表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/373

093 伯爵との再会

「君たちとこんなに早く再会することになるとは思わなかったよ」

 アインホールド伯爵様が騎士団員と共に俺たちの前に現れたのは、俺たちが街に着いた日の夕暮れ時だった。なんと(馬車ではなく)騎乗した状態でやってきたのだ。

 アンナさんから聞いたんだけど、貴族男性にとって【乗馬術】のスキルは必須なのだそうだ。フットワークが軽くて、俺たちにとってはありがたい(早いところ、この件を誰かに押し付けたいのだ)。

 俺は伯爵様に、ハウゼン侯とガラシア盗賊団の結び付きを示す『盗賊許可状』を手渡した。

「これが早馬で連絡があった例の物か…。確かにこれは対処を間違えると大変なことになるな」

「はい。これで私たちはこの一件から手を引かせていただきます。あとは事件が解決するまで、この街で冒険者活動をするつもりです」

 俺のこの言葉に伯爵様は眉間に皺を寄せて、少し考えるような素振りになった。あれ?なんだか嫌な予感…。


「この街にある冒険者ギルドの支部経由で、君たちに指名依頼を出したいのだがね。依頼内容は、うちの騎士団に同行してハウゼン侯爵領の領都へ向かうこと。ただし、戦闘に参加する必要はない。オブザーバーとして僕の相談相手になってくれれば良い。どうかな?」

 うわぁー、来たよ…。指名依頼とはいえ断ることもできるらしいんだけど、どうするかな?

「私の独断では決められませんので、このあとパーティーメンバーと協議してお返事申し上げます」

「うん、よろしく頼むよ。できれば受けてくれると嬉しい」

 ただ、女性陣の顔を見たら、やる気満々って感じだったけどね。まぁ、楽な依頼ではある。単なる相談役なんだから…。


 伯爵様を含む騎士団は、明日の朝にこの街を()つとのこと。

 なので、それまでにギルドに指名依頼を出すそうだ。もし依頼を受注するのなら、明日の早朝にギルドに行って手続きをしたあと、すぐに彼らを追いかけることになる(幌馬車で、だけど)。

「さて、さっきの話だけど、皆の意見を聞かせて欲しい。あ、俺の意見は最後に言うからね」


 まずアンナさんが発言した。

「大恩ある旦那様からの指名依頼です。私としてはできれば受けたいと思っております」

 次いでサリー。

「私はサトルに従う。サトルの意見が私の意見だと思って良いよ」

 最後に妹のナナ。

「付いて行くだけで良いんだから楽な依頼だよ、お兄ちゃん。どうせ王都へ行く途中にハウゼン領の領都があるんだから、別に良いんじゃないかな」

 なるほど、全員が依頼の受注に賛成ってことか…。

 ただ、俺の予想でしかないんだけど、単なる相談役では終わらないような気がしてならない…。まぁ、そうだとしても、いや、そうだからこそ受けるべきかもしれない。


「俺の意見もこの指名依頼を受注することに賛成だ。それじゃ、明日の朝一で冒険者ギルドの支部に行って、手続きをしよう。そのあとすぐにこの街を()つから、全員準備をよろしくね」

「「「はい!」」」

 三人の返事が重なった。多数決で決めるのではなく、全員の意思統一ができて良かったよ。

 さて、伯爵様率いるアインホールド領騎士団は、首尾よくハウゼン侯爵を捕縛できるだろうか?

 アークデーモンのメフィストフェレス氏を呼び出したような、召喚の人工遺物(アーティファクト)みたいな隠し玉(秘密兵器?)が出てくることなんて無いだろうな…。いや、まさかな。


 ・・・


 アインホールド領の騎士団の総数は50名で、領都リブラに残す留守部隊を20名(エイミーお嬢様をお守りするためにも必要だ)として、残り30名の騎士たちが全員騎乗した状態でこの街へやってきている(…ってアンナさんに教えてもらった)。

 軍隊のように大人数じゃないのは、維持費用の問題もさることながら、貴族がそれぞれで軍を持つことを禁止する制度が存在するかららしい(内乱を防ぐ措置だな)。

 なので、ハウゼン領の騎士団も総勢は60名前後とのことだ。そのうち約30名は俺たちが殲滅したので、残りは30名だな。

 戦力的には互角なんだけど、大丈夫だろうか?

 ランチェスターの第1法則に従うのならば、あとは各騎士の質(戦闘能力)の問題になるんだけど…。


 なお、伯爵様と騎士団が先行して出発するものだと思っていたんだけど、どうやら俺たちの幌馬車と一緒に行動するらしい。馬車の前に20騎、騎乗するアインホールド伯爵様、俺たちの馬車、最後尾に10騎という陣形だ。

 正午過ぎには領境の村に到着し、顔見知りになった門番さんや警吏詰所の責任者であるラウムさんにも挨拶できたよ。村が襲撃されていないようで本当に良かった。

 その村で小休憩をとったあと、領境を越えてハウゼン領の街へ向かう俺たち…。今日の宿泊はその街で行うつもりなのだ。

 街の中よりは街壁の外側で野営したほうが良いんじゃないかな?アウェイだし…。


 村での小休憩中に伯爵様と俺の二人は、以下のような会話を行った。相談役としての職務を果たさないとね。

「毎年、貴族は王城へ登る制度があると言ったよね。ただ、登城時期がずれているせいで、アインホールド領騎士団の移動について、少し違和感を感じる者がいるかもしれない。でも、まさか目的地がハウゼン領の領都で、ハウゼン侯爵を捕縛することが狙いだとは思わないだろう」

 これはハウゼン領内の街中に泊まることについての懸念を表明した俺への、伯爵様からの回答だ。

「ハウゼン領の次が天領(王室の所領)なんですよね?そこまで早馬を出して、王室からも騎士団を派遣してもらったらどうでしょう?そうすれば挟撃できますし…」

「うーん、ただ『盗賊許可状』の現物無しに説得することは難しいと思うよ。そして『盗賊許可状』を伝令に持たせることはできない。奪われるリスクを考えるとね」

 確かに…。

 伯爵様に手紙を書いてもらっても、証拠である『盗賊許可状』が無ければ信じてもらえない可能性が高いか…。

 となると、やはり現有戦力で戦うしかない…。

 まぁ、俺たち『暁の銀翼』とメフィストフェレス氏が参戦すれば、圧勝できるのは間違いないけどな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