074 第1章エピローグ
アインホールド伯爵家騎士団とデルトの街の警吏本部によるその後の調査で、事件に関与した人物が判明し、厳正な処罰が下されることになった。
とは言っても、既に犯罪奴隷として鉱山送りになっているゴラン氏(元・デルト役場職員)をはじめとする盗賊たちは別として、新たに捕縛され、死刑判決を受けたのはデルト準男爵だけだったようだ。
なお、本来であればデルト準男爵家は爵位を剥奪、その妻子も罪に問われることになるらしい。貴族による犯罪行為というのはそれだけ重いということだ。
しかし、今回の一件では非常に温情ある判決が下された。これは(すでに引退している)先代のデルト準男爵の人柄とこれまでの貢献を考慮したものだそうだ。
その判決が以下の通り。
・当代のデルト準男爵は死刑。ただし、毒杯をあおるという穏便な処刑方法とする。
・妻子は罪に問わないが、身分は平民となる。
・デルト準男爵家は取り潰さず、新たな当主を迎えることとする。
・現在の冒険者ギルド・デルト支部長であるアイーシャ・デルトを当主と定める。
・先代のデルト準男爵は新たな当主の後見として、彼女を指導し、監督する。
・街の名前は変更しない。
うーん、かなり温情ある判決だな。
これをこの国(エーベルスタ王国)の王室に認めさせるための『賠償金七割献上』だったのかもしれないね。いや、よく知らんけど…。
まぁ、とにかくこれで全ての事件は解決したってことになる。
全ての元凶であるビエトナスタ王国の王太子殿下が裁かれていないことには少しモヤっとするけどね。まぁ、100億ダールを超える賠償金の支払いがあの国にとってかなりの痛手になったことは間違いないだろうが…。
それにしても、もしも俺の異世界転移の目的がこの事件を解決することだったならば、これで俺は元の世界へ帰れるのかもしれないな。
「お兄ちゃん、日本に帰るなんて言わないでよ」
「いや、転移は俺の意思じゃないんだから、どうなるか分からないよ。ただ、俺の意思はもうこの世界に留まる方向に傾いているけどな」
「うん、ありがとう。私も神様にお祈りしてみるよ。お兄ちゃんを日本に帰さないようにって」
そう、せっかくだから魔法のスキルレベルを上げたり、新たなスキルを取得したり、冒険者レベルも上げていきたいと思っているのだ。
この世界、科学技術の発展は遅いものの、それを補う魔法技術があるから生活の質はそれほど低くないしな。
なにより、ナナの持っている料理関連の知識がありがたい。さすがに醤油や味噌の作り方までは知らないみたいだけど…。
・・・
さらに数日後。
今日も今日とてFランク依頼の薬草採取を受けようと、冒険者ギルドにやってきた俺とナナ。
そろそろアインホールド伯爵家のお屋敷を出て、旅に出たい(てか、自立したい)という思いはある。
だけど、アンナさんとのお別れが辛くて、まだ言い出せていないのだ。
冒険者ギルド・リブラ支部には、10時過ぎの遅い時間にもかかわらず、なぜか『白銀の狼』のメンバーが勢揃いしていた。バッツさん、ハルクさん、イーリスさん、サリーの四人だ。
「おはようございます、皆さん。なんかお久しぶりですね」
一人ひとりとは個別に出会っているけど、四人同時に邂逅するのは珍しい。もしかして俺たちを待っていた?
「おはようって時間でもねぇが、おはよう。サトル、ナナ。実は俺たち、デルトの街に戻ることにしたから、お前たちにも挨拶しておこうと思ってな」
「あ、そうなんですね。バッツさんたちの本来の拠点はデルトなんだから、仕方ありませんよね。でも寂しくなります」
「それでなぁ、お前たち『暁の双翼』にお願いがあるんだが…」
場所を変えようぜというバッツさんの言葉に従い、俺たち全員はギルド内の飲食スペースの中でも端っこの目立たない場所(テーブル席)に陣取った。
注文した飲み物がきたあと、俺が会話の口火を切った。
「それで『お願い』とは何でしょう?」
「ああ、こいつ…サリーをお前たちのパーティーに入れてやっちゃくれねぇか?」
へ?何で?
【アイテムボックス】を取得して、これからパーティーに貢献していこうって話だったんじゃないの?
