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084 盗賊許可状

 アジトにいた盗賊たち五名をロープで連結して引っ張りつつ(自力で歩けるくらいには回復させたのだ)、アンナさんとナナのもとへ戻ったサリーと俺は、警戒されないように遠目から声をかけた。

「おぉーい、戻ったよ~」

 すぐに幌馬車の中からアンナさんとナナが顔をのぞかせて、手を振ってくれた。

 んで、頭目のガラシアさんも同じロープに連結して、馬車の後ろから六人全員が徒歩で付いてくるようにした。なぜって馬車の中に乗せたくなかったから…。


 とりあえずメインの街道までは戻ったけど、ここで進退に迷ってしまった。その原因となったのが、アジト(洞窟拠点)で見つけた一通の書類だった。

「アンナさん、この書類ってどう思いますか?」

 俺から書類を受け取ったアンナさんは、それにざっと目を通したあと、目を見張った。

「これは…。最悪の場合、私たちのほうがハウゼン領の街で逮捕されることになるかもしれませんね」

「やはり、そうですよね」

 うーん、困ったな。


 その書類というのが、盗賊行為を許可する(むね)を記したハウゼン侯爵家の紋章入りの立派な装丁の書類だったのだ。言うなれば『私掠(しりゃく)免許状』ってところかな。

 いや、『私掠』ってのは敵国を対象とした通商破壊だから違うな。単なる『盗賊許可状』と言うべきか…。

 きっと、得た利益の何割かがハウゼン侯爵家に入るんだろう。

 この書状に気付かず、ハウゼン領の警吏本部にガラシア盗賊団を連行した場合、盗賊団一味は釈放され、逆に俺たちが逮捕されることになったかもしれない。

 さっきのCランクパーティーの男女も心配だな。


「これは間違いなく本物で、偽造書類とは考えられません。犯罪の決定的な証拠です。この書類を回収するために、ハウゼン領の騎士団が出動している可能性もありますね。どうしましょう?アインホールド伯爵領へ引き返しますか?」

 アンナさんの懸念はもっともだ。間違いなく軍隊レベルの人員を動員して、取り返しに来るだろう。

 まぁ、現時点で、俺たちがこの書類を見つけたことはハウゼン侯爵家には発覚していないだろう。ダミーの掘っ立て小屋をアジトと騙されて、洞窟拠点を見つけていない可能性も大いにあるわけだからね。


 それでも、乗合馬車をジャックした先ほどの盗賊たちが最寄りの街の警吏本部に連行された場合、そこからハウゼン侯爵家へ連絡が入り、すぐさまアジト(洞窟拠点)へ騎士団が差し向けられるはずだ。てか、俺なら確実にそうする。

 この『盗賊許可状』はそれほどヤバいものなのだ。


「アインホールド伯爵領へ戻ろう。領境にあった小さな村にも警吏詰所はあったよね。そこへ連行していこう。さすがに他領までハウゼン侯爵家の騎士団が越境してくることは無いだろうしね」

「うん、お兄ちゃん、私も賛成だよ。急いで戻ろうよ」

「サトルさん、同意します。すぐに追いつかれることはないでしょうけど、徒歩の捕虜たちが一緒である以上、出発は急いだほうが良いかもしれません」

「サトル、いっそのこと男の盗賊は全員殺して、ガラシアだけを馬車に乗せれば速く移動できるんじゃない?」

 サリーが過激な発言をしているけど、確かにそうなんだよな。一考の余地はあるんだけど、いくら盗賊とは言っても殺人は躊躇(ためら)われるのだ(日本人として…)。

 まぁ、とりあえずはこの状態でアインホールド伯爵領へ向かおう。もしも騎士団が追ってきたら、そのときはそのときだ。


 ・・・


 五人の男たちは歩かせるとしても、ガラシアさんだけは馬車の中に移動させた。一応、女性だしね。

 小走り程度のスピードで進んでいるんだけど、マラソン状態の男たちはかなり苦しそうだ。息が上がっているみたいだけど仕方ない。

 車内では俺がガラシアさんに『盗賊許可状』を見せながら、それについての尋問を始めた。その様子をナナがスマホで動画撮影している(取り調べの可視化ってやつだな)。

「あなた方『ガラシア盗賊団』がハウゼン侯爵家とグルであることはこの書類で明白なんですが、頭目(おかしら)であるあなたが捕縛されたことを知った侯爵家がどう動くか予想できますか?」

「うーん、奪還に動くのは間違いないだろうね。ただし、目的は二つ考えられるけど…」

「一つは口封じに殺すことですね?」

「ああ、お兄さんの読み通りだと思うよ。もう一つの可能性は奪還後、釈放して盗賊行為を続けさせることかな」

「ハウゼン侯爵自身がこの件に関わっているんですか?」

「いや、それは分からない。私らの窓口になっていたのは、三男のマテウス・ハウゼンってやつだったからね。ドラ息子が小遣い稼ぎにやったのか、当主自らの策謀なのか…」

 ふむ、なるほど。ハウゼン領の騎士団がどれだけ早く動いたかで判断できるかもしれないね。素早い動きを見せた場合は、当主自身が関わっている可能性が高くなると思う。


「それにしてもお兄さんって、Dランクにしては強すぎだろ。実はBランク、いやAランクでもおかしくないと思うけど…」

「えっと、俺はFランクですよ。冒険者に成りたての新人ですからね」

「詐欺だっ!こんなFランクがいてたまるもんか!」

 サリーやナナが苦笑しているよ。俺も曖昧に笑みを浮かべることしかできない。

 てか、ガラシアさん、激おこですよ。Fラン冒険者に良いようにやられたなんて、頭目(おかしら)としてのプライドが傷ついたのかもしれない。


 そして、この日の夕刻、そろそろアインホールド伯爵領へ入る頃合いかな?という地点で、サリーが警戒の声を上げた。

「後方から敵が接近中!…いや、敵かどうかは分からないけれど、少なくとも敵意は感じるよ」

 どうやらハウゼン侯爵領の騎士団が追いついてきたみたいだな。さて、どうしよう?

 いや、それよりもちょっと対応が速すぎるんじゃないか?あと少しでアインホールド伯爵領だと思うのだが…(関所や検問所みたいな建物が無いので、領境がよく分からないのだ)。


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