058 事件の裏側
「ところで、もしもこのあと時間があるのなら、僕の、いや僕たちの抱える問題について相談したいことがあるのだが、どうだろう?」
今日は冒険者ギルドに行って、護衛依頼の達成報告とナナの【水魔法】の【コーチング】をお願いしようと思っていたんだよな。でも天気が悪いし、それは明日でも良いか…。
伯爵様の言葉に俺はこう返した。
「はい、構いません。私たちでお役に立てることがあるのなら、何なりとお申し付けください」
アンナさんに教えてもらったんだけど『冒険者とは自由人であり、王侯貴族の権威は及ばない』らしい…。でも、そんなの建前だからね。この国に居住している以上、この国の貴族には敬意を払うよ。
でも、伯爵家の抱える問題って何だろう?あと、ただのFラン冒険者に相談ってどういうことかな?
・・・
人払いのされた応接室…。部屋の中にいるのは伯爵様、エイミーお嬢様、俺とナナ、あと伯爵様の後ろに立つ執事さん、お嬢様の後ろに立つアンナさんの六人だけだ。
なんか緊張感が半端ないんだけど…。
「ツキオカ殿、ナナ君、二人に聞いてもらいたのはこの子のことだ」
ん?エイミーお嬢様のこと?あ、もしかして今回の襲撃事件に関する話かな?
ここから語られた伯爵様の話は、今回の事件の犯人を推理したものだった。実際、真犯人なのかどうかは分からないけど…。
それをまとめると、
・昨年王城で行われた舞踏会にて、エイミーお嬢様がとある人物に見初められた。
・婚姻を打診してきたのは、来賓として出席していた隣国ビエトナスタ王国の王太子殿下だった。
・婚姻の申し出は断った。なぜなら、お嬢様にはこの伯爵家を継いでもらわなければならない以上、他家へ嫁ぐことができないため。
・今回の襲撃事件(誘拐未遂事件)は、おそらくビエトナスタ王国の王太子殿下の命によるものだろう。
ナナが疑問を口にした。
「恐れながら申し上げます。王太子殿下ということは、ゆくゆくは国王陛下になられるお方ですよね。とても名誉なことだと思うのですが…」
伯爵様が苦々しげな表情で答えてくれた。
「この子と歳が近く、正室として迎え入れてくれるのなら僕も考えたよ。この家の跡継ぎについては、親戚から養子を迎え入れても別に構わないからね。でもね、その王太子殿下は40代で、しかも后は10人以上、子も30人近くいて、さらには孫までいるそうだ。容姿についても、ガマガエルみたいな脂ぎった中年男らしいよ」
「うわぁ~、それは… 」
ロリコンという言葉は、俺にだけ聞こえるくらいの声量だった。
しっかし、それは絶対拒否だよな。お嬢様が不幸になるのが目に見えてるよ。
「それで私たちに相談というのはどのようなことでしょうか?」
「うむ、今回の誘拐失敗でこの子への執着が消えたのなら良いのだが、最悪の場合、我が国の王室へ働きかけてくるかもしれない。そのとき、我が王室はビエトナスタ王国へ貸しを作るため、いや実際に鉱山などの権利を得るため、この子に隣国へ嫁ぐことを命じる恐れがある。拒否できない王命としてね」
「それではエイミーお嬢様があまりにもお気の毒です。なんとかならないのでしょうか?」
「うむ、もしそうなった場合、拒否はできないだろう。だが、僕はこの子を生贄として捧げるつもりは毛頭ない。そこで君たちへの依頼だ。この子がビエトナスタ王国へ赴く際の護衛として雇いたいのだ。そして、道中で盗賊に襲われることになるのだが、その機会を逃さずこの子と一緒に姿を消して欲しいのだよ」
なるほど、王命に従って隣国へ向かったものの、盗賊による襲撃で行方不明になってしまうという筋書きか…。
ただ、そのあとはどうするのだろう?
「大国であるゴルドレスタ帝国に伝手がある。君たちには、この子を連れてそこへ向かって欲しいのだ。言葉が通じぬ外国ということで苦労をかけるが、どうかお願いしたい」
伯爵様が俺たちに向かって頭を下げている。お嬢様も同様だ。執事さんやアンナさんも…。
【全言語理解】を持つ俺にとって言葉の問題は無いのだが、本当にゴルドレスタ帝国へ逃げるしかないのだろうか?
「あの、一つだけよろしいでしょうか?今回の誘拐未遂事件の報復として、ビエトナスタ王国へ暗殺者を差し向けて、王太子殿下の暗殺を試みるという手段は取れませんか?」
ナナがギョッとした顔で俺のことを見つめた。
いや、一つの思考実験だよ。多方面から検討していくことで、思わぬ名案が浮かんだりするかもしれない。




