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ただ悪役令嬢を救いたかっただけなのに

 俺っちはナレオ。しがない元貴族で現召喚魔法士。その実は転生者だ。


 まあよくある話だ。気付いたら騎士を代々輩出している下級貴族に転生していた。ある日俺っちは此処が乙女ゲームの世界だって気付いたんだよね。いやー、転生って本当にあるんだねー。


 前世を思い出した俺っちは、まず真っ先に魔法に習得を始めた。何故かって? だって魔法だよ、魔法! 人類の夢と言っても差し支えない代物だよ? そりゃ真っ先に習得するっしょ。


 そしたら両親に怒られて、勘当された。曰く、「騎士の家系なのに魔法に現を抜かすとは何事か!」だってさ。


 参ったね、どうも。


 まあ、勘当されたのは逆にチャンスだ。色々動ける時間が増える。

 

 このゲームは乙女ゲーでありながらRPGゲームとしての側面も持つ。主人公を操り、敵と戦って友情と恋愛を育む訳ですな。


 シナリオはこうだ。

 剣と魔法の国のとある魔法学園に、女主人公が入学する。そして学園に通う王子と出会い、仲良くなる。ところがどっこい、それを快く思わない悪役令嬢が悪い貴族に唆されて、禁断のマジックアイテムに手を出してしまうという流れだ。


 そして話は大きくなって、これが魔王達の企みだと分かり、女主人公は王子他学園の仲間と共に魔王討伐の旅にいくというものだ。


 まあよくあるヒロイックファンタジーというやつだな。


 でもって、俺っちが前世の記憶が蘇って真っ先にどうにかしたいなぁと思ったのが、この悪役令嬢様だ。


 彼女の実家……というか、生まれは結構ドロドロしていて、両親ともに想い人がいるのに貴族の利害関係で婚約・結婚してしまい、しかし双方ともに割り切った関係での結婚だった為双方公認の浮気を続行しているのだ。


 可愛そうなのが、この悪役令嬢――リーゼロットお嬢様。双方合意の上の浮気前提の結婚だった為に、生まれ彼女は孤独だった。両親共に利害関係での結婚で出来た娘だからねえ。愛してあげて、と言うもの酷なんだろうけど……全くの放置というね?

 現代だと育児放棄っていう立派な虐待だよ、それ……。まあこの世界の倫理感とは前世とまた違うって分かるけどさあ……ゲームしててもあれはねえ……。


 でもって、愛されたい悪役令嬢様は愛されようとドンドンと狂気に走っていく。同じく利害関係で婚約者となった王子に愛されようと努力はするが、愛されようとするあまりに女主人公に嫉妬し、ずぶずぶ深みにはまっていく。いやもうマジ此処まで堕ちるか⁉ っていうくらい堕ちる。 


 この悪役令嬢の最後は、禁忌の品に手を出して、主人公と王子達にボコられてやられる。そして断末魔で「私は、ただ……愛されたかっただけなのに……!」という悲痛な叫びと共に回想と言う形で彼女の過去が明らかになり、死亡する。


 因みに過去の回想のシーンでは「お父様とお母様は、またお仕事?」という台詞と共に独りで食事をしたり、母親が「あの子を産んで、貴族としての義務は果たしたわ。これからは、貴方だけを愛することが出来る」と愛人(本命)に愛を囁く母親の声をドア越しに聞いたりする。


 救いは……救いは無いんですか!!!


 当時のゲームプレイヤー達の心境はまさにそれ一色だった。まあ悪役令嬢リーゼロットお嬢様は、序盤で死んでそのままフィードアウトしてゲームしてたら自然と忘れ去られていくようなキャラだけど。


 でもまあこうして転生した以上、なんとかしてあげたいと思うのが転生者。いっちょ一肌脱ぎますか!


 俺っち、人が死ぬ物語は好きじゃないものでね?




