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087 追手③

 押し問答を繰り返している警吏詰所責任者のラウムさんとハウゼン侯爵家の騎士たち。

 今にもその騎士たちが村内に雪崩(なだ)れ込みそうだ。

 もしそうなったら、ガラシアさんは連れ去られ、(ひそ)かに始末されることになるだろうね。

 まぁ、悪逆非道な犯罪者ではあるけれど、ハウゼン侯爵家の犯罪を立証するための重要な証人でもあるんだよな。できれば生かしておいて、法廷で証言させたいところだ。


()(あるじ)ハウゼン侯よりアインホールド伯へ、厳重な抗議を申し入れさせていただくが、それでもよろしいか?」

 ついに虎の威を借りて脅迫してきたよ。もはや形振(なりふ)り構っていられないってことか?

 これにはラウムさんも困った顔になっていた。そこまで話を大きくしても良いのかって顔だ。

 俺は物陰から姿を現して、ラウムさんに近付いてこう言った。

「大丈夫です。伯爵様は正義の味方ですから」

 この言葉と共に、アインホールド伯が俺たち『暁の銀翼』の後ろ盾となることを宣言した書類を見せてあげた。

 これでラウムさんの顔色も良くなり、元の毅然とした態度に戻ったよ。


 結局、騎士たちは渋々といった様子ながら引き揚げていった。さすがに騎士という立場のまま、力で押し入るのは愚策だと判断したみたいだ。

 でも、おそらく諦めていないだろうし、次は闇に(まぎ)れてこっそりと村内への侵入を図るかもしれない。要するに、暗殺者として活動するってことだ。

 もう一つの可能性としては、より多くの人員でこの村を包囲して、この村にいる全員を皆殺しにするおそれもあるね。いや、さすがにそれは無いか…(領同士の戦争になる)。

 ただ、大きな街とは違って、立派な街壁に囲まれているわけじゃないから、村内への侵入は容易だと思う。

 その場合、怖いのは【認識阻害】のスキルだな。


 俺はラウムさんに話しかけた。

「冒険者のサトルと申します。この村に【看破】や【索敵】のスキルを持つ人はいませんか?」

 サリーの【索敵】に頼ることになるのはもちろんだけど、他にもスキルを所持している人がいればありがたい。

「【看破】であれば、俺の部下の一人が持っていたはずだ。…って、まさか奴らがこの村に侵入してくるってのか?」

「その可能性は高いでしょうね。それだけ『盗賊許可状』の存在と、証人であるガラシアさんの身柄が重要であるということです」

 腕を組んで(うな)り始めたラウムさん…。しばらく熟考したあと、どうやら結論が出たようだ。

「確かにさっきの奴らのしつこさを考えると、あれで諦めたとは思えん。今夜は警戒を強めたほうが良いだろうな」

 良かった。まぁ、必ずやってくるとは限らないんだけど、準備しておくに越したことは無い。


 ・・・


 夕食の後、サリーと俺は早々に眠りについた。午前二時頃に起きて、そこから朝方まで待機しておくためだ。

 それまでの警戒はアンナさんとナナにお願いした。奴らがこの村に忍び込むとしたら、おそらくは日付が変わってからになるだろう。

 俺が目覚めたとき、宿屋の一階ロビーにある壁掛け時計は午前一時を示していた。

 ロビーにある椅子に座って待機していたアンナさんとナナに向かって部屋へ戻るように声をかけてから、俺は待機状態に入った。ほどなくしてサリーも起きたようで、二階の部屋からロビーに降りてきた。

「サトル、おはよう。あいつら来るかな?」

「ああ、おはよう。来るかどうかは分からないな。でも俺が奴らの立場なら、絶対に忍び込むけどな」

 ちなみに、ガラシアさんは両手両足を縛った状態ではあるけれど、この宿屋の二階の一室に転がしている。警吏詰所の中にある牢屋に入れておくのは危険だからね。


 もしも忍び込んだ奴らがいたとしたら、最初に狙うのは警吏詰所のはずだ。

 そして、次の目標が宿屋になると思う。

 二箇所の距離はそんなに離れていないので、警吏詰所で騒ぎが起こればこちらでも気付くはずなのだ。


 ちなみに、冬場の日の出時間は七時頃なので、六時くらいまでは警戒が必要だ。

 で、ロビーの壁掛け時計が三時を示した頃、サリーが突然発言した。

「誰かこっちへ来るよ。【索敵】に反応あり」

 この時間に歩き回る村人はいないだろうし、おそらく侵入者だな。

 宿屋の出入口のドアはしっかりと施錠している。ガタガタと数回小刻みに揺らされたドアはすぐに静かになった。ホラーだよ、(こわ)っ!

 実は、一か所だけ施錠していない窓があるのだ(わざと…)。

 その窓を見つけたのだろう、侵入者はゆっくりと音を立てないように窓を開けて、静かに宿の中へと入ってきた。

 サリーと俺は物陰からそいつらのことを息を(ひそ)めて見ていた。


 ふむ、侵入者は二人だけか…。意外と少ないな。

 黒い覆面に黒装束の二人は二階へ上がる階段のほうへと歩き出した。

 そのタイミングで、俺は【光魔法】の【ライト】を発動した。一瞬で明るくなった室内と、(まぶ)しそうに目を細めている侵入者たち。

 サリーの右手に握られた剣が一閃し、侵入者の一人が膝をついた。

 同時に、俺のほうももう一人の侵入者に(つか)みかかった。室内で攻撃魔法は使えないからね。

 俺は自分が組み敷いた侵入者の耳元で(ささや)いた。

「あなた方を住居不法侵入の現行犯として逮捕します。騎士でありながら盗人(ぬすっと)扱いされる気分はどうですか?」


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