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071 アイテムボックス再び①

 ワイバーン討伐依頼を達成してから二週間が経過した。

 あれからアンナさんはお屋敷の侍女としての仕事が忙しそうで、冒険者活動には参加できていない。

 俺とナナの二人ではEランクやFランクの依頼しか受けられないため、薬草採取をしながら、襲ってくる魔獣を倒して魔石を得るという活動に終始している。

 薬草採取自体は一日当たりせいぜい二千ベル程度の稼ぎにしかならないんだけど、別に問題ない。なぜって、俺たちは衣食住のうち、『食』と『住』にお金がかからないからね((いま)だにアインホールド伯爵家のお屋敷に居候(いそうろう)させてもらっているのだ)。

 要するに、スキルレベルを上げるための訓練として冒険者活動をしているようなものかな。駆け出し冒険者としてはめっちゃ恵まれた環境であるのは間違いない。


 ちなみに、冒険者ギルドに行くのは朝の混雑時を避けている。どうせFランク依頼なんて誰にも見向きもされないから、必ず余り物として残っているからね。

 今日ものんびりと薬草採取依頼書を掲示板から()がして、もはや顔なじみとなった受付嬢さんのところへ持っていった。

「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

「サトルさん、ナナさん、おはようございます。いつも薬草採取依頼を受けていただいて助かってます。あ、そうそう、一つ伝言を預かっております」

「なんでしょう?」

「『白銀の狼』のサーサリアムさんからなんですが、『今日の夕方、ここで会いたい』とのことです」

 ん?サーサリアム?…って誰だっけ?

「お兄ちゃん、サリーさんのことだよ」

 あぁ、愛称呼びが定着し過ぎていて、そっちしか覚えていなかったよ。てか、かなり久しぶりだな。

 なぜか『白銀の狼』のメンバーとは、冒険者ギルドの中でもリブラの街壁の内外でも会えていなかったんだよな。アインホールド伯爵邸で分かれて以来だよ。


「了解しました。それでは夕方には戻ってきますので…」

「はい、いってらっしゃませ。頑張ってくださいね」

 美人が笑顔でお見送りしてくれるってのは良いものだね。つい、顔が(ほころ)んでしまうよ。

 おっと、ナナがジト目で俺のことを見てるけど、気付かないふりをしたよ。実は『お兄ちゃん、キモッ』とか思われていたらショックだな。


 その日の薬草採取は思いのほか順調で、しかもダイアウルフを一匹狩れたから一日分の稼ぎとしては十分だった。

 夕刻、冒険者ギルドに帰ってきて、大行列ができている受付の状況をうんざりとした気持ちで眺めている俺たち…。朝は時間をずらせるけど、夕方はいつもこうなのだ。

 …っと、いきなり声をかけられた。

「サトル、久しぶり!ナナも会いたかったよ~」

 そこにいたのはサリーだった。俺と同年代だけど、頭一つ分だけ俺より背が低い。いつも明るくて活発な獣人族の女の子だ(ちなみに、可愛い)。

「おお、サリーか。久しぶりだな。全然会えなかったけど、仕事を休んでいたのか?」

「違うよっ!王都までの護衛依頼を受けていて、昨日リブラに戻ってきたんだよ。本当は『(あかつき)双翼(そうよく)』にも声をかけたかったんだけどさ。『三人以上が所属しているCランク以上のパーティーが二組』って条件だったから…」

 ああ、そりゃ俺たちは無理だな。二人っきりのFランクパーティーなので…。


「サトルとナナがうちのパーティーに入ってくれたら嬉しいんだけどなぁ」

 チラッ、チラッと横目で俺をチラ見してくるサリーだったが、俺の魔法を訓練するのに支障があるので、それは無理だ。

 『白銀の狼』のパーティーメンバーは、俺が【風魔法】と【光魔法】に加えて【水魔法】まで使える三属性(トリプル)だと知っている。秘密にしてくれているけどね。

 でも本当は七つの属性全てを使えるのですよ。ナナと二人だけだったら、それらの魔法全てを訓練できるからね。

「そんなことはともかく、何か用事でもあるのか?パーティーへの勧誘ってわけでもないんだろ?」

「うん…」

 一転して真面目な表情に変わったサリー。少し、落ち込んでいるようにも見える。

 いきなり俺の右手首を(つか)んだサリーはそのままギルドの建物を出て、少し離れた薄暗い路地のほうへと俺を引っ張っていった。

 無理に振りほどくこともできたけど、相手がサリーだからな。大人しく引っ張られていったよ。


 人目につかない路地裏で、俺の手を離したサリーがいきなりその場に土下座した。何だ何だ?

「お願い!私に【コーチング】してください」

 え?どういうことだ?てか、何を?

 ナナがきまり悪そうな顔をしているのが、薄暗闇の中でも分かった。

「ナ~ナ~、情報源はお前か~?」

「ごめん、お兄ちゃん。私の【アイテムボックス】のことを根掘り葉掘り聞かれて、つい…」

 そう言えば、サリーはナナの持つ【アイテムボックス】のことをかなり(うらや)ましがっていたな。


「とりあえず立ってくれ。【アイテムボックス】を【コーチング】してほしいということか?」

「うん、そうだよ。じゃなかった。はい、そうです」

「いや、敬語じゃなくて良いよ。今まで通りに接してくれ。…はぁ~、分かったよ。知らない仲でもないし、【コーチング】してあげるよ」

 瞬間的に立ち上がったサリーが、躊躇(ためら)いなく俺に抱きついてきた。ぐりぐりと俺の胸に頭をこすりつけている。

「サトルぅ、ありがとぉ。私の身体を好きにしても良いよ。ちなみに、処女だよ」

 ナナが少し怖い顔で、俺からサリーを引きはがしにかかった。

「サリーさん、そんなのダメに決まってるでしょ?妹の私が認めません!」

 いや、ナナも似たようなことを言ってたぞ(アンナさんもだけど…)。そんなに【アイテムボックス】ってすごいのか?まぁ、確かにすごいんだけど…。


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