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090 殲滅戦の開始

 50メートル先の街道上に姿を現した集団は、馬に騎乗している人間が10人と黒塗りの馬車が2台だった。

 ただ、一見して騎士には見えない。

 平民が着るような服の上に革鎧という冒険者風の格好をしている。馬車の御者も似たような風体(ふうてい)だ。

 さすがに他領(ハウゼン領)の騎士団がアインホールド領で堂々と活動するのは(はばか)られたのか、平民(普通の旅人)を(よそお)っているのかもしれない。


 真っすぐに俺たちのほうへ向かって進んできた集団は、高さ2メートルの土壁の上に立つ俺から30メートルくらいの距離で停止した。ふむ、魔法の有効射程距離を把握しているね。

 目についた男たちを【鑑定】した結果、『職業』の表示が『ハウゼン侯爵家騎士団員』だったよ。うん、間違いなく俺たちを殺しにきたのだろう(目的は捕縛かもしれないけど)。

 先頭を進んでいた男が大声で呼びかけてきた。

「お前らが『暁の銀翼』という名の盗賊団だな。大人しく(ばく)()け」

 ほほう、俺たちを盗賊団だと?ふざけてやがる…。

 ふつふつと怒りが()いてくるよ。アンナさんやサリー、ナナの怒気も後方から伝わってくるようだ。


「俺たちは冒険者パーティー『暁の銀翼』であり、盗賊行為をした覚えはありません。あなた方の(あるじ)であるハウゼン侯爵家がガラシア盗賊団と結託していた証拠を取り返しに来たのでしょうけど、無駄ですよ。その証拠は早馬を使って、領都リブラにいらっしゃるアインホールド伯爵様のもとへすでに届けてあります。今頃は王室と連携してハウゼン侯を捕縛する準備に取り掛かっていることでしょう。あなた方、騎士団員もすぐに再就職先を探したほうが良いと思いますよ」

 はい、嘘八百です。『盗賊許可状』は俺の【アイテムボックス】の中にあるし、伯爵様にはまだ何も伝わっていません。

 でも、俺の言葉を聞いて、騎士たちの多くが明らかに動揺していたよ。おそらく、事件の詳細を知らされていない下っ端の騎士なんだろう。


「ええい、うるさい!少なくともガラシアがここにいるのだろう?こうなれば、ガラシアと一緒にお前らも皆殺しだ」

 ふむ、指揮官だけは『盗賊許可状』について知っているみたいだね。この指揮官だけ戦闘不能にしてしまえば、残りの騎士たちは口で丸め込めるかも…。

「あなた方が負けた場合、この戦いで死んだ人は騎士としての殉職ではなく、盗賊としての不名誉な死亡扱いになりますよ。無駄死にってやつですね。それでもよろしければお相手致しましょう」

 騎士たちの間にさらに動揺が広がったようだ。俺って【交渉術】のスキルを持っていないのに、口が上手(うま)過ぎだろ。詐欺師の才能があるのかな?


「この人数差で勝てるつもりか?お前ら全員が死ねば、たとえ証拠があってもこの一件は有耶無耶(うやむや)にできるはずだ。おぉ、そうだ。女たちはすぐに殺さずに、我らが十分に楽しんだあと殺してやるぞ」

 この下種(げす)野郎が…。

 このセリフを聞いた俺は、メフィストフェレス氏をこの場に呼び出した。昨日に続いて、二日連続になってしまい申し訳ない。


 突然、空中に姿を現したアークデーモンにどよめく男たち…。

「隊長!あのデーモンは大した奴じゃありません。昨日は俺たち五人で撃退できましたから」

 お、さっき領境の村にやってきた騎士さんだよ(服装は違うけど…)。まぁ、勘違いしているのは無理もないか…。

 でもね、メフィストフェレス氏が本気を出せば、あなた方は瞬殺だったんですよ。


『今度こそまともに戦えるのだろうな?いい加減、殺すなという命令には承服できぬぞ』

 メフィストフェレス氏も少しフラストレーションが溜まっているのかもしれない。

『あの男たちを殲滅してください。積極的に殺してほしくはないんですが、別に手加減はしなくても良いですよ。思う存分暴れてください。あ、攻撃開始の合図には従ってくださいね』

『よかろう。くくく、楽しみだな。あの者たちがどれほどの強者(つわもの)なのか…』

 多分、期待外れだと思いますよ。【鑑定】しても突出した能力の騎士は見当たらなかったし…。


 俺は指揮官に向かって最終宣告を下した。

「このアークデーモンは俺の指示に従っています。死にたくなければ、(すみ)やかに降伏してください」

「ふん、ハッタリを…。アークデーモンが人間の指示に従うわけがなかろう。あれはきっと幻影に違いない。おい、陣形を整えたのち、攻撃を開始せよ!」

 後半の言葉は部下の騎士たちに発したものだ。


 すぐさま黒塗りの馬車から騎士たちが降車した(見た目は一般人だけど…)。その数、総勢20名…。男たちはすぐに牽引していた馬を馬車からはずしていた。

 そのあと、男たちはその馬車を背後から人力で押す態勢になり、その周りに騎乗した男たちが10名ほど、遊撃部隊としての動きを見せている。

 おそらく馬車を移動式バリケードとして使うつもりだな。夕日に照らされて黒光りしている馬車は、よく見ると全周に鉄板を貼った装甲馬車のようだ。攻撃魔法や弓矢を防ぐためだろう。


 俺はメフィストフェレス氏とパーティーメンバー(アンナさん、サリー、ナナ)に攻撃開始の合図を出した。

 さあ、戦争の時間だ。


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