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055 領都リブラ

 襲撃のあった日から三日後、応援の騎士たち及び捕虜移送用の馬車が到着した。思ったよりも早かったな。

 その二日後には何事もなく領都リブラに到着し、一行はそれぞれの目的地へと向かった。

 エイミーお嬢様とアンナさんの乗る馬車及び俺たち冒険者の荷馬車はアインホールド伯爵家のお屋敷へ。

 マックス隊長と部下の騎士さんたちは帰着報告のため騎士団本部へ。

 一部の騎士さんと捕虜の移送馬車は警吏(けいり)本部(警察署みたいなところらしい)へ。


 伯爵家のお屋敷は街の中心よりも少し北側の高台にあった。街の中心部を見下ろせるような位置だ。

 お屋敷はとてつもなく大きかった。デルトの街の別荘も(一般人の感覚では)お屋敷だと思ったけど、あっちはやはり別荘なんだなと理解したくらいだ。

 きっと従業員も多いんだろうな。


 エイミーお嬢様の馬車が先導し、お屋敷の玄関前に着くと、そこには老若男女たくさんの人がずらっと整列していたよ。圧巻だ。

 馬車から降りたお嬢様は澄ました顔で玄関へと歩いていく。一歩後ろにはアンナさんも付き従っていた。

 うーん、さすがは貴族っぽい(…って、貴族だけど)。堂々としているね。


 こちらはというと、御者を務めるイーリスさんが荷馬車をどこに向ければ良いのか迷っていた。

 しかし、すぐに玄関前に誘導された。え?俺たちも玄関から入って良いの?

 勝手口みたいなところに案内されるのかと思っていたら、初老の執事さん(みたいな印象の人)が俺たちに言った。

「このたびはエイミーお嬢様をお救いいただきまして誠にありがとうございました。旦那様がお待ちですので、どうぞこちらへ」

 使用人さんたちが両側にずらっと並んでお辞儀をしている中をバッツさんを先頭に歩いていく俺たち…。さすがのバッツさんも居心地が悪そうだ。

 てか、俺たちって単なる冒険者(俺とナナなんかFランクだよ)なのに、この待遇…。伯爵様(エイミーお嬢様のお父上)が良い人なんだろうか?いや、お嬢様が使用人たちに慕われているのかもしれないな。


 俺たち全員が通された応接室は、めちゃくちゃでかくて、内装も豪華絢爛だった。デルトの別荘の数十倍の豪華さだ。

 これだけ金持ちアピールされると、実は領民の血税を搾り取っている悪徳領主なのではないかという疑惑も生まれてくるよ(そんなことはないんだろうけど…)。

 ふかふかのソファに座ってメイドさんに飲み物を給仕される俺たち…。

 なお、そのソファだけど、バッツさんやハルクさんの体重でも壊れそうになかったのは素晴らしい。座面がめっちゃ沈みこんでいたけどね。

 一人落ち着いて紅茶を(たしな)んでいるのが妹のナナだ。なんでそんなに肝が据わっているんだよ。

「お兄ちゃん、エイミーお嬢様の実家で、アンナさんが働いているところなんだよ。皆さん、良い人に決まってるじゃない」

 なるほど、たしかに…。

 そう考えると俺も落ち着いてきた。


 しばらく待っていると、金髪をオールバックにした30代くらいの男性がエイミーお嬢様と一緒にやってきた。イケメン、いやイケオジだな。

「やあやあ、君たちがエイミーを助けてくれた冒険者たちだね。僕はこの子の父親で、この領の領主でもあるグレゴリー・アインホールドだよ。娘を救ってくれたこと、本当に感謝している。特にサトル・ツキオカ殿、貴殿には往路・復路共にお世話になったみたいだね。この子に聞いたよ」

 俺たちは全員ソファから立ち上がった状態だったのだが、俺の名前が出たので、仕方なく俺が返答した。

「身に余るお言葉、光栄に存じます。往路はともかく、復路では冒険者としての依頼を果たしたまでであり、特に称賛に値する行為ではございません」

「ふふ、この子に聞いていた通り、魔術師であるにもかかわらず謙虚で好ましい人柄だな。他の皆もゆっくり(くつろ)いでくれたまえ。今宵(こよい)の晩餐のときにでも、ぜひ武勇伝を聞かせてもらいたい」

 こうして挨拶だけしてから、領主親子はすぐに部屋から退出した。おそらく、気を遣わせないようにという配慮だろう。


「うひゃぁ、緊張したぁ~。サトル、お(ぬし)もえらく落ち着いてたじゃないかね」

 サリーがポスンとソファに座り込み、両腕を頭の上に伸ばしつつ俺に話しかけてきた。

「俺も緊張したよ。敬語とかあれで良かったのかな?」

「はっはっは、大したものだったぞ。晩飯のときの会話もお前に任せるわ。よろしくな」

 バッツさん…、ここにいる冒険者の中では最年長のくせに何を言ってんだ。あんたも会話に参加してくれよ。

 ちなみに、ハルクさんは無言でうんうん(うなず)いていただけだった。うむ、いつも通りだ。


 イーリスさんは部屋の中の調度品を物色するのに忙しい。さすがに伯爵様が来たときには直立不動になっていたけど、立ち去った今では再びあちこちを見て回っている。なんか不敬になりそうだから()めて欲しいんだけど…。

 ここでナナが話しかけてきた。

「ねぇ、お兄ちゃん。食事のときのテーブルマナーって分かる?私、自信無いよ」

「いや、俺も並んでいるナイフやフォークを外側から順番に使っていくってことくらいしか知らないぞ。てか、コース料理のように料理が順番に出てくるわけじゃないと思うし、適当で良いんじゃないか?あ、げっぷだけはするなよ」

 デルトの街の別荘での経験からすると、おそらく適当で良いはずだ。でもコース料理だったらどうしよう?


「げっぷ?…うら若き乙女になんてこと言うのよ。それってハラスメントだよ。何ハラか知らないけど」

「いや、すまん。単なる忠告だから…。まぁ気にすんな」

「何?げっぷはダメなのか?そりゃ気を付けておかなきゃならんな」

 おいおい、バッツさん…。貴族家の晩餐の席で不敬なことは()めてくれよな。まじでフォローできる範囲で頼みます。


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