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079 王都へ出発

 Dランクパーティーである俺たち『暁の銀翼』だが、とりあえずの方針として、エーベルスタ王国の王都へ向かうことになった。目的は観光だけど…。

 アンナさんやサリーの話では、馬車で約一週間の道のりらしい。ただ、アインホールド伯爵領の領都リブラから王都までは街や村がいくつもあるし、街道脇には休憩所みたいな所も作られているから、野宿することは基本的に無いってさ。あと、トイレの心配もいらないそうだ。

 なお、この旅のためだけに馬二頭と幌馬車を200万ベルで購入したよ。てか、意外と安かった(ん?別に安くはないか…どうも金銭感覚がおかしくなってるかもしれない)。


 アインホールド伯爵邸を出立する時には、伯爵様やエイミーお嬢様、執事さんや手すきの使用人さんたちが総出でお見送りをしてくれた。

「君たちには本当に世話になった。アンナも達者でな。あと、これは冒険者ギルドを通さない個人的な依頼なんだが、一つ頼まれてくれないかね」

「ええ、何なりとどうぞ」

「これは国王陛下への書簡だ。王城へ(おもむ)いて、僕からということで渡してくれないか。もちろん、陛下に直接お会いすることはできないから、王城にある検問所で騎士団長を呼び出して、そいつに渡してくれれば良いよ」

 騎士団長を『そいつ』呼ばわりって、もしかしてお知り合いですか?


 隣でアンナさんが小声で教えてくれた。

「王城に勤める騎士団長のグレイシアス様は、旦那様の御従弟(いとこ)様なんですよ」

 あー、なるほど。そういうことか。


 次にエイミーお嬢様が(主にナナに向かって)少し申し訳なさそうに発言した。

「マヨネーズの大量生産体制は、【光魔法】の上級が必要なせいでなかなか難しいわ。でも今、浄化魔法の【ピュリフィケーション】を魔石のエネルギーで発動する魔道具を研究しているのよ。それが完成すれば、マヨネーズの製品化はできるようになると思うから、もう少し待っててね」

 そう言えば、マヨネーズ売上高の5%を権利料として受け取るという契約だったっけ?すっかり忘れていたよ。

 てか、ナナ自身も忘れていたっぽい…。


 ちなみに、お屋敷の料理長さんには、マヨネーズを使ったアレンジレシピとしてポテトサラダ(ポテサラ)やタルタルソースを教授済みで、それらが何度か晩餐の席に並んでいたよ。

 どちらもあまりの懐かしさに、泣きそうになってしまったのは秘密だ。

 余談だけど、タロン魔装具店には【光魔法+】の魔装具(マジックアクセサリ)が無かった。もしも【光魔法+9】を入手できれば、俺自身で【光魔法】の上級が発動できるようになるんだけどな(そうなればマヨネーズは作り放題…)。もしかしたら、王都の魔装具店にはあるかもしれないけどね。


「あ、そうそう、忘れるところだった。年に一回、春になったら国内の全ての貴族が王都に集まって、王城へ登ることになっているんだ。新任のデルト準男爵であるアイーシャ君やアンナの父君であるシュバルツ男爵と一緒に、僕とエミリーも王都へ行くことになるだろう。まだ五か月は先の話だけどね。当然、道中の護衛任務にはうちの騎士団が()くことになるんだけど、できれば『暁の銀翼』にも護衛の指名依頼を出したいと思っているんだ。一応、心に(とど)めておいてくれないかな」

「分かりました。その時期まで王都に滞在していれば、冒険者ギルド経由で依頼を受けることができると思います」

 かなり先の話なんだけど、穿(うが)った見方をすれば『少なくとも春先までは国内にいろよ』ってことかもしれない。いや、穿(うが)ち過ぎかな?


 ・・・


 こうしてアインホールド伯爵領の領都リブラを出立した俺たちは、一路この国(エーベルスタ王国)の王都へ向けて進み始めたのであった。

 なお、馬車の御者席にはアンナさんが座り、その隣には俺が座って操車方法を勉強させてもらっている。

 もしもアンナさんのパーティー加入が無かった場合、乗合馬車で王都まで移動することになっただろうし、そうなると他の乗客にも気を遣うことになったはずだ。ほんとアンナさんがいてくれて良かったよ。

 俺たちが購入したこの馬車って幌馬車なので、外から幌の中は見えないし、クッションを敷いた荷台でのんびりと(くつろ)げるから意外と快適なのだ。

 なぜって、旅に必要な荷物を一切荷台に置いていないせいで、全てを居住スペースとして広々と使えるようになっているからね。なにしろ、荷物は全て各人の【アイテムボックス】の中に収納されているので…(四人全員が【アイテムボックス】持ちという異常なパーティーなのだ)。


 ちなみに、御者をアンナさんだけに頼るつもりはない。先々俺が馬車の操車方法を習得したら、それ以降はアンナさんと俺とで御者役を交代しながら王都へ向かうつもりなのだ。まぁ、しばらくの間はアンナさんだけに負担をかけてしまうけど…。

 あと、サリーが常に【索敵】スキルを使って、盗賊や魔獣の気配を探ってくれているのには感謝だな。精神的な負担が全然違うからね。斥候役のパーティー加入はこうした旅では本当にありがたいよ。


 こんな感じで、一日二日と順調に距離を稼いでいた俺たちだったが、アインホールド伯爵領を越えて次のハウゼン侯爵領に入った頃、街道の(はる)か前方に小さく馬車が見えた。おそらく王都へ向かう乗合馬車かな?

 荷台から顔をのぞかせたサリーが俺に言った。

「サトル、あの馬車だけど何か変だよ。やけにノロノロ進んでいるし、私の【索敵】にも嫌な反応があるんだよね。横をすり抜けるときは注意したほうが良いかも」

 徐々に近付いてくる馬車はかなりの大型で10人以上は乗れそうだ。

 普通は後方から迫る別の馬車に対して、乗客が窓から手を振ったりしてくれるものだけど、前方の馬車からは何の反応も無い。ちなみに、客を乗せずに運行することはコスト的にあり得ないから、無人では無いはずだ。

 確かに変な雰囲気だな。


「お兄ちゃん、あの馬車に声をかけてみたほうが良いかもしれないね。もしかしたら盗賊に馬車ジャックされているのかもしれないよ」

 御者席に座るアンナさんと俺に、ナナが後ろから声をかけてきた。

 てか、『馬車ジャック』って変な言葉だな。ハイジャック、シージャック、バスジャックなんかは聞いたことがあるけど…。まぁ、言いたいことは分かる。


 …っと、前方の馬車がついに止まった。そして御者らしき男が、急いで馬車から逃げるように走り去っていくのが見えた。あれって、どう見ても何かから逃げてるっぽいな。

 本当に馬車ジャックなのかもしれない…。


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