088 追手④
手早く二人の賊をロープで縛り上げたあと、サリーはアンナさんとナナを起こすため二階へ駆け上がり、俺は警吏詰所へ向かった。
警吏詰所が襲撃されていなければ良いんだけど…と思いながら、詰所の外から声をかけた。
「冒険者のサトルです。宿屋に来た賊は捕縛しました。そちらはどうですか?」
すると、詰所のドアが開いて、ラウムさんが現れた。
「おう、こっちでも賊を捕まえたぞ。と言うか、勝手に罠にかかっていやがった。ご苦労なこった」
詳しい状況を聞いてみると、よく獣を捕まえる罠として使われるトラバサミ(踏むとバネ仕掛けで金属板が閉じるやつ)を窓の下にいくつも仕掛けておいたらしい。
二人の侵入者は間抜けにもその罠に足を挟まれた状態で倒れていて、そのあまりの痛さに呻いていたところを簡単に捕縛できたそうだ。まじで間抜けだな。
これで四人か。騎士は五人いたわけだが、あと一人はどうしたのかな?
未発見の侵入者がいたら厄介なんだが…。
・・・
翌朝(てか、賊を捕縛した日の朝)、性懲りもなくハウゼン領の騎士が姿を現した。ただし、一人だけだ。
「騎士様、おはようございます。他の方々はいかがなされましたか?」
ラウムさんが素知らぬふりをして、やってきた騎士に尋ねていたよ。いや、他の方々は全員、警吏詰所の牢屋にぶち込まれてるんだけどね。
なお、俺は近くの物陰に隠れて聞き耳を立てています。
「う、うむ。昨夜、何か変わったことは無かっただろうか?例えば、侵入者があったとか…」
「ああ、住居不法侵入罪で逮捕した賊が四名もいましたな。いやはや、困ったものです。四人とも領都リブラへ移送してから裁判にかける予定ですがね」
騎士さんの顔色が悪くなっているよ。この苦境をどうやって乗り切れば…って顔だ。
「あぁ、その~、その賊たちも元々は我々が追っていた者たちなのだ。で、ものは相談だが、その者たちを全員引き渡しては貰えぬか?金なら払おう。一人当たり金貨一枚でどうだ?」
うわぁ、金貨一枚って1万ベルってこと?
どう考えても安過ぎるだろ…。せめて白金貨一枚(100万ベル)って言えよ。けち臭い。
当然、ラウムさんは、けんもほろろに断っていたよ。
さて、こうなるとハウゼン侯爵家としては打つ手が無いわけで、破滅への道をひた走ることになる。
もはや大軍をもってこの村ごと皆殺しにして証拠隠滅を図るしかない…って感じになるかもね。ただ、『盗賊許可状』を持つガラシアさんがこの村にいるという確信は無いはずだ。
うーん、俺がハウゼン侯だったらどうするだろう?
やはり、自領の騎士団をフル動員しての力攻めかな?
悠長に盗賊団の頭目とそれを匿っている冒険者を探索している時間は無いんだよな。怪しい所は軒並み殲滅、それしか無い…。
しかし、そうなるとこの村の防御態勢は貧弱過ぎて、全く頼りにならないのだ。
俺たちがガラシアさんを連れて、領都リブラへ向かうのが一番なのかもしれない。その途中で包囲されにくい地形を見つけて、その地を待ち伏せ場所とすることで追手を返り討ちにしてしまうのだ。
『暁の銀翼』四人とメフィストフェレス氏がいれば、50人程度の騎士だったら何とか対処できる気がする(単なる盗賊なら100人でも殲滅できそうだけどね)。
俺は宿屋で朝食を摂りながらアンナさん、サリー、ナナ、ガラシアさんと話し合った。なお、ガラシアさんとは普通に食卓を囲んでいる。まぁ、あまり犯罪者とは馴れあわないほうが良いんだけど…。
俺は先ほどの考察を話してみて、全員の意見を聞いてみた。
「サトルさん、確かにこの村での戦闘は避けたほうが良いと思います。村人を人質に取られる可能性もありますし…」
アンナさんの懸念は俺の懸念でもある。
できればこの村には迷惑をかけたくないんだよな。
「私はサトルの意見に従うよ。魔法による遠距離攻撃ができないから、戦闘面ではあまり役に立てそうにないけどさ」
いやいや、サリーの【索敵】スキルには助けられているよ。
そうだ。王都に行ったら魔道具店で遠距離攻撃用の魔道具(…って、あるのかな?)を買って、サリーに持たせてあげようかな。
「お兄ちゃん、本当に大軍で攻めてきたりするのかな?そんなことしたら本当に戦争になっちゃうよ」
いや、最悪の場合を想定しているだけで、攻めてこないならそれに越したことは無いのだよ。
その場合、領都リブラまで戻ってアインホールド伯爵様にこの件をご報告すれば良いだけだからね。
ガラシアさんも発言を求めてきた。
「私からも良いかい?私は自分の命が惜しいわけじゃないけど、口封じで殺されるのだけは勘弁してほしい。裁判で有罪になって死刑になるのは良いけどさ。だからお兄さんの案には賛成だ。この村の柵程度じゃ全周包囲してくれと言ってるようなもんだからね」
うん、(ガラシアさんも含めて)反対意見は無いってことだね。
それでは領都リブラへ向けて旅立つ準備をするとしよう。




