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067 ワイバーン討伐依頼③

 帰りの荷馬車の中での会話。

「お兄ちゃん、どうよ。Cランク魔獣であるワイバーンを圧倒した私たちってすごくない?」

 うん、少し危ない場面もあったけど、二体を瞬殺したのは確かにすごいと思う。

 ただ、アンナさんがナナを(たしな)めていた。

「ナナさん、一体目のワイバーンを倒したあとの警戒が(おろそ)かになったことは反省しないとね。サトルさんがいなければ二体目に背後から襲われていたのよ」

 おっと、俺が【風魔法】を撃ったことをアンナさんは気付いていたみたいだね。ナナは気付いていなかったみたいだけど…。

「え?そうだったんだ。調子に乗ってごめんなさい。お兄ちゃん、守ってくれてありがとう」

「いや、大したことはしていないぞ。今日の俺の労働は穴を掘ったこと、これに()きる」

 笑いながら自虐っぽく言った俺の発言で、場の空気が(なご)んだものになったよ。


 ・・・


 冒険者ギルドに戻ってきたのは正午前の時間帯だった。餌の調達に30分、現地での待機に30分、戦闘とその後始末(解体や穴掘り)に50分、往復する時間が100分でトータルは約3時間半ってところだな。

 朝食は食べたけど、昼食はまだだ。

 とりあえず、先に依頼達成報告と素材買取所へ肉を提出しておこう。


 朝、依頼の受付処理をしてくれた同じ受付嬢さんが座っている窓口へ行って、依頼書と魔石を提出した俺たち…。てか、アンナさん。

 今日の(あかつき)双翼(そうよく)のリーダーはアンナさんだからね(冒険者ランクの最も高い人がリーダーを務めるという不文律があるらしい)。

 朝は大行列だったのに、この時間は閑散としていて行列などは全く無く、すぐに手続きをしてもらうことができた。

 ちなみに、魔石を調べるための魔道具があるらしく、それにかければ何の魔獣なのかが分かるらしい。すごい技術だ。

「ワイバーン討伐依頼ですね。どちらの魔石もワイバーンのものであることが確認できました。こちらが報酬になります」

 差し出されたトレイには大金貨が五枚載っていた。うん、50万ベルだね。

 なお、魔石からは死亡推定時刻(つまり、魔石が死体から取り出された時間)も分かるそうなので、魔石店から購入したものを提出して不正に報酬を得ることはできないらしい。よくできてるなぁ。


 あ、今更こんなことを言っているのには(わけ)がある。なにしろ、デルトの街では自分で魔石を取り出したりはしていなかったから…。

 そう、魔獣の死体自体を解体所に持ち込んでいたから、魔石による討伐証明が必要なかったわけだね。

 なので、魔石鑑定を行う魔道具のことを初めて知って、ちょっと感動しているのだ。

 アンナさんが呆れた目で見てきたけど、俺って冒険者になったばかりのFランクなんですよ。そんな魔道具を知らなくても無理は無いと思います、はい。


「それじゃ報酬の分配はあとにして、先にお肉を売りましょう」

 アンナさんの先導で素材買取所(てか、解体所)に向かう俺たち。

 臭いがきついので、別(むね)になっているのだ。

「こんにちは。素材を売りたいのですが…」

 暇そうにしていた男たちの内、最も体格の良い大男が俺たちのほうへやってきた。

「おう、そこのカウンターに置いてくれ。解体済みか?」

「はい。一部解体済みで、未解体のものもあります」

 そう、ワイバーンについては食用肉の状態にしているけど、ダイアウルフやホーンラビットは死体のままだからね。


「じゃあ、未解体のやつはこっちの台に置いてくれ」

 ナナがワイバーンの肉とダイアウルフの魔石一個をカウンターの上に置き、俺が指示された台上にダイアウルフ等の死体を取り出した。

「うぉ!どこから出しやがった?まさか【アイテムボックス】か!」

 デルトの街の冒険者ギルドでも似たような反応をされたけど、適当に誤魔化すしかない。

「まぁまぁ、そこは個人情報なので詳しくは言えません。とりあえずこれで全部です。よろしくお願いします」

「うむ、聞きたいが聞くまい。まぁ、このくらいの量なら小一時間というところだな。そのくらいの時間にまた来てくれや」

 ダイアウルフ二体とホーンラビット三体だ。ポーターであれば一人で(かつ)いで運べるくらいの量だな。


 ・・・


 ギルド内の飲食スペースで昼食を()ってから、のんびりと(くつろ)いで時間を潰す俺たち…。

 ちなみに、この時間に帰ってくる冒険者はほとんどいないみたいだ。

 建物に入ってくるのは依頼者がほとんどだったよ(受付窓口が違うからすぐに分かった)。何の依頼をしているのかまでは分からなかったけどね。

 で、一時間半くらい()ってから解体所に戻ると、すでに査定は終わっていた。

「おう、総額と明細はこうなるぜ。解体料は差っ引いているけどな。納得したなら署名してくれ」

 その明細は以下の通り。


・ワイバーンの肉(二体分)  :200,000

・ダイアウルフの魔石(二個) :  2,000

・ダイアウルフの肉(二体分) : 12,000

・ホーンラビットの魔石(三個):    300

・ホーンラビットの肉(三体分):    600

・解体手数料(五体分)    : △3,500(ダイアウルフ:2,000+ホーンラビット:1,500)

・総額            :211,400


 ダイアウルフとホーンラビットはデルトの街の相場とほぼ同じだな。自分自身で解体しないと利益が減ったり、赤字になってしまうのだ(特にホーンラビットは一体分の利益が300ベルだけど、解体料は500ベルという…)。

 でも良いのだ。【アイテムボックス】に入れっぱなしにしておきたくない…。

 実は、アンナさんが解体を申し出てくれたんだけど断ったんだよね。余計な手間をかけさせてしまうのが申し訳ないので…。


 納得した俺は書類に署名して、トレイに載せられている硬貨を受け取った。

「それでは報酬を分配しましょう」

 さっきまでいたギルドの飲食スペースに戻って、飲み物を頼んだあと、さっそく分配を始めた俺たち…。

 ところが…。

「私の取り分は放棄します。お二人で分けてください」

 え?アンナさんが一番働いていたのに、何を言っているのやら…。

「ダメですよ。放棄するのなら俺のほうでしょう。基本的に見ていただけだし…」

「私は今回かなり働いた自負がありますよ。でも等分に山分けするのが(あかつき)双翼(そうよく)の基本方針ですよね」

 うん、ナナの言う通り。


 …で、このあと色々と話し合った結果、次のように決まった。

・アンナさん:大金貨2枚

・ナナ   :大金貨3枚

・俺    :大金貨2枚、金貨1枚、大銀貨1枚、銀貨4枚


 つまり、

・アンナさん:200,000ベル

・ナナ   :300,000ベル

・俺    :211,400ベル


 ナナの取り分が多いのは【水魔法】を使えるようになったご祝儀という意味合いもある。

 アンナさんの金額が一番少なくて申し訳ないのだが、本人が(かたく)なに譲らなかったので仕方ない。見た目からは想像もつかないが、彼女って案外頑固なんだよね。

 それにしても、たった一日(正確には三時間半)の仕事で、一般人の一か月分の稼ぎを得てしまう冒険者ってすげぇ。もちろん、命の危険があるためなんだけどね。


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