073 最終決着
晩餐のあと、伯爵様のご要望により俺たち五人(エイミーお嬢様、執事さんとアンナさん、俺とナナ)は応接室に集合した。
どうやら例の事件について、先方(ビエトナスタ王国)との交渉結果を教えてくれるようだ。
「まず、我がエーベルスタ王国の王室から事件の当事者としての交渉権をいただいたよ。要するに外交特権だな。それでアインホールド伯爵家としてビエトナスタ王国と直接交渉したわけだが、捕虜の身代金、慰謝料、国王印璽の返還料、国防軍第二部第三課の工作情報の四点について、一つずつ説明していこうと思う」
「あの、俺とナナが聞いても構わないのでしょうか?かなりの機密情報なのでは?」
「いや、君たちのおかげで事件が解決したのだから、当事者としてぜひ聞いてほしいんだよ。まずは捕虜16名分の身代金だけど、一人当たり5百万ダールで、総額8千万ダールとなった」
「お話を遮ってすみません。ダールというのは何でしょうか?」
おそらくビエトナスタ王国の通貨単位だと思うけど、為替レートが分からん。
「ああ、ビエトナスタ王国の通貨で、1ダールがほぼ我が国の1ベルと等しいと考えて良いよ。次に慰謝料だけど、二件の誘拐未遂事件の両方についての関与を認めたよ。慰謝料の総額は3億ダールと決まった」
ここでエイミーお嬢様が口を挟んできた。
「お父様、その額ではかなり安いと思うのですが…。桁が違うのでは?」
「ふふ、本命は印璽だからね。で、その国王印璽の返還料だけど、100億ダールで決着したよ。なにしろ、お金には代えられないものだからね」
「それなら納得ですわね。さすがはお父様です。ふふふ」
いや、怖っ!金額でかすぎだよ。
親子で笑い合っている姿も怖いっつーの。
「問題は最後の第三課の情報なんだが、どうやらデルト準男爵は金に目がくらんだらしい。先代だったらまず裏切ることは無かったはずだが、代替わりしたばかりの若者だからな。野心に付け込まれたんだろう。もちろん、同情の余地は無いのだが…」
「それではデルトの街へは?」
「うむ、すでに騎士団がデルト準男爵の捕縛に向かったよ。街の名前も変えざるを得ないだろうな」
「冒険者ギルドのデルト支部長さんは関与していたのでしょうか?」
「ああ、彼女…アイーシャ・デルトは先代の姪、つまり当代の従姉にあたるのだが、事件への関与の有無はこれからの調査次第だな。第三課の工作情報には出てこなかったので、無関係だとは思うが…」
なるほど。俺の印象では公明正大な人物って感じだったんだけどね。まぁ、一度だけしか会ったことはないけど…。
「とにかく、103億8千万ダールという大きな金額を我が伯爵家だけで独占するわけにはいかない。その七割程度、具体的には70億ダールを王室に献上することになるだろう。それでも約30億ダールは我が家に入ることになるだろうね。それで『白銀の狼』と『暁の双翼』にはそれぞれ1億ベルを配分しようかと思っているんだよ。少なくて申し訳ないが…」
へ?1億?宝くじが当たったかのような金額だな。なんだか現実味が無いよ。
てか、タロンさんの店で魔装具が買えちゃうよ。
「あの、私たちはそこまでの働きをしていないと思うのですが…。さすがに貰い過ぎというか、何というか…」
俺のこの言葉にエイミーお嬢様が食い気味に発言した。
「何をおっしゃっているのです。もしもツキオカ様がいらっしゃらなければ、私は今頃気持ち悪いガマガエルのもとにいたかもしれないのですよ。ええ、1億程度では全然不足ですよ」
ああ、うん。確かにそうなっていた可能性は高いかな?自分の働きを過小評価するつもりは無かったんだけど…。
伯爵様がお嬢様の言葉を引き継いだ。
「その通りだよ。本来ならば10億ベルくらいは出したいところだけど、あまりにも金額が多いと色々うるさいことを言ってくる貴族連中がいるものでね」
あぁ、なるほど。収入金額やその使途をオープンにしなければならないルールでもあるのかもしれないな。日本の『政治資金規正法』みたいな?
だとしたら、一介の冒険者風情に大きな金額は配分できないね。1億でも多いと思うよ。
「とにかくそういうわけで、全てが決着するまでもう少しだけ待っていてもらいたい。あ、そうそう、今回の件のお礼になるかは分からないが、ツキオカ殿の冒険者ランクを特例で上げるように冒険者ギルドに働きかけを行うこともできるよ。どうかな?」
あー、確かにランクが上がれば依頼受注の幅が広がるけど、あまりルールを破るようなことはしたくないんだよな。目立つし…。
「せっかくのお申し出ですが、お断りさせていただきたく…」
「そうか…。君には筆舌に尽くしがたいほどの恩義があるのに、それを返す方法が無いんだよ。そうだ!今後、ツキオカ殿とナナ君にはアインホールド伯爵家の後ろ盾があることを証する書類を用意しておくとしよう。もしも国内の他の貴族と揉めた際には、その書類を提示してくれたまえ。それで、君たちのバックに伯爵家が味方として付いていることが分かるだろう。どうだろうか?」
「それは大変ありがたく存じます。ぜひよろしくお願い申し上げます」
うん、先々貴族と揉める予定は無いけど、そういう書類があれば『転ばぬ先の杖』にはなるだろうし、良いんじゃないかな。