   ◇   ◇   ◇




「これを使えば……殿下に〝愛される〟の?」


 金髪の縦巻きロールという、如何にも悪役令嬢っぽい髪形(偏見?)のお嬢様――リーゼロットが呟く。


「ええ、リーゼロット様。このマジックアイテムを使いこなせれば、きっと殿下に必要とされ、愛されるでしょう!」


 猫なで声の貴族の禿()げ頭のおっさんが(うやうや)しく首を垂れる。


「さあ、ご令嬢様……こちらを……」


 リーゼロットの前に(たたず)む妙齢の美女がねっとりとした声で一冊の黒の装丁の書物を差し出す。禁断のマジックアイテム――呪典外法書(じゅてんげほうしょ)を。



 ――此処、だ!



「ちょい待ったああああああああああああ!」


 人気のない倉庫に、ガラス窓がぶち破られる音が響く。ガラスの破片が部屋に散乱し、振り返り驚


くリーゼロットと彼女を取り巻くおっさん達!


「てえええええええい!」


 俺っち渾身の跳び蹴りが禿げ頭のおっさんに炸裂し、吹っ飛ぶ!


「げほあ⁉」


 ふ……決まった!

 ぶっ飛んだ禿げ頭のおっさんはぼよんぼよんと軽快な弾力で倉庫の中を跳ねて転がり、そのままピクピクと痙攣しながら白目を向いて意識を失う。


「へ⁉ なっ⁉」

「っ!」


 驚いて目を丸くするリーゼロットと素早く後ろへ跳ぶ美女。


「リーゼロット様、此方へ!」

「っあ、あの……!」


 戸惑うリーゼロット様の手を取って正規の扉の前まで移動! ふはは、人質の身柄は確保したぞ!


「き、貴様……! わ、私を誰だと……!」


 のろのろと起き上がる禿げ頭のおっさん。うん、悪いけど……。


「知らん!」


 思わずきっぱり叫んじゃう俺っち。顔を赤くして憤怒の表情になるおっさん。すいやせん、俺っち正直者なもので……テヘ♪


「そこまでだ」


 ばあん、と扉が開け放たれる。視線が集中し、


「大臣、おとなしく縛に就くがいい」


 サラサラ金髪緑眼のこの国の王子、ラルフ王子が現れる。


「ら、ラルフ王子……!」

「っラルフ……様」


 驚く大臣と呆然と呟くリーゼロット様。そして、


「潮時、か」


 舌打ち一つ。妙齢の美女は忌々しそうに顔を醜く歪ませると、

 ドロン


「っ!」「っやはり!」


 目を見張るリーゼロットとラルフ。妙齢の美女だった女の下半身が突如巨大な蛇の尾となり、クスッと邪悪な笑みを浮かべ、一言。


「ご機嫌よお♡」


 それがけ言うと光り輝く魔法陣が蛇女の周囲に浮かび、転移魔法で何処ぞへと消える。

 あいやー……逃げられたかー。まあしょうがないよねえ。


「お、おい! 私を置いて行くな!」


 泡を吹いて叫ぶおっさん。うむ……見捨てられましたな。



「ら、ラルフ王子! わ、私はですな……!」


 あわあわと目に見えて慌てるおっさん(大臣らしい)。懸命に身の潔白を訴えているが、


「連れて行け」


 ラルフ王子は一蹴。後ろに控えていた制服を来た部下の人達がぞろぞろ出て来ておっさんを連れて行っちゃった。

 うーむ……結構あっさりと終わったな。まああの蛇女(ラミア)が逃げたから……そういうものかな?

 うんうん独り頷いていると、


「リーゼロット様!」


 扉から、赤色の髪のショートカットの少女が猛ダッシュでリーゼロットに駆け寄った。


「っレ……ナ……さん」


 困惑するリーゼロット。それもそのはず。彼女、レナはリーゼロットがこの学校に入学してからずっと敵視していた学友だからだ。

 理由は――まあよくあるお約束というもので、平民出身でありながら努力してこの王侯貴族御用達のこの国最高峰の学園に入学した上、そんな経緯からラルフ王子の興味を引いたから、というものだ。

