098 事件の全容解明
俺たち『暁の銀翼』は指名依頼を達成したということで、伯爵様から依頼書に署名をいただいた。
そのあと、すぐにこの領都にある冒険者ギルドのラドハウゼン支部を訪れた。ちなみに、報酬は100万ベルの契約になっている。…って、高っ!
お昼過ぎのギルド内は閑散としていて、窓口には行列も無く、すぐに手続きを進められそうだった。
「こんにちは。依頼達成報告をしたいのですが…」
「はい。それでは冒険者カードと依頼書のご提出をお願いします」
受付のお姉さんは、ここでもやはり美人だったよ。てか、美人しかギルドの受付嬢にはなれないのかな?
俺は四人全員分の冒険者カードと署名済みの依頼書を窓口に提出した。
「依頼書にあるこの署名ですが、筆跡に間違いは無いようですね。確かに依頼の達成を確認致しました。こちらが報酬になります」
トレイに載せられていたのは白金貨が1枚だった。
「すみませんが、大金貨10枚でお願いできますか?」
「はい、もちろん大丈夫ですよ」
この10枚を分配するんだけど、基本的には四人で山分けだ。
一人当たり大金貨2枚(20万ベル)で、残りの2枚はパーティー資金とする。なお、パーティー資金については、俺のノートに記載して管理しているよ(出納帳だな)。
てか、ほんの数日の仕事で、普通の人の一か月分の報酬を得たわけだ。やはり冒険者って素晴らしい。
「ねぇねぇ、このあとどうする?この街を観光する?」
サリーの問い掛けにアンナさんが答えた。
「まずは宿を決めましょう。サトルさん、良いですよね?」
もちろん、数日はここに滞在するつもりだよ。この事件の結末を見届けたいからね(伯爵様が教えてくれるとは限らないけど…)。
俺たちは幌馬車を駐車できるような大きくてきれいな宿をギルドの受付嬢さんに教えてもらい、そこへ向かった。
一人一泊2万ベルという高級宿だったけど、全く問題ない。あまりにも安い宿ではセキュリティ的に問題がありそうだし…。
あと、冒険者ギルドから極めて近い場所にあったのも高評価だ。
ただし、馬の世話を馬丁に依頼するのは別料金になっていて、一日当たりの料金は1万ベルだった。これが高いのか安いのかは分からん(ここまでの道程で、馬の世話はセルフでやってたからね)。
なお、一日当たり9万ベルにもなる宿泊料は、全額パーティー資金の中から出しているよ。
さて、この街での拠点となる宿屋さえ決まれば、あとは自由時間だな。
「今日はこのあと自由時間にします。女性陣はできるだけ一人で行動しないように…。破落戸や不良冒険者に絡まれたりするかもしれないので…」
「お兄ちゃん、デートしよう。二人で武器屋さんや魔道具屋さんに行ってみようよ」
そういう所に行くのをデートと言うのだろうか?
ナナのお誘いに素朴な疑問を覚えた俺だった。
「ナナさん、抜け駆けはダメですよ。サトルさん、私も一緒に行きたいです」
「あ、じゃあ私も行くよ。良いよね?サトル」
アンナさんとサリーも同行を主張した。てか、『抜け駆け』って何だ?
