039 スマートフォン
ナナと俺の二人で談笑していると、部屋の扉がノックされ、アンナさんの声が聞こえてきた。
「ツキオカ様、お部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「あ、どうぞ」
「失礼致します」
部屋に入ってきたアンナさんはナナを見て少しだけ目を見張ったけど、それに関しては特に何も言わず、俺に本来の用件を伝えてきた。
「ツキオカ様…」
「あ、そうだ。この子を【鑑定】すれば分かると思いますが、同じツキオカ姓の『ナナ・ツキオカ』となりました。紛らわしいので、俺のことはサトルと呼んでください」
「かしこまりました。サトル様…」
「『様』は無しで…」
苦笑しつつ、お願いする俺。
アンナさんって、侍女モードに入っているときは誰に対しても丁寧な態度を堅持しているのだ。冒険者モードのときは割とフレンドリーなんだけどな。
「サトルさん、ギルドの支部長室で話の出ていた人工遺物を見せていただくわけにはいかないでしょうか?厚かましいお願いであることは重々承知しておりますが…」
「もちろん、大丈夫ですよ。今まさに俺の手にあるのがその人工遺物です。どうぞ手に取って見てください」
俺はスマホをアンナさんに渡した。
「ナナ、アンナさんに操作方法を教えてやってくれないか?」
「え?ナナさんは人工遺物の使い方をご存知なのですか?いったいどうして?」
「それはまぁ、俺の妹ですし…」
ナナがついさっき義理の妹になったばかりなのをアンナさんも知っているので、全く答えになっていない返答なんだけど、こればかりは説明のしようがないのだ。『転生』なんて説明できないし…。
そう言えば、ナナが転生してから18年が経っているんだよな。あれ?おかしくないか?18年前にスマホってあったっけ?
ナナがアンナさんにさっき撮った写真を見せてあげている。アルバムの機能だな。精緻過ぎる肖像画に驚いているアンナさん。いや、絵じゃなくて写真です。
俺は疑問に思っていることをナナに尋ねてみた。
「なぁ、ナナさんや。きみの使っていたスマホの機種は?」
「うん?リンゴ印の『5』だよ。高一のときに買ってもらった最新機種なんだ」
は?それって俺が中学生くらいのときの機種だよな。欲しかったからよく覚えている。
…ってことは、それから8年くらい経っているから、ナナの年齢は8歳じゃないとおかしい…(でも、ナナは自分で18歳だと言っていた)。
えーっと、これってもしかして、俺がこの世界に移動するのに10年くらいかかっているってことなのか?
もしもすぐに元の世界に帰れたとしても、すでに10年経過してるってことになる。さらに、元の世界に戻るときにも10年の時が必要なのだとしたら、元の世界では20年後ってことになるんじゃないのか?
くっそー、ふざけんな。大学は退学になっているだろうし、戸籍自体も死亡扱いになっているよ、絶対…。
まさに浦島太郎だ。てか、浦島太郎って異世界転移の話だったりしてな(一般的には、光速に近い速度で飛ぶ宇宙船に搭乗したことによるウラシマ効果なんて言われているけど)。
なお、世界間移動に10年かかっていても、俺の肉体的年齢は変化していない。これも浦島太郎と同じだ(玉手箱を開けるまでは…)。
「お兄ちゃん、どうしたの?なんか怒ってるの?」
難しい顔をしている俺を見て、ナナが心配そうに声をかけてきた。
俺は眉間の皺を消して、微笑みを浮かべた。
「いや、怒ってないよ。神様にちょっと文句を言ってやろうと思っていただけだから」
「んん?よく分からないけど、怒ってないんだったら良いや。ねぇお兄ちゃん、私とアンナさんのツーショット写真を撮ってよ」
「ああ、良いぞ」
スマホを受け取った俺は少し離れた位置から二人を撮影してあげた。
ナナがアンナさんに笑うように言っていたけど、かなりぎこちない感じの笑みになっていたよ。写真慣れしていない人の『あるある』だな。
アンナさん、スマイルプリーズ!