006 マクシミリアン・ロードレイクの回想①
私の名前はマクシミリアン・ロードレイク。
ロードレイク騎士爵家の嫡子であり、お仕えするアインホールド伯爵家では騎士団の中の一部隊長を命じられている。年齢は28歳で、美しい妻と5歳になる可愛い一人娘が私の宝物だ。
今回の任務は、領都リブラより馬車で二日ほどかかる位置にあるデルトという街へ向かうエイミー・アインホールド様の護衛だ。
エイミー様は御年13歳で、大変可愛らしいお方だ。ただし、その内面はどうにも貴族令嬢らしくない。はっきり言って破天荒なお方なのだ。
そしてなぜかエイミー様の護衛の任は私に回ってくることが多い。団長や副団長の私への嫌がらせを一時期疑ったものだが、実はお嬢様のご指名だったらしい。
なぜか気に入られているのだ。解せぬ。
避暑を目的にデルトにある伯爵家の別荘へと向かうエイミー様は、アンナという侍女を一人だけ同行させている。
護衛については、護衛部隊長である私のほかに四名の騎士が任命された。少ないように思えるだろうが、領都と目的地の街を繋ぐ街道は安全なはずだ。
なにしろ我がアインホールド伯爵領内は盗賊の出現率が低く、治安が良いことで有名なのだ。我ら騎士団が日々尽力しているということでもある。
経済活動を考えるとこの治安の良さはとても重要であり、商人たちは安心して領内の街道を通って商売を行うことができるわけだ。なお、商人は旅の護衛として冒険者を雇うのが常識だが、より儲けを出そうと護衛無しで馬車を走らせる猛者もいたりするほどだ。
今回も旅程の初日は問題なく過ぎ去り、翌日の夜には目的地へ到着する予定だった。
そんな二日目の正午頃、ある森の中を通る街道を進んでいると少し小高くなった丘の斜面から丸太が落ちてきた。前方を塞ぐように落ちてきた丸太は、自然に落ちてきたものとは思えなかった。
なぜなら丸太の端にロープが括りつけられており、それを斜面とは反対側から引っ張って、ちょうど街道と垂直に丸太が置かれた状態になったからだ。要するに馬車が進めないように道を塞がれた形だ。
その後、バラバラと賊が姿を現したのだが、その数は30人を超えていた。隠れて弓で狙っている者がいる可能性を考えると賊の数はそれ以上だろう。
ここで俺は判断に迷ってしまった。
馬車の中にはお嬢様と侍女の二人だけだ。騎乗している私たち五人がお嬢様たちを馬に同乗させて、丸太を飛び越え逃走することは可能だろう。
しかし、その場合、高価な馬車や馬たちは戦利品として賊に提供することになる。
誇りあるアインホールド騎士団の一員として、(人命優先とはいえ)賊に屈することになるのはどうなのか?
この状況判断に迷ってしまったことが、逃走のチャンスを失うことになった。これが痛恨のミスになるかどうかは、これからの戦闘次第だが…。
現在、馬車の全周を騎乗した私たち五名が囲んでいて、多数の賊に対峙している状況になっている。賊の包囲の厚みを考えると、もはや敵中突破は難しいだろう。
こうなれば覚悟を決めて戦うしかない。
…っと、ここで馬車の扉が開いた。外を見たお嬢様が悲鳴をあげたのは、年齢から考えても仕方のないことだろう。しかし、賊たちにお嬢様の存在が知られてしまった。
「お嬢様、馬車の中から出ないようにお願いします」
私は賊たちと睨み合っているが、さすがに死んだり傷ついたりするのは賊のほうでも嫌なのだろう。なかなか仕掛けてはこなかった。
「多勢に無勢だろが…。なぁ悪いようにはしねぇから降伏しやがれ」
賊のほうは交渉により私たちを降伏させたいらしい。まぁそんなことは死んでも認められないわけだが…。
「騎士の誇りにかけて我が主を守り抜く。貴様らこそ退け」
今にも戦いが始まるかという緊張状態…。
多数の矢が降りそそいできたタイミングでついに戦闘が始まった。