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097 ハウゼン侯爵

 この戦闘において、敵と味方の双方に死者は出なかった。どちらもあえて殺さないように立ち回っていたのかもしれない(プロレスかよ)。

 んで、怪我人を一か所に集めたあと、その中心で俺は【光魔法】の【エリアヒール】を発動して全員を治癒した。もちろん、『棒の騎士』も…。

 なお、ハウゼン領の騎士団員は全員武装解除して、一応ロープで縛り上げた。ただし、これは念のためだな(一度降伏した騎士が再度歯向かうなど、自身の名誉を傷つける行為のはずなので…)。


 さて、いよいよハウゼン侯爵の屋敷へ向かうことになる。

 ただ、ハウゼン領の領都ラドハウゼンの街壁に設けられている門は固く閉じられ、何人(なんびと)たりとも通さないという構えだ。

 しかし、アインホールド伯爵様が自身の貴族証を門番に見せることで、あっさりと門は開いたよ。そりゃ平民の門番が逆らえるはずが無いよね。


 ハウゼン領の騎士たちは門の付近に放置して、ハウゼン侯爵の屋敷へと馬を走らせる伯爵様率いるアインホールド領騎士団(プラス俺たち『暁の銀翼』)。

 どうやら屋敷の場所は分かっているみたいだね。迷いなく馬を駆っている。


 ほどなくして超巨大なお屋敷が目に入ってきた。

 まぁ、巨大とは言っても、距離が遠いせいで実際は小さくしか見えていない。建物の近くに()えている立木との対比で巨大だと推測しているのだ。

 なお、庭も広く、敷地を取り囲む壁も長大だ。

 巨大な門が格子状になっているため、その隙間からお屋敷が見えているわけだ。


 身軽な騎士のうち三人が馬上に立ち上がり、そこからジャンプして壁に取りついた。難なく壁を乗り越え、向こう側に降り立った(と推測される)。

 屋敷の門番を制圧した彼らは、内側から門を開けて本隊を迎え入れた。

 門から屋敷まで続いている石畳の上を馬で駆け抜ける一団。

 すぐに屋敷の玄関まで到達した彼らは足で扉を蹴破っていた。えっと、結構過激ですね。大丈夫なの?

 侍女たちや執事の悲鳴が上がる中、手分けしてハウゼン侯爵(及び、その一族)を捜索する騎士たち。


 伯爵様と俺たち『暁の銀翼』は玄関ロビーで待機だ。

 しばらく待っていると、騎士たちに拘束された複数の男女が階段からぞろぞろと降りてきた。

「お久しぶりですね。ハウゼン侯爵」

「お(ぬし)はアインホールド伯爵…。これはいったいどういうことだ?反乱でも(くわだ)てるつもりか?」

「まさか。私がここに来た理由は、あなたが一番良くご存知なのではないですか?」

「何を言っておるのだ?」

 ハウゼン侯爵と呼ばれた人物は、ロマンスグレーの髪色で同色の口髭を持つ大学教授みたいな風貌だった。

 俺の予想ではでっぷりと太ったいかにも悪人って感じの人物だったのに、目の前にいるのは痩せた学者風の人だったよ。しかも、めっちゃ困惑している。

 この困惑が演技ならば、助演男優賞って感じだ。


「私がここに来たのはあなたを犯罪者として捕縛するためです。この書類に見覚えがあるでしょう?」

 伯爵様が『盗賊許可状』をハウゼン侯爵の目の前に掲げた。

 侯爵はその書類を穴が開くほど凝視したあと、諦めたようにこう言った。

「確かにそこに捺印されている印章は我が家のものに間違いない。ただし、私の名前で署名されているが、私の筆跡ではない。それは次男シリウスの筆跡だ」

「あなたはこの件を知らなかったと申されるか?」

「信じてはもらえぬだろうが、その通りだ。しかし、息子の犯罪を見逃したのは私の罪でもある。大人しく(ばく)()こう」

「ガラシア盗賊団との連絡役になっていたのは三男のマテウス殿だという証言を、頭目のガラシア本人から得ている。シリウス殿とマテウス殿の共謀による犯罪であると考えて良いのだな?」

 これを聞いた侯爵は目を見開いて絶望の表情になった。息子二人が盗賊団とグルだったという事実にショックを受けたのだろう。まさか長男までは(から)んでないだろうな?


「ハウゼン領の騎士団が出動していることはご存知ないのか?すでに死者が18名も出ているのだが…」

「まさかうちの騎士団員が殺人の罪を犯したのか?」

「いや、そちらの騎士団員の死者が18名だ。つまり、我が領内にまでわざわざ遠征して無辜(むこ)(たみ)を殺そうとしたら、返り討ちにあったわけだな。しかも、それを撃退した民間人はたったの4人、騎士団側は32人いて、死者18人と捕虜14人だそうだ」

 侯爵が何とも言えない顔になった。そりゃそうだ。騎士のくせにどんだけ弱いんだよって話だからね。まぁ、メフィストフェレス氏のおかげなんだけど…。


「なお、この領都ラドハウゼンに入る直前にも、そちらの騎士団30名と一戦(まじ)えたことをご報告申し上げる」

「お(ぬし)たちがここにいるということは、そやつらも負けたということか…。我が騎士団の質がこれほどまでに低下していたとはな」

「騎士団に命令を下せるのはシリウス殿か?マテウス殿か?」

「両名とも騎士団への指揮権は無い。つまり、騎士団員の中にも盗賊団と通じていた者が存在したということになるな…」

 なるほど。騎士団が速やかに動いたのは侯爵が黒幕だから…だと思っていたけど、どうやら違うみたいだな。もちろん、侯爵が嘘をついていなければ、だけどね。


 騎士に拘束されている者の中には、20代前半から20代後半くらいの若い男性が三人いた。おそらく長男、次男、三男だろう。

 うち二人がブルブル震えていたよ。次男のシリウスと三男のマテウスだな、きっと…。

 一人だけ憮然とした表情で天を仰いでいたけど、それがおそらく長男だろう。


「いずれにせよ、ここにいる全員は【闇魔法】を使った取り調べを受けてもらう。犯罪に関与した者は厳しく詮議の上、王都へ連行することになるだろう。それにしても、貴族の犯罪は一族郎党連座制ということを知らぬわけでもあるまいに、実に愚かなことだ」

 え?まじですか。あ、そう言えば、デルト準男爵のエイミーお嬢様誘拐未遂事件でもそんな話があったね。

 貴族の犯罪はそれだけ重いってことだ。

 奥方様やご令嬢(見た目でそうかな?と思ったんだけど)も男たちと同様に拘束されているんだけど、この女性たちも死罪になるのかな?

 連座ってのはそういうことなんだろうけど、あまりにも気の毒だ。ご令嬢なんか、エイミーお嬢様と同じくらいの年齢(13歳くらい?)の子供だし…。


「そうそう、ついでに一言申し上げるが、この領の高い税率が農民の盗賊化を引き起こしているのではないか?なぜ彼らが盗賊に身を落とすことになったのかをよく考えてみると良い」

 そういえば、ハウゼン領はアインホールド領に比べて民の暮らしぶりが苦しいって、アンナさんが以前言ってたな。

 税率が高いせいだとも…。

 侯爵はさすがに憮然とした表情になっていたよ。そりゃ、統治に問題があったと言われて、何も思わないはずはないよね。しかも、まだ若い伯爵様に言われたんだから…。


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