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063 テンプレ発動

 Eランクの依頼には誰でも倒せるような弱い魔獣の討伐依頼しかない。ゴブリン、スライム、ダイアウルフ、ホーンラビット等だ。

 どれも体内から魔石を取って、それをもって討伐証明とする。ただし、死体が勝手に消えて、魔石だけが残るなんて便利な仕様ではない(ゲームじゃあるまいし)。

 なので、解体用のナイフで魔石を取り出す作業が必要なのだが、それがかなりグロくてきついのだ。冒険者になった当初、ナナはやっていたみたいだけど…。

 俺は【アイテムボックス】に死体を丸ごと収納してギルドの解体場に持ち込むため、ウルフやラビット等の食べられる魔獣しか狩ったことが無い。

 ゴブリンを丸ごと持ち込むのは嫌がられるみたいなので…。って、そりゃそうか。


 というわけで、ウルフ系やラビット系の討伐依頼を探していた俺たちだったが、不意に後ろから声をかけられた。

「そこの女、珍しいスキルを持ってるじゃねぇか。俺たちのパーティーに入れてやるからこっちに来いや」

 俺とナナが振り向くと、そこにはガラの悪そうな30代くらいの男が立っていた。後ろにはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている仲間(らしき者たち)も数人いたよ。

 声をかけてきた男を思わず【鑑定】した結果が以下の通り。


・名前:ケーニヒ

・種族:人族

・状態:健康

・職業:冒険者(Dランク)

・スキル:

 ・鑑定        39/100

 ・耐鑑定       33/100

 ・剣術        43/100

 ・徒手格闘術     15/100


 (よわ)っ!…とは言っても、ナナよりも【剣術】や【徒手格闘術】のスキルレベルは上だけど…。

 てか、こいつも不良冒険者ってやつなのか?

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。テンプレだよ、テンプレ」

 ナナが(なぜか)嬉しそうにしているが、(から)まれて嬉しがるなよな。

「お前ら、兄妹(きょうだい)かよ。似てねぇな」

 余計なお世話だ。


 俺はケーニヒ氏に向かって言った。

「この子は俺とパーティーを組んでますから、あなたがたのパーティーには参加できませんよ」

「はっ、お前をどういうわけか【鑑定】できねぇが、Eランクの掲示板を見ているってことはどうせEランクかFランクだろ?俺たちゃDランクパーティーだぞ。どうだ女、俺たち全員で可愛がってやるからこっちに来いや」

 ナナが鼻で笑ったあと、こう発言した。

「お兄ちゃんも私もFランクだけど、あんたたちよりは強いよ。味噌汁で顔洗って出直してきな」

 (あお)るなぁ、ナナさん。てか、味噌汁って言っても通じないと思うよ。


 顔を真っ赤にしたケーニヒ氏(まさか味噌汁が通じた?)が右手を伸ばしてナナの肩を(つか)もうとしてきたので、俺がその右腕の関節を()めてやった。なにしろ【徒手格闘術】のスキルレベルが違い過ぎるからね(俺が81で、ケーニヒ氏が15)。

「い、(いて)ぇ、くそっ、放しやがれ!」

 ギルド職員さんや周りの冒険者たちが何事かと注目しているよ。

 気色(けしき)ばむケーニヒ氏の仲間たち…。一触即発の状況だ。…って、これがテンプレってやつですか?


 騒然とするギルド内ではあるけれど、俺たち当事者以外の周りの人たちは興味深げに見ているだけで、仲裁しようとする人は現れない。もしかして、こういう喧嘩は日常茶飯事なのか?

 ただ、そこへ一人の男性が現れた。

「何を騒いでおる。喧嘩なら建物の外でやれ。ギルド内の備品を壊したら承知しねぇぞ」

 誰だ?バッツさんとタメを張るくらいの大きな体格で、服を着ていても分かる筋肉の塊みたいな人だった。ボディビルダーかな?

「支部長…、いや、これは…」

 ケーニヒ氏がボディビルダーの男性を支部長と呼んだよ。なんと冒険者ギルドリブラ支部の支部長さんみたいだ。

 デルト支部の支部長さんとは全くタイプが違うな。


「どういう状況なのか、誰か説明しろ」

 支部長さんのこの言葉に説明を始めたのが、一部始終を見ていた受付嬢さんだった。

 このあと、支部長さんがナナを【鑑定】したのだろう。一瞬、目を見張ったが納得したように話し始めた。

「なるほど、そこのDランクどもがこの子にちょっかいをかけたくなった気持ちは分からんでもない。だが、断られたのなら男らしく諦めろや」

「いや、Fランク二人のパーティーは危険だから、俺たちが仲間にしてやるって言ったんっすよ。そのほうがこの女のためにもなるんじゃないっすか?」

 支部長さんが俺のほうに向きなおって質問してきた。

「お前らのパーティー名は?」

(あかつき)双翼(そうよく)です。俺はサトル、妹はナナと申します」

 驚いたように目を見開いた支部長さんは、俺のことをまじまじと見た。ん?【鑑定】しようとしている?


「ふっ、さすがは【ランク詐欺】や【最強】の異名を持つ男だな。俺の【鑑定】をもはじくとは…」

 あれ?なんでその(ふた)()を知ってるの?てか、どこまで広まってるんだよ。

「おい、お前ら、一つ忠告しておいてやる。こいつらに(から)むな。命が惜しくないってんなら別だがな」

「え?え?この若いのって、もしかして有名人なんっすか?」

「ああ、二属性(ダブル)の魔術師であり、あの『白銀の狼』のマウントバッテンと互角に戦えるだけの体術を持つ野郎だぞ。お前らが(たば)になっても(かな)う相手じゃねぇ」

 俺もあらためて挨拶しておこう。この支部では新参者になるし…。

「サトルと申します。妹ともども今後ともよろしくお願いします」

「あ、あ、こちらこそよろしくっす」

 いきなりへこへこ低姿勢になったケーニヒ氏とその仲間たちだった。険悪な雰囲気にならなくて良かったよ。

 ん?ナナさんや、なんだか不服そうだな。え?ここは模擬戦をして、相手をコテンパンにやっつけるのがテンプレだって?

 いやいや、そんな遺恨が残るようなこと、しないっつーの。平和が一番です。


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