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075 話し合い

「それでは、どうしてもこの国を出て他国へ行くと言うのかね?」

「あ、いえ。とりあえずはこの国の王都へ観光しに行こうかと思っています。それからのことはまだ何も…。将来的には、外国へ行ってみたいと思っているのは確かなんですが…」

 ちょっと(なじ)るような口調で質問しているのはアインホールド伯爵様で、質問されているのはこの俺、月岡悟だ。いや、サトル・ツキオカと言うべきか。

 現在、伯爵様、エイミーお嬢様、侍女のアンナさん、俺の四人で話し合いをしているのだ。いや、単に俺がお屋敷を近々出ていくことを伝えるための場だったんだけど…。


「悪いとは思ったのだが、報告しないわけにもいかず、国王陛下とその側近たち限定で君のことを伝えている。三属性(トリプル)の魔術師だということをね。だからこそ君が我が国を出たあと、他国の戦力となることをとても恐れているんだよ」

「私がこの国、エーベルスタ王国に特段の理由もなく敵対することはありません。先に王国側から攻撃された場合につきましては、当然の権利として反撃させていただきますが…」

「うむ、君の人となりであればそうだろうな。だが…」

 伯爵様が懸念されていることを俺が分からないわけじゃない。そう、為政者としては強力な戦力を国内に留めておきたいという心理になるだろうってことは、俺にもよく分かるのだ。

 ただ、それに従う義務が無いこともまた確かなんだよな。そもそも俺ってこの国の(たみ)じゃないし…。


 しかも自由であることが信条の冒険者だからね。最低ランクのFランクだけど…。

 あ、ちなみに冒険者は国に税金を納めていないのか?…って質問をアンナさんにしたことがあったんだけど、実は依頼報酬の中から冒険者ギルドの取り分(事務手数料…と言うか、中間マージン?)と共に、税金も源泉徴収されているって教えてもらったことがある。

 ちゃんと納税しているようで、良かった。

 ただ、どんな国にも存在する冒険者ギルドの支部だけど、その支部が存在する国への納税になるらしい。…ってことは、俺はこの国(エーベルスタ王国)の国民じゃないけど、一応納税者にはなるわけだね。


 ここでエイミーお嬢様がある提案をしてきた。

「このアンナをツキオカ様のパーティー『暁の銀翼』に加入させるのはどうかしら?もちろん、他国に行くことがあれば一緒に行ってもらうの。アンナがついていれば、他国に取り込まれることは無いと思うのだけれど」

 ああ、『猫の首に鈴を付ける』ってことか。悪い言い方をするなら、スパイってことになるのかな。

 でも、それだと侍女を退職するってことになるんじゃないか?

 伯爵家に勤める侍女で、次期当主であるエイミーお嬢様の側近(兼、護衛)という立派な肩書を捨てさせるのは、どう考えても申し訳なさすぎるよ。

「ふむ、エイミーの提案はなかなか魅力的だが、アンナの意見はどうだい?君に侍女を辞めて冒険者として生きていく覚悟があるかどうかだが…」

「旦那様やお嬢様のご意思に従います。たとえ侍女を辞したとしても、この身はエーベルスタ王国民の一人です。当然、今後も国のために活動していくことを誓います」

 あー、なんだか話がどんどん進んでいくんだけど、俺の意思も確認して欲しいんだけどな。


 アンナさんが俺のほうを向いて真剣な顔で問いかけてきた。

「サトルさん、私を『暁の銀翼』に入れていただけませんか?もちろん、リーダーはサトルさんで構いませんので…」

 うん、俺としてはもちろん嬉しいんだけど、本人の意思じゃなく上司からの指示で加入するってのは、あまりよろしくないんじゃないかと思うわけだ。

「えっと、申し訳ないんですが、監視任務を受けて嫌々加入するのを許すことはできません。謹んでお断りさせていただきます」

 アンナさんがショックを受けたような顔になっているけど、俺が断れば彼女が馘首(くび)になることは無いはずだし、この判断で良いと思う。


「ほらぁ、やっぱり小細工したらダメなのよ。あなたが恥ずかしいからってこんな茶番を演じたのだけれど、ツキオカ様にはお見通しってことなのね」

 んん?どういうこと?何も見通してないんだけど…。

 てか、アンナさんの顔が真っ赤になっているんだけど、いったいどうしたんだろう。

「す、すみません。先ほどのやり取りは私がお嬢様にお願いしたものなのです。本当は私自身がサトルさんと、い…」

「い?」

「い…、一緒にいたいのですっ!」

 最後は叫ぶように言ったアンナさんだった。

 あー、これはさすがに本心っぽいな。『陰キャ』な俺でも分かったよ。『一緒にいたい』とまで言われたのに、それを(こば)むほど俺は狭量じゃないし、朴念仁(ぼくねんじん)でもない。

「でしたら、アンナさんのパーティー加入を認めます。ご自分の意思での加入申請であれば、俺としては大歓迎ですよ」


「うーむ、なるほど。シュバルツ男爵家のご令嬢が同行するなら王室も納得するだろうし、アンナ自身の希望も叶うわけだね。ただ、エイミーの護衛を別に用意しなければならないな。それだけが問題か…」

「旦那様、申し訳ありません。お嬢様も我儘(わがまま)を言わせていただき、本当にありがとうございました」

「良いのよ。アンナの婚期が遅れていることについては、少し罪悪感があったのだもの。良い方を射止(いと)めたわね」

 あれ?なんか不穏な発言が…。


 第2章のタイトルは(仮)です。

 そういう方向性で行こうかな?…って思っているだけで、将来的には変更されるかもしれません。


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