047 戦闘の結末
戦場は乱戦状態に移行しつつある。
彼我の人数差がほとんど無くなったこと及び双方ともに近接戦闘要員のみになったことで、バッツさんが防御的な動きから攻撃的な動きへとシフトした。大斧を振り回しているバッツさんには、味方であっても恐怖を感じるよ。
サリーさんは単独行動を取らず、バッツさんをフォローするような形で敵を牽制している。めっちゃ立ち回りが上手い…。
ハルクさんは大盾でイーリスさんを守りながら、同時にナナも守ってくれているようだ。
そのイーリスさんは治癒ポーションを片手に、負傷者のもとへ近付いては薬液を振りかけていた。…って、ポーションって飲むだけじゃなかったのか。
ナナはハルクさんと共にイーリスさんを守るようなポジションなのだが、自分がハルクさんに守られていることには気付いているのかな?
で、俺はというと魔力の回復中だ。
さすがに中級魔法を連続で約10発も撃つと、魔力消費量は240~300くらいになっているはずだ(半分は発動に失敗しているし、成功時だけでなく失敗時にも魔力を消費するため)。
まだ、魔力残量はあるはず(ステータス画面で確認できないのが困るよね)だけど、【光魔法】のヒールやキュアのためにも温存しておきたいのだ。まぁいざというときには魔力回復ポーションもあるけど…。
てか、認識阻害のローブを着ているおかげで、誰にも俺の存在を認識されていないのが幸いだ。余裕で戦場を俯瞰できている。
『ここはいったん退いて態勢を立て直す。戦術的撤退だ!』
敵部隊の隊長が不利を悟ったのだろう。生き残っている部下たちに撤退の指示を出していた。
うーん、逃がしたくはないんだけどな。ここで取り逃がしたら、絶対にまた襲撃してくるだろうし…。
てか、隊長がしゃべった言葉ってビエトナスタ語なのか?バッツさんやマックス隊長は撤退の意図に気付いていないみたいだけど…。
やはり敵の部隊長だけは捕縛して目的を吐かせたいよな。うん、倒しておくべきだろう。
俺は彼の者の背後にこっそりと忍び寄り、近距離から(しかも背後から)【アイススピア】で太腿を貫いた。まず避けようがない。
痛みに絶叫しながら倒れ伏した隊長を見て浮足立つ敵の部隊員たち…。
これで大勢は決したな。
バッツさんや騎士たちによって一人、また一人と逃げることもできずに戦闘不能にされていく敵兵たちだが、降伏することは最後まで無かった。敵ながら大したものだ。
ほどなくして、全ての敵が死亡または瀕死もしくは重傷の状態になった。
こちらは騎士たちが軽傷を負っているものの、俺たち冒険者に被害はない(正確に言えば、多少は有ったがイーリスさんの治癒ポーションで回復している)。
終わってみれば圧勝だったな。
死体は一か所に集められ、装備をはぎ取ったあとは土に埋めるらしい。
「イーリスが【土魔法】を習っていればなぁ」
そうぼやきながら街道脇の土を掘り出したのはバッツさんとハルクさんだ(ハルクさんは無言だったが…)。
土を掘るために使うシャベルはナナが【アイテムボックス】から取り出してバッツさんたちに渡していたから、素手で掘ってるわけじゃないけどね。
俺の【土魔法】のスキルレベルは50だから、初級の【ディグホール】を発動してあっという間に穴くらい掘れるのだが、ここではさすがに見せられない。
ただ、穴掘りに要した時間はそれほどでもなかった。身長が2メートル近い大男二人で作業したこと、死体が四人分しかなかったことから30分程度だったかな。
その間にイーリスさんが治癒ポーション(中級)で敵の中の重傷者を治療していた。上級を使えば完全に治ると思うのだが、死なない程度(あと、自力で歩ける程度)に回復させれば良いのだ。てか、ポーションがもったいない。
俺は認識阻害のローブを脱いで、左腕にかけた状態でバッツさんに話しかけた。
「さすがはBランクパーティーですね。メンバーの連携が見事で、見習いたい点が多々ありましたよ」
「ありがとよ。サトルもご苦労だったな。活躍してるのかしてないのか姿が見えないから分からなかったが、弓士や魔術師からの攻撃が無くなっていったのは実感してたぜ」
バッツさんの言葉に、他のパーティーメンバーも笑顔で頷いていた。自分の働きを他人に認めてもらえるのは嬉しいものだね。
「私はあまり活躍できていなかったですね。逆に足を引っ張っていたかもしれません」
ちょっと落ち込んだ風に話すのはナナだ。
まぁ所持しているスキル的にも妥当なところだろう。でも、領都で【水魔法】を習えば、活躍の場が広がるはずだ。
まだまだ新人冒険者なんだから少しずつ成長していけば良いと思うぞ、妹よ。
あまり盛り上がることなく終わったように見えるでしょうけど、実はまだ序盤戦です。
主人公が(真に)活躍するのはこのあとの話になるので、もう少々お待ちください。