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057 玉子サンド

 翌日の早朝、目が覚めた俺は窓にかかるカーテンを開けて天候を確認した。

 うっ、雨か…。しとしとと決して強くはない降り方だが、雨具無しではびしょ濡れになりそうな雨だった。

 そうそう、この世界の雨具には、畳むことのできる雨傘が無かったよ。開きっぱなしの雨傘は存在するけど、使っているのをあまり見たことが無い。だいたいの人は雨合羽(レインコート)みたいなものを羽織る感じになっているね。

 もしかして『畳める雨傘』を開発したら売れるんじゃないか?


 そう言えば以前、妹のナナに聞いたことがあるんだけど、この世界には特許制度が無いせいで構造が簡単な物はすぐに模倣されてしまうらしい。

 つまり、資本力の無い人間が発明を世に出しても報われないってことだ。

 ナナも子供の頃に雨傘やリバーシ(異世界での定番ゲームらしい)の構想を母親に話したらしいが、上記の理由で公表しなかったとのこと。

 なるほど、マヨネーズの場合、見ただけでは(レシピが無ければ)作り方が分からないから模倣されにくいよな。だからこそ権利料(ロイヤリティ)が発生するのか。


 そんなことを考えていると部屋の扉がノックされ、ナナの声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、起きてる?」

「ああ、起きてるよ。入っても良いぞ」

 部屋に入ってきたナナは、まだ起きた直後って容姿なんだけど、年頃の娘にしては少し恥じらいが足りないのでは?いや、兄貴に良い格好しても仕方ないか。


「ねぇ、手桶の中にお湯を出してよ。顔を洗いたいのよね」

「んん?ダメだぞ。俺は【火魔法】は使えないという建前だからな」

「やっぱ、秘密にしておくんだ…。ふふ、一応確認しただけだから」

 なるほど、そういうことか。

 いや、三属性(トリプル)でもヤバいのに、四属性(クアドルプル)はちょっとなぁ。てか、実は七属性(全属性)なんだけど…。


 そうこうしているうちにメイドさんがやってきて、洗顔の準備なんかをやってくれた。

 ナナはなぜか自分の部屋には帰らず、俺の部屋の中で顔を洗ったり、寝間着を普段着に着替えたりしている(服は【アイテムボックス】に入れているらしい)。

 もちろん、その間俺は後ろを向いているんだけど、なんとも言い難い気持ちだよ。彼女は妹、ドキドキすることもない…。そう自分に言い聞かせている俺だった。


 朝食は晩餐のときと同じ食堂で、伯爵様、エイミーお嬢様、俺とナナの四人で()った。

「ツキオカ殿、ナナ君、おはよう」

「おはようございます。伯爵様、エイミーお嬢様」

 朝の挨拶を四人で()わしたあと、お嬢様が発言した。

「そうそう、今朝の食卓には『マヨネーズ』という調味料を使った『玉子サンド』という料理を用意してみましたの。お父様、『マヨネーズ』も『玉子サンド』もこのナナさんから作り方を教えていただきましたのよ」

 おおお、玉子サンド!ゆで卵を砕いたものをマヨネーズであえて、パンに挟んだものだ(って、説明不要か…)。

 てか、この世界、丸い白パンはあるけど角型の食パンが無いため、三角形のサンドイッチじゃなく、ハンバーガーっぽくなってるけどね。玉子サンドではなく、玉子バーガーって感じだ。

 丸いパンを上下に分割して、その間に具材を挟んでいる感じだな。


「ほほう、どれどれ」

 一口食べた伯爵様が目を見張った。

「これは…美味い…」

 俺もいただいたのだが、確かに美味かった。てか、相性抜群のゆで卵とマヨネーズの組み合わせが懐かしくて、思わず涙が出てきそうだ。

「ツキオカ様、いかがでしょうか?ニッポンの味に近付けているでしょうか?」

「ええ、とても美味しいです。ナナもありがとうな」

 ナナがドヤ顔をしているよ。可愛いな。


「あ、そうだ。マヨネーズと言えば、揚げ物料理に欠かせないタルタルソースなんかも作れるんじゃないか?ナナがレシピを知っていると嬉しいんだが…」

「ん?知ってるよ。今度作ってあげるよ」

 お、それは嬉しいな。俺はタルタルソースが好きなのだ。特にエビフライはタルタルでなきゃね。

 俺とナナの会話にお嬢様が焦った様子で割り込んできた。

「ツキオカ様、ナナさん、そ、そのタル?何とかソースって何ですか?ぜひうちの厨房で作って欲しいんですけど!」

「エイミー、少し落ち着きなさい。しかし、僕も興味があるな。うちの厨房なら自由に使ってくれても構わないよ、料理長には伝えておくから」

 伯爵様も興味津々のようです。この屋敷の料理のおいしさを考えると、伯爵様もお嬢様も美食家(グルメ)っぽいもんな。新しい料理には目が無いのかもしれない。


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