069 総スキル上限
「一つ質問なのですが、【魔法抵抗+】の魔装具を着けると魔力量もそのプラス分だけ増えるのでしょうか?」
「いえ、抵抗できる確率が増加するだけで、魔力量は変わりませんな。残念ですが…」
俺の質問にも億劫がらずに答えてくれるタロン氏。
うーん、魔力量は増えないのか…。でも欲しいよね。三億は無理だけど…。
まぁ、金を稼いで、それを貯めていく際の目標ができたと考えれば良いか。冒険者活動を続けていくモチベーションにもなるしね。
「ねえねえ、お兄ちゃん。生産技能コーナーの商品も面白いよ。私たちには関係ないけど…」
ナナから手招きされて近付いた先にあったのは【鍛冶+○】【裁縫+○】【細工+○】【料理+○】【錬金術+○】などの魔装具だった。
俺はこの世界にあるスキルの全体像を知らないんだけど、【鍛冶】や【裁縫】なんてスキルもあるんだな。要するに職人ってことか。
もしも一人の人間に総スキル上限の制約が無ければ、【細工】や【料理】のスキルを【コーチング】してもらうんだけどな。ナナの言う『知識チート』ってやつを実行するためにも、何らかの生産系スキルは欲しいところだ。
「自分自身の総スキル上限の値が分かればなぁ…」
「分かりますよ」
ほんの小さな呟きだったのに、タロン氏がそれを拾ってくれた。しかも肯定だ。
え?まじで?
ナナが疑わし気な態度で質問した。いや、詰問か。
「各人の総スキル上限は計測できないはずですよ。少なくともこの国ではそれが常識です。他国の技術なんですか?」
「いえ、国内外を問わずそのような魔道具が開発されたとの噂は聞いておりませんな。ここからは秘密を守れるかどうかで話せる内容が変わるのですが…」
「他言しないことを誓いますよ」
「私も誓います」
俺とナナが相次いで秘密厳守を誓約した。
「まぁ、与太話として聞いていただければ…。実は、私はその値を計測できる人工遺物を所有しておりましてな」
えええ?なんだか詐欺っぽい話になってきたな。
「お客様方の本質が善なる若者たちであることは分かります。これでも人を見る目には自信がありますので…。その上でご提案させていただきたいのですが、総スキル上限を計測してみませんか?あ、もちろんお代はいただきませんよ」
その人工遺物が正確な数値を計測できるとは限らないし、もしも正確に計測できた場合、俺の(おそらくは)異常な数値をタロン氏に知られることになる。悩みどころだな。
「ねぇ、お兄ちゃん。私、やってみたいんだけど、良いかな?」
「まぁ無料だったら、試しにやってみても良いか。タロンさん、お願いできますか?」
「ええ、お安い御用です。少々お待ちくださいませ。すぐに準備を整えますので」
奥の部屋からタロン氏が持ってきたのは、A4用紙サイズの四角い箱みたいなものだった。ノートPCのように箱の蓋を開けると、箱の裏面にゼロを意味する数値が点灯した。
「こちらに両手を載せてください。一瞬で終わりますので」
なんか感電でもしそうだな。ナナも恐々と手を置いていた。
すぐにゼロだった数値が変化した。その値は950…。
あれ?普通の人は700~800って話だったような…。まさかの転生者特典ってやつですか?
「んん?おかしいな。壊れたのかもしれません」
タロン氏がそう言いながら自分自身の両手を人工遺物の上に置いた。そこに表示された数値は770。
「うーむ、私自身のは以前に計測した値と変わっておりません。壊れたわけでは無いようです。だとすると、お嬢様の総スキル上限は一般人の平均を大きく逸脱していることになりますな」
ナナの総スキル上限が950であることは、なんとなく正しい気がする。俺もやってみようかな?
「俺も試してみたいのですが、構いませんか?」
「おぉ、どうぞどうぞ。次こそは一般的な値が出ることでしょう」
いや、異常な値が出ると思うよ。
俺が両手を載せた瞬間、出現した値は思った通り異常なものだった。どうやら本当に総スキル上限を計測できる人工遺物みたいだな。
「こ、これは…。やはりどうにも調子が悪いようですな。人によっては正確な値を計測できないようです。無駄なお時間を使わせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、お気になさらず…。計測できなかったのは残念ですが、面白かったですよ。お金が貯まったらまた来店させていただきますので、そのときはよろしくお願い致します」
「ええ、お早いご来店をお待ちしております。本日はご来店のほど、誠にありがとうございました」
こうして店を出た俺たちだった。
最後まで丁寧な接客で、良い店だった。魔装具を買うときは絶対にここで買おう。
それにしても、あの数値は…。
「お兄ちゃん、あの数値って本当っぽいよね」
「ああ、さっきのあれって正確な値だと思うな。かなり驚いたけどね。てか、ナナの値もなかなかのものだったぞ」
「いやいや、お兄ちゃんの足元にも及ばないよ。何、あの数値、1600って異常だよ。本当に魔王なんじゃないの?」
そう、あの場にいた全員が目を見張ったあの数値って、なんと『1600』だったんだよな。まじで異常です。




