず、逆にアンドレイに殴られて後方に吹っ飛ばされた。


「ゴミが何をしたか知らないが、そんなもので私を…!?」


 だがフェイは再度起き上がった。まだ薬が効いているのか、今のダメージも薬の効果によって既に治りかけていた。だが、このままでは薬が切れれば勝ち目はない。何か武器は――。アンドレイは自分のバッグをアンドレイから目を離さず調べ、何か柔らかいものを掴む。そうか。


 フェイは自分を心配するように見るアンヘルを見た。先ほどアンヘルが言っていた言葉がずっと頭に残り続けていた。フェイは懺悔するように、アンヘルに言う。


「……アンヘル。お前に謝らなきゃいけないことがある」


「な……なに? フェイ?」


「さっきお前が言った『フェイは私を利用しなかった』。あれは違うんだ。俺は……お前を……」


 アンドレイは目を赤く光らせ、まるで理性が無くなったかのようにフェイに突撃してきた。フェイは自分で異常に集中力が高まっていることが実感できた。――見える。アンドレイの攻撃をすんでのところで避け、アンドレイの傷跡に何かを埋め込んでいく。


「試験のために作った薬品が、俺自身の魔力でどうにもならなかったとき、お前が魔法を使って魔力を込めるのを見て……俺は……俺はこいつは利用できると思ったんだ」


「グバァァァァァ!」


 アンドレイの左腕の攻撃をフェイは避けるが、その勢いでアンドレイは思いっきり振り向き、しっぽをフェイにたたきつけ、アンヘルがいる方にはじき飛ばした。アンヘルは急に飛んできたフェイを避けることができず、二人は衝突してしまう。


「フェイ! しっかりして!」


 アンヘルは辛うじて直撃によるダメージを防ぎ、うなだれているフェイを起こそうとする。だがフェイはアンヘルの腕をつかみ、顔を上げた。その顔には涙を浮かべていた。


「試験にお前の薬を持って行ったんだ……! でも直前になって怖くなって……結局自分の薬を出して……試験に落ちた。……ごめん。本当にごめん……!」


 アンヘルはフェイの手をそっと掴み、一緒に立ち上がった。そして優しくフェイに言った。


「ううん。フェイが追い詰められてたことは知ってたし……むしろ私はフェイに頼ってほしかった。だから、もう一人で抱え込まないで。私も……一緒に戦うから!」


 その言葉にフェイは自分の胸の中の闇が――罪悪感が赦されるような感動と、感謝を覚えた。アンヘルの顔が眩しく、直視することが困難なほどに。だがフェイは目をそらさなかった。――そらしてはならない。そう思ったからだ。


 フェイはアンヘルの手を掴み立ち上がると、目に溜まっていた涙を腕でぬぐった。そして共にアンドレイへ向き直り、決意を新たにアンヘルに言う。


「……そうだな。じゃあ……行くぞ! アンヘル!」


「うん! フェイ!」


 フェイとアンヘルは共にアンドレイに向かっていった。アンドレイは両手を上げ、目の前の地面にたたきつけ、地面の破片をフェイとアンヘルに飛ばした。二人はそれぞれ左右に別れてそれを避ける。アンドレイはアンヘルの攻撃力の低さを考え、フェイの方を優先して攻撃を仕掛けた。フェイはアンドレイの攻撃をギリギリでよけながら、背後にあった木に誘導する。アンドレイの爪の攻撃で木が倒れると、それはアンドレイの顔面に倒れてきた。


「ちょこざいなぁ!」


 アンドレイはそれを弾き返し、フェイは避けきれずに木に直撃してしまう。アンドレイはフェイにとどめを咥えようとするが、突然左目に灼熱が走り、視界が真っ赤に染まった。


「ぐああああああっっっ!!??」


 アンヘルが一連の行動の隙を突き、アンドレイの左目にナイフを刺したのだった。突然の痛みにアンドレイは暴れだし、アンヘルは弾き飛ばされる。その間フェイのことを完全に目を離してしまったことに気づき、フェイの方向を見直すがどこにもいない。