「おっと、勘違いするなよ。馘首にしたわけでも仲違いしたわけでもねぇぞ。実は『白銀の狼』を解散するんだわ。で、メンバーの受け入れ先を探してるってわけさ」
「何で解散するんですか?Bランクパーティーとして、まだまだこれからって感じだったと思うんですが…」
ギルドにとっても大きな痛手だろう。
「あー、実はなぁ。まだ口外しないで欲しいんだが、俺はデルト支部の支部長に推されてるんだわ。一応、任命されれば引き受けるつもりにしている。で、ハルクは副支部長で解体場の責任者を兼任、イーリスはデルト支部の中にある創薬部門の責任者に内定している」
「それはおめでとうございます。なるほど…、今の支部長が領主様になるから、支部長の椅子が空くわけですね」
アイーシャ・デルト女史の準男爵昇格の影響が『白銀の狼』に及ぶとは思わなかったよ。
「でだ。サリーの希望を聞いてみたら、お前たちのパーティーが良いって言うもんだからよ。どうだろう。面倒見てやっちゃくれねぇか?」
うーん、別に俺は良いんだけど、このリブラの街にずっと留まっているわけじゃないんだよな。俺としては外国なんかにも行ってみたいと思っているのだ。
俺は正直にそのあたりの事情を伝えた。
「サトル、大丈夫。外国でもどこでもついていくよ。だから私をパーティーに入れて欲しい。ナナもお願い」
「だったら俺は良いよ。ナナはどうだ?」
「私も大歓迎だよ。あ、でもパーティー名は変えたほうが良いね。『暁の双翼』じゃなく『暁の銀翼』にしよう。『白銀の狼』から『銀』の字をもらって」
確かに二人だけのパーティーじゃなくなるから『双翼』はおかしいな。うん、『暁の銀翼』…中二病っぽいが、なかなか良いと思うぞ。
俺の脳裏には、早朝の飛行場に駐機されているジェット旅客機が思い浮かんだけどね。
「良かったぜ。これで全員の行く末が決まったわけだ。お、そうだ。話は変わるが、お前たちも臨時の報奨金を伯爵様から貰ったんだよな」
「ええ、いただきました。過分な金額ではあったんですが、ありがたく受け取りましたよ」
「そいつは良かった。なにしろ今回の事件の解決にはサトル、お前の働きこそが一番だったからな。特にアークデーモン、ありゃヤバかった。実は八割くらいは死を覚悟してたんだぜ」
確かにあれはヤバかったと思う。結果オーライにはなったけど…。てか、メフィストフェレス氏こそが今回の事件における一番の功労者なのかもしれない。
「私はお兄ちゃんなら大丈夫だって思ってましたよ。だってお兄ちゃんですから」
ナナからの謎の信頼が重い…。あまり俺を信頼し過ぎないで欲しい。
「うん、私もサトルならきっと勝ってくれると思ってたよ」
サリーも乗っかってきたよ。
「いや、嘘だよな?」
「てへっ、ばれたか。実は勝てるなんて思ってなかったよ、正直言って」
「まぁ、俺自身も勝てるなんて思ってなかったから、別に良いけどさ」
サリーと俺の会話を聞いていたバッツさんが微笑ましそうに言った。
「お前ら、ほんと仲良しだな。こいつをサトルに預けるのが正解だってことがよく分かったぜ。まじでよろしく頼むわ」
「はい、お任せください。傷一つ付けず…は無理ですが、傷を負ったとしても俺の【光魔法】で治癒しますから安心してください」
「おお、お前に任せるぜ。サリーを一端の冒険者に育ててやってくれや」
あれ?サリーはEランクで俺は未だにFランク冒険者なんだけど、バッツさんの中では評価が逆転してないか?
ま、まぁその辺はあまり気にしないようにしておこう。
ちなみに、斥候役がパーティーに加わるのは、俺とナナにとってもありがたいことなのだ。
あと、将来ダンジョン(…って、あるらしい!)に行くときがあれば、サリーの【罠感知】が役に立つだろうしね。
あ、一つだけ懸念があるとすれば、それはサリーとナナの二人が可愛いってことだな(ナナは妹という建前なので、今まではそれほど敵視されることはなかったけど…)。
これからは俺への嫉妬の視線が激しさを増すかもしれない。さらに、美人のアンナさんまで加わった日には…。
うーん、どうしても(見かけ上は)ハーレムパーティーっぽくなってしまうよな。実際は全然ハーレムなんかじゃないんだけど…。
そんなどうでも良い心配をしている俺だった(いや、まじでどうでも良い)。
これで第1章【伯爵令嬢を助ける】は終わりとなります。
プロットもストーリーも無く、徒然なるままに書いてきましたが、いつの間にかストーリーっぽいものが生まれてきたのが不思議です。
第2章でも本来の目的である【気分転換】を忘れず、思いつくままに書いていきたいと思っております。
鬱展開になんか絶対にならないし、楽しく気軽に読めるものにしていくつもりです。
もしよろしければ今後ともお付き合いの程、よろしくお願い申し上げます。




