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096 棒の騎士

 現在、戦況がどうなっているのかというと、敵は大活躍の『棒の騎士』(なんか格好悪い呼称だ)とその他9名が戦っている。30人中、20人が倒れて(うめ)いているという状況だね。

 味方のほうは、アインホールド伯爵様とその他13名が戦闘継続中だ。倒れている17名のうち10人以上は『棒の騎士』が倒したみたいだけど…。

 そして、今まさに伯爵様と『棒の騎士』が(にら)み合っているという状況だ。

 実は伯爵様を【鑑定】することができないんだけど、俺の【鑑定】のスキルレベル(83)以上の【耐鑑定】の値をお持ちなんだろう。

 なので、【剣術】や【乗馬術】がどういう値なのか分からないんだけど、徒歩の『棒の騎士』の攻撃を馬の機動力を使いながらうまく(かわ)しているという印象だ。


 一見(いっけん)互角っぽいんだけど、伯爵様の表情を見る限り、あまり余裕は無さそうだ。

 後方に退避していた幌馬車を少しだけ戦場地点に近付くように進めたあと、アンナさんと俺が二人揃って御者台の座席上に立ち上がった。これで戦場全体を見渡せる。

 そして攻撃対象はただ一人、『棒の騎士』しかいない。この人物さえ倒してしまえば、俺たちの勝ちになるのは間違いないからね。


 アンナさんと俺が【複合魔法】の発動を準備する。

 二人のうちどちらか一方または両方が魔法発動に成功する確率は約65%だから、確率的にはなかなか良いと思う(アンナさんの発動成功確率が43%で俺が38%ということは、二人同時に失敗する確率は35%だからね)。

 問題なのは『棒の騎士』がちょこまかと動き回っていることだ。照準(レティクル)を合わせることが極めて難しい。

 しかも魔法って誘導弾じゃないから、魔法の飛翔速度を考えての見越し射撃が必要なのだ。

 普通の攻撃魔法ですら動いている敵に命中させるのは難しいってのに、それが【複合魔法】ともなると難易度は2倍どころじゃない(感覚的には10倍は難しいと思う)。

 一瞬でも静止してくれればなぁ。


 伯爵様がちらっとこちらを見た。少し口元が(ほころ)んでいるのが見えたよ。

 なにか考えがあるのかな?

 …っと、いったん距離を取ったあと、馬を降りて徒歩の状態になった伯爵様…。わざわざ機動力という優位性(アドバンテージ)を捨てた?

 すかさず猛追してきた『棒の騎士』が伯爵様の頭上から棒を振り下ろした。

 伯爵様はその棒を剣で受けるのかと思いきや、身体を少しだけ(ひね)ってからその攻撃を自身の肩で受け止めた。そのあと、なんと剣を捨て、両手で棒を(つか)んだのだ。そして、大声でこう叫んだ。

「魔法をっ!」

 敵の動きを止めるために自分の身を犠牲にした?

 アンナさんと俺は即座に照準(レティクル)を重ね合わせ、【複合魔法】を発動した。


 そして驚いたことに二人とも魔法の発動に成功したのだ(確率的には約16%)。なんという運の強さ。

 アンナさんの沸騰水流よりも早く、俺の氷柱(つらら)が敵の太腿に命中した。少し遅れてアンナさんの攻撃も敵の右肩付近に命中したのが見えたよ。

 金属製の鎧を着ているので貫通まではしなかったけれど、俺の氷柱(つらら)は太腿に突き刺さっていたし、アンナさんの沸騰水流も鎧を加熱することで右肩に火傷(やけど)を引き起こしたと思う(武器や防具などの物体は、人間の身体と違って魔法を抵抗(レジスト)できないので…)。

 がっくりと膝をつき、肩と脚の痛みに耐えている(ように見える)『棒の騎士』。

 剣を拾い上げた伯爵様がその剣を『棒の騎士』の首元に突きつけた。勝負ありだな。


「こ、降伏する!」

 最初の交渉相手だった敵の指揮官が剣を捨てて両手を上に掲げた。さすがに勝ち目が無いと判断したのだろう。

 残りの敵騎士たちも次々に剣を地面に放り投げていた。

 ふぅ~、なんとか勝利で終わったな。てか、俺たちがいなかったら危なかったかも…。

 いや、俺たちだけでも勝てなかったな。伯爵様の捨て身の献身があってこその勝利だよ。まじで尊敬できるお方だ。


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