091 殲滅戦の終了
メフィストフェレス氏の前に直径が1メートルくらいの巨大な岩の塊が出現し、それが一台の装甲馬車へ飛翔していった。
【土魔法】の中でも上級魔法に属する【ロックブラスト】だな。騎馬や人間相手では躱されてしまう程度の飛翔速度だが、自由に機動できない装甲馬車には極めて有効だ。
どぐぁーん、言葉で言い表しにくい音が響いた瞬間、装甲馬車の車軸は折れ、車輪も車体も潰されていた。
馬車を後方から押していた男たちも、その衝撃で跳ね飛ばされていたよ。
そして、続けざまにもう一発の【ロックブラスト】が二台目の装甲馬車に放たれた。全く同じ状況が現出し、ハウゼン侯爵家騎士団は大混乱に陥っているように見えた。
遮蔽物の無くなった男たちに向けて、アンナさんやナナ、そして俺からも魔法攻撃が放たれる。
アンナさんの【ファイアアロー】、ナナの【ウォーターカッター】、俺の【ウインドブラスト】だ。全員、初級魔法なので抵抗される確率も高いけど、100%抵抗できるわけじゃないからね。
騎士たちの【魔法抵抗】のスキルレベルは30以上50未満ってところなので、初級魔法を抵抗できる確率は70%~90%だな。
それでも魔法が次々に飛来してくる中、前進を続けられるような胆力のある者はそんなにいないと思うよ。
攻めあぐねている徒歩の騎士たちとは違い、騎乗している男たちが一気呵成に近付いてきた。馬の機動力を使って接近戦を挑むつもりだろう。
ただ、直線的に動いている的に魔法を当てるのは簡単なのだ。俺は【水魔法】の中級【アイススピア】を発動して、先頭を走っていた奴の胸を貫いた。
さすがに腕を狙うほどの余裕はないし、馬の頭が邪魔で腹部も狙えないのだ。殺したくはないが、仕方ない…。
しかし、十騎全員を撃退するほどの時間の余裕はなく、バリケードである土壁の手前まで半数以上の接近を許してしまった。
もちろん、この壁を馬で越えることは不可能だよ。てか、そういう風に作ったのだから…。
壁に手をかけてよじ登ろうとする男たちに向かって、冷静に魔法を放つ俺たち…。一人、また一人と騎士たちが倒れていく。
メフィストフェレス氏も上空から俯瞰して、有利な戦況になるように適宜攻撃を加えてくれているみたいでありがたい。
トータルの戦闘時間はほんの数分だっただろうか。
無傷の俺たちに比べて、騎士団員のほうは死傷者が大半を占め、もはや組織的な戦闘力は喪失しているように見える。
まさに殲滅戦だ。
ついに敵前逃亡を図る者も現れたようだけど、メフィストフェレス氏が逃がすわけがない。逃亡者の背後から放たれた【土魔法】の中級【ストーンライフル】の弾丸が、心臓付近を貫いていたよ。即死だな。
指揮官が降伏を申し出てくれればすぐに戦闘を中止するんだけど、誰一人として降伏の意思を示す者はいなかった。そこだけは見上げたものだと思ったよ。
結局、立っている者が一人もいなくなるまで、仕方なく戦闘を続けるしか無かった。もっとも、戦闘後半には多少の余裕があったので、できるだけ殺さないように手加減したけどね。
そして、ついに立っている人間がゼロになったことで、俺はメフィストフェレス氏とパーティーメンバーに戦闘終了を伝えた。
とりあえず息のある者たちをロープで縛り上げ、一か所に集合させた。そのあと【光魔法】の中級【エリアヒール】を発動して、一気に全員を治癒したよ(ポーションを使うのがもったいないからね)。
で、驚いたことに、あの指揮官が生き残っていた。悪運の強い奴だ。
俺は指揮官に向かってこう言った。
「この戦闘で18名の騎士が盗賊として死にました。生き残りはあなたも含めて14名だけです。当然、あなた方も盗賊として裁かれることになるでしょう。運が良ければ死刑ではなく、鉱山送りになるかもしれませんね。犯罪奴隷として…」
「俺は命令に従っただけだ」「名誉ある騎士が犯罪奴隷だなんて…」「俺は盗賊なんかじゃない!」
治癒されて元気になった生き残りの騎士たちが口々に無罪を主張していたけど、聞く耳は持ちません。理不尽な命令に対して抗命せず、従った時点で同罪だよ。
さて、このあとこいつらを最寄りの街の警吏本部へ連行していって、牢屋にぶち込まないとね。面倒くさい…。
で、最終的には領都リブラで裁判にかけることになるのだろう。
なお、戦闘前の指揮官との会話は全て、ナナがスマホを使って動画撮影していたからね。言い逃れはできないよ。




