040 アンナ・シュバルツの回想③
ツキオカ様を冒険者ギルドへとご案内して、冒険者登録をしていただきました。
お嬢様の発案なのですが、その意図は明白です。ここから領都リブラへ戻る際の護衛をツキオカ様にお願いするため(指名依頼ですね)。あと、マヨネーズやカスタードクリームの開発を領都のお屋敷で行うために、ツキオカ様からのアドバイスを得るためでしょうね。
なんとなく、後者の比率が高そうな気もしますが…。
そのとき驚かされたのが、ツキオカ様の持つ【アイテムボックス】のスキルでした。しかも達人レベルだそうです。
さらに【徒手格闘術】のスキルレベルの高さにも驚かされましたけど…。
お屋敷へ戻ったあと、私はツキオカ様のお部屋にお邪魔して、意を決してあるお願いをしました。
「ツキオカ様、もしよろしければ私に【アイテムボックス】のスキルを【コーチング】してはいただけないでしょうか?」
希少中の希少スキルと言っても過言ではない【アイテムボックス】です。対価として申し出た一億ベルは安過ぎるとは思いましたが、私の生涯年収を考えるとこのくらいの額が限界です。
ところがツキオカ様はあっさりと無償で(そう、無償で!!!)【コーチング】を行ってくださいました。
ステータス画面に表示されている
・アイテムボックス 34/100
に感無量です。
あまりの嬉しさに気絶しそうです。
ただ、このご恩をどう返せば良いのか…。もはやこの身を捧げるしかないのでは?
そう考えた私はツキオカ様へご提案しました。
「私、これでもまだ乙女なのです。ツキオカ様なら私の『初めて』を差し上げても…」
時間的にはとても短いお付き合いなのですが、ツキオカ様のご気性、容姿、能力の全てが好ましく、私を娶っていただけるのならこれに勝る喜びはありません。
お礼という建前での発言ですが、本心は『好き』になってしまったということなのです。
ところがツキオカ様は私の申し出を断りました。ショックです。少しは興味を持ってもらえると思ったのに…。
でもそれはツキオカ様の優しさでした。私の身を案じてくださっただけだったのです。
これでさらに『好き』という気持ちが増した私は少しちょろいのでしょうか?
・・・
ツキオカ様が初めての依頼(Fランク依頼の『薬草採取』らしいです)に赴く際、私も同行することを申し出たのですが断られました。お嬢様の公認もあってツキオカ様のお手伝いをすることに問題は無いのですが、簡単な依頼なので恥ずかしいとのことでした。
少し心配ではありますが、ツキオカ様の実力ならば危険はないでしょう。
ところが、そこで可愛い女の子を引っかけてきた(もとい、助け出してきた)というのが、(私にとっての)大問題でした。
ナナさんとおっしゃるその女性はFランクの冒険者で、とても可愛いお方でした。男たちに襲われそうになったところをツキオカ様に助けられたそうです。
さすがはツキオカ様です。さらに憧憬の念が深まります。
大問題なのは、その女の子…ナナさんを妹にすると言い出したことです。
私から見てナナさんは、ツキオカ様のことを(男性として)慕っているように見えるのです(ツキオカ様ご本人は気付いておられないようですが)。これって強力なライバルの出現ではないでしょうか?
ツキオカ様の態度を見ると、今のところは家族としての親愛の情しか抱いていないように見えますが、将来的には分かりません。パーティーを組んで冒険者活動を行うそうですし…。
ああ、どうしよう。私もツキオカ様のパーティーに加えていただけないかしら?
でも侍女としての仕事もあるし…。
でも、このままだと…。