「どこが! ゴミクズがぁ!」


「ここだよ」


 フェイはアンドレイの左目の死角に潜り込んでいた。そしてマッチ棒に火をつける。


「さっきからゴミとかなんとか、グランデさんと一緒に俺のこと影でそう呼んでたのか? ……まぁいい、あんたがグランデさんを殺した理由は想像つくけど……あの世でまた仲良くやってくれ」


 フェイはアンドレイの傷跡から盛り出た黒い粘土に火をつけ――アンドレイの体中で爆発が起きた。各傷跡から連鎖して爆発が発生し、そのたびにアンドレイは身体を歪める。


「ぐああああああああっっっ!!!???」


 10秒くらいその爆発は続き…そして爆発が終わったころにはアンドレイは動かなくなっていた。フェイはアンドレイが息絶えたことを確認すると、その場で力尽き仰向けで倒れた。


「アンヘルの攻撃は無駄じゃなかったさ。あんたの体中に爆薬を詰め込むスペースを作れたんだからな。……ああ、あとこれも言うべきかな。“試験勉強は無駄じゃなかった”ってな」


「フェイ! アンヘルちゃん! どこにいるの!?」


 遠くからミルリアが二人を呼ぶ声が聞こえた。どうやらミルリアも警備員を片付けて脱出にまでこぎつけたようだった。フェイは力の入らない足を無理やり奮い立たせ、起き上がった。


「よし、いこうかアンヘル」


 フェイはアンヘルに手を伸ばす。


「うん。フェイ」


 アンヘルはフェイの手を握り返し、二人はミルリアの下へ走っていった。


× × ×


 そして夜が明けた。魔法大学の一連の事件はニュースになったものの、フェイとミルリアの侵入劇より、巨大な魔物が学園内で息絶えていたことの方が話題になっていた。さらにグランデ教員が研究棟で身体を食われて亡くなっていたこともあり――この事件は成果を焦ったグランデ教員が、管理していた魔物の運用を誤り、何とか安全装置が働いて処分したものの、グランデ教員も相打ちの形で死亡、という筋書きに変わってしまった。本来アンドレイがすべての罪をグランデに着せるために殺害したのを、結果的にフェイ達が利用する形になったのだった。


 フェイは自分の部屋で荷物をまとめていた。表向きのニュースはグランデの自滅ではあったが、自分もミルリアも警備員に顔を見られている。今回の首謀者が全員死んだため、黎明亭まではたどり着いていないかもしれないが、このままここにいたらマーサにも迷惑が掛かってしまう。ミルリアに事前に聞いていた話通り、アンヘルの保護のためにミルリアの故郷に向かうことにしたのだった。


 処分しきれない機材などは、マーサに全て金に換えていいとは話している。今まで迷惑をかけてきた分返せるほどではないが、これが今の精いっぱいだった。部屋から出る直前、フェイは自分の部屋をもう一度見た。8年間住んだ部屋。もう戻ってこれないだろう。


 1階ではミルリアとアンヘルがすでに荷物をまとめ終わり、テーブルに座って朝食をとっていた。マーサもミルリアの回復魔法により動けるくらいには回復しており、朝の仕込みの準備をしていた。降りてきたフェイを見て、マーサはフェイに駆け寄る。


「…寂しくなるね」


 マーサは言った。


「すみません、何もかも急で。俺が抜けた穴…どうしましょう?あと店の修繕費」


 マーサは笑ってフェイの肩をたたく。フェイはまだ怪我が治りきっておらず、痛みに顔を歪めて呻いた。薬の効果はどうやら戦っている最中に切れたようで、あの時のような身体能力もすでに発揮することができなくなっていた。


「まったく、あんたはマジメなんだかそうじゃないんだか! お金は心配しなくていいさ。それにあんたがいなくても、店は回せるよ」


「それは……よかったです……ただお金は絶対後で返します……」


 フェイは痛みにうずくまりながらマーサに言った。マーサはそんなフェイに全くしょうがない子だと思いながら――力いっぱいフェイを抱きしめた。


「身体には気をつけな。そして……アンヘルをしっかり守るんだよ」


 フェイはマーサの後ろに回した手をどうするか迷ったが、フェイもマーサを強く抱きしめた。


「今まで…ありがとうございました」


 しばらく抱き合い続け、そして離れた。次にマーサはアンヘルの下に向かい、抱き上げる。


「少し目を離したうちに大きくなったもんだ。……あんたの相棒は頼りないからね。あんたがしっかり見てやってね」


 アンヘルはマーサの言葉に疑問符を浮かべた。


「あい……ぼう……?」


「そう、相棒だ。……父親役っていうには、少し頼りなさすぎるしね」


 マーサはアンヘルを降ろした。フェイは恥ずかしいやら気まずいやらで、二人のやり取りから赤面して顔をそらした。そんなフェイをミルリアはからかうように肘で小突く。マーサとの別れの挨拶が終わったこと確認し、ミルリアは荷物をもって出発を促した。