「それじゃ、四人で街を観光するとしようか。まずは宿の人に色んな店の場所を聞いてからだな」
アインホールド領の領都リブラよりも街の規模が大きいみたいなので、色々と珍しい店もありそうだ。楽しみだな。
・・・
こうして俺たちが遊んでいる間にも捜査は着々と進んでいて、三日後には全容の解明が終わったらしい。
ちなみに、ギルドの依頼を受けることも無く、ずっと観光ばかりしていた俺たち…。働けよ!って、めっちゃ忙しそうな騎士たちに言われそうだ(言われてないけど…)。
伯爵様に呼び出された俺たち『暁の銀翼』は、侯爵のお屋敷を再訪問した。
応接室みたいなところに案内され、そこでアインホールド伯爵様から、犯罪の全容と今後の行動方針を聞かされた。いや、教えてもらった。
それが以下の通り。
・ガラシア盗賊団に盗賊行為のお墨付きを与え、得られた利益の7割を徴収(いや、搾取か?)していたのはハウゼン家の次男シリウスと三男マテウスの二人だった。
・当主であるハウゼン侯爵とその夫人、長男で跡継ぎ(次期侯爵)のガイウス、末の娘である13歳のイザベラは全くの無関係だった。
・この一家は全員、王都に連行していき、王家主催の裁判で刑罰が決定されるらしい。
・その間、この領の統治は王宮から派遣されてくる代官によって行われる。おそらく将来的には王室直轄地として運営されることになるとのこと。
あと、気になっていたけどスルーしていた件の顛末が以下の通り。
・馬車ジャックの盗賊たちは(侯爵家からの指示で)すでに釈放されていたそうで、アジト(洞窟拠点)にいたところを騎士たちに再逮捕された。
・馬車ジャックで知り合ったCランク冒険者の男女ペアは警吏に逮捕されることも無く、元気に冒険者活動をしていた(ほっとしたよ)。
ハウゼン侯爵家の騎士団に関する話もある。
・騎士団の中の隊長格の人物5名がガラシア盗賊団に通じていたため、その者らはすでに逮捕された。後日、裁判にかけられることになる。
・その中には騎士爵家の人間や男爵家、子爵家の子息もいたようだが、連座制は適用されない見込み。
・アインホールド領で捕縛された14名中13名の処遇については、盗賊扱いではなく騎士として扱う(指揮官だけは犯罪者として捕縛済み)。
・死者18名の中で犯罪行為を犯していた人物がいたかどうかは分からないため(尋問できないので…)、全員を騎士として名誉ある戦死という扱いにする。
俺は伯爵様に質問してみた。
「次男と三男のみを裁くわけにはいかないのでしょうね?」
「ああ、連座制度は王国法によって厳密に定められているからね。まぁ、デルト準男爵のときのように抜け道はあるのだが…」
あのときデルト準男爵の妻子は平民落ちにはなったけど、罪には問われなかったんだよな。温情判決と話題になったらしいけど、あれってビエトナスタ王国からの賠償金の7割近くが王室に献上されたからだと思う(それが理由だったのかどうかは公表されていないけど…)。
なので、今回の件も侯爵家の財産を全て王室に献上すれば、罪一等を減じるような判決が出るのでは?
「いや、そもそもハウゼン侯爵家を潰す判決が出た場合、その領地と財産は全て国庫に入るんだよ。だから、現時点で侯爵家の財産をハウゼン家の一族及び使用人は1ベルたりとも動かせないようになっているよ」
なるほどねぇ。でも、そうなると使用人さんたちの給料や日々の食費なんかはどうするんだろう?
この疑問にも伯爵様は快く答えてくれた。
「とりあえずは僕が管財人として管理しておいて、代官が派遣されてきたら管財人としての立場を引き継ぐしかないだろうね。面倒だけど…」
うわぁ、大変そう…。
この世界には表計算ソフトが無い(てか、コンピュータが無い)から、細かい数字の管理なんかを手作業で行うのは大変だと思う。伯爵様の苦労が偲ばれるよ。
「あ、そう言えば『棒の騎士』はどうなりましたか?伯爵様に攻撃を当てたせいで極刑ですか?」
「そんな私怨の報復みたいなことはしないよ。逆に彼女をスカウトして、うちの騎士団に入ってもらうように交渉しているところさ」
「は?彼女?」
「ああ、驚いたことに若い女性だったんだよ。たしか25歳だったかな。しかも、かなりの美人だったよ」
驚いたな。女性の騎士っているんだね。
俺の隣に座っていたナナがぼそっと言った。
「女騎士が『くっ、殺せ』って言ったのかどうかが、すごい気になる…」
何だ、それ?
たまに訳の分からないことを宣うナナさんだった。