 まあ完全な八つ当たりなんだけども……悪役令嬢ことリーゼロットの人生を思うとねえ。

 彼女は両親から愛されないから、代わりを求めた。その相手がラルフ王子。彼女の望みは誰かに〝愛される〟こと。

 ……何とも、言えないねぇ。


「わ、たし……」


 ポツリと、言葉が漏れるが……それ以上何を続けるべきか分からずといった風に詰まるリーゼロット。それに、


「リーゼロット様、大丈夫ですか⁉」


 しゃがみ込み、ぎゅっと手を握るレナ。


「っ心配……して下さる……の、ですか? だって、私は……」


 目が泳ぐリーゼロット。まあ色々陰険なことしたり言ったりしていたもんね。「庶民がこの学園に入学するばかりか、ラルフ様の傍に侍るなんて!」みたいな感じで散々嫌味も言って、嫌がらせもしていたようだし。

 でも、ヒロインのレナにはそんなの関係ないのだ。


「わ、私……貴族の作法とか、知らなくて! だから、リーゼロット様が怒るのも無理なくて……いや、私が怒らせているのがそもそもの原因で……だから……えっと……」


 しどろもどろになりながら言葉を拙くも伝えるレナ。うんうん。この二人はラルフ王子を巡って対立してしまっただけで、お互いを分かり合えれば良い関係になると思ったんだよねー。


「ナレオ殿」

「んあ?」


 名前を呼ばれ振り返ると、此方を神妙な表情で見つめるラルフ王子の姿。

 おおう、ラルフ王子か。いけないいけない。凄い間抜けな声を上げちゃってたぞ。


「すまない。君が教えてくれなかったら、僕は婚約者を危険にさらすどころか、取り返しのつかないことになっていただろう」


 そう言ってお辞儀するラルフ王子! お、おおう。王子様に頭を下げられるとは……光栄だけど、御付きの人とかに夜道で斬られそう。


「あ、頭を上げて下さい! お、俺っちは大したことしていないんで!」


 あわわ、と慌ててラルフ王子の頭を上げてもらう。いやもうマジ吃驚(びっくり)した。リーゼロット様とレナもこっち見て驚いているし。


「いや、奸臣(かんしん)佞臣(ねいしん)に気付かず、危うく婚約者を利用されるところだった。下手をすれば僕は国家の恥さらしとして、王位継承権を放棄しなければいけない可能性もあった。何度感謝の言葉を述べても足りないだろう」


 そう言うと、ラルフ王子はじっと俺っちの顔を見つめて……再び頭を下げる。


「どうか、これからも僕に力を貸して欲しい」

(ん……ん?)


 ふむ、とラルフ王子の言葉を脳裏で反芻する。『力を貸す』……うん、これは悪くない展開だ。前世の記憶を利用してなんとか改変したい箇所はこの先も幾つかある。上手く立ち回ってラルフ王子との繋がりを保てば、この後の展開をコントロール出来るかもしれない……って、凄い黒幕っぽい言い方だけども。


(悪くない提案……どころか、俺っちにとって最良かも!)

「はい! お任せ下さい! 俺っちに出来ることなら、喜んで力を貸しますよ!」


 この時、俺っちは特に深く考えずにラルフ王子の言葉に頷いたのだった。

 ………………

 ………………………………

 ………………………………………………




 そして――現在。




「いくぞ、魔王! これが最後の戦いだ!」

『ク、カカ! 愚かなる勇者と祀られし人の子よ! ここが貴様らの墓場よ!』


 王子兼勇者ラルフの言葉を、嘲笑で返す魔王。

 はい。俺っち今絶賛最終決戦の場にいます。

 ………………って、


(どうしてこうなったあああああああああああああああああああああああ⁉)


 最終決戦という場面で、思わず叫びそうになった俺っちでした。





 なろうでは初めての投稿になります。小説投稿サイトのシステムを理解したりなどする為にお試しで書いてみました(その割に時間掛け過ぎましたが……)。

 面白ければ高評価とブックマークをお願い致します。感想も頂けると幸いです。ツイッターなどで紹介してもらえたら嬉しいです。続編は近日中に上げます。

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