「じゃあ女将さん。そろそろ出発します。この二人は私が責任をもって見守りますので」


 かしこまった態度をとったミルリアに、マーサは笑顔で耳打ちをした。


「あんたさん。そんなしゃちほこばらなくてもいいんだよ。無理して年長ぶらなくても、フェイもよっぽど年上だからね」


 ミルリアは赤面し、マーサに一礼すると慌てて黎明亭から出た。フェイとアンヘルも荷物を持ち、マーサに一礼をすると、手を振って店から出ていった。


「さて……まずは店を片付けなきゃね。さ~てこれから忙しくなるねえ……全く……」


× × ×


 まだ日が昇りきっていない道を、3人は歩いていく。先頭を早歩きで歩くミルリアにフェイは声をかけた。


「なぁ……お前って歳いくつ?」


 フェイからの質問にミルリアは怒った表情を浮かべ振り向いた。


「あんた女性にそんな質問する!?」


 ミルリアから杖を向けられ、フェイは手を挙げて謝った。


「わりーわりーって! ただ、まだまともに自己紹介もしてないからって思っただけで…」


 ミルリアは杖を収め、再び歩き始めようとするが、動きを止める。そして小さな声で恥ずかしそうに言った。


「…27歳」


 それを聞いたフェイは肩透かしを食らったようにミルリアに言った。


「27?な~んだ同い年じゃねえか。もっと年上かと思ってどうしようかと…」


 ミルリアは驚きながらフェイに振り向いた。


「同い年!? ハァ!? そっちの方が驚きだわ! あんた受験生で、なんでそんないってんのよ!? というか何回試験受けてたの!?」


「う……うるせぇ! もう諦めたんだからいいだろうが!」


 フェイとミルリアの言い争いを呆れながらアンヘルは眺めていた。そして来た道を振り返ると、ちょうど日が建物の屋根から顔を出し、3人を明るく照らし出した。


「綺麗……」


 アンヘルが太陽を見て呟き、その言葉を聞いたフェイとミルリアも言い争いをやめ、昇りゆく太陽を見上げた。アンヘルはフェイ駆け寄ると、フェイの服を引っ張って、両手を上げた。


「どうした?アンヘル」


 フェイはアンヘルの行為の意味が分からず質問してしまったが、ミルリアがフェイの頭を小突きながら言った。


「抱っこしてほしいってことでしょ。ほら、持ち上げてやんなさいって」


 フェイは小突いてきたミルリアを少し睨み、アンヘルを持ち上げてやった。昨日までのアンヘルと違い、非常に重く感じたがまだ持ち上げられるようだった。アンヘルはフェイに持ち上げてもらい、右手でフェイに捕まりながら、左手で太陽に手を伸ばした。


「お日様、こんなに綺麗だって思わなかった」


 アンヘルは言った。


「……こんな気分で朝日を見るのはいつぐらいぶりだろうな」


 フェイも左手でアンヘルを抱きしめ、右手で太陽に手を伸ばす。8年間、朝日を見るときはだいたい悪いことがあったときだった。一晩中借金取りから逃げ回ったり、袋叩きにあって道端で目を覚ましたり、試験に落ちたショックで朝まで酒を飲んでいたり。だが、もう後悔はしない―したくない。フェイは横で太陽の光に輝くアンヘルを見て、決意した。


「もう何があっても挫けない。俺は……お前を守る」


「うん、私もフェイを守る。何があっても、必ず」


 二人を照らす朝日は、これから先の彼らの行く道が、光で照らされたものと暗示するようなものであり――二人の背後に長く伸びる影はこれからの行く末も暗示するようであった。だがフェイの心にもう迷いはない。ただ―為すべきことを見つけられたのだから。

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