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038 晩餐のあと

 ナナには俺とは別の客室があてがわれたようだが、夕食後の現在、なぜか俺の部屋に居座っている。

 初めて会った貴族の屋敷に一人でいるのが不安なんだろう。うん、分かる。

「サトルお兄ちゃんってアンナさんのことが好きなの?」

「な、な、何を言っているのかな、妹よ。お、俺はね、非モテの陰キャなの。彼女いない歴(イコール)年齢なのだよ。俺のことよりも、ナナに彼氏はいないのか?」

「そんな余裕なかったよ。生きていくだけで精一杯…」

「あ、なんか、すまん。でもこれからは兄妹(きょうだい)仲良く、力を合わせて生きていこうぜ」

「ふふふ、そうだね」

 嬉しそうに微笑んでいるナナだった。あれ?そう言えばナナの年齢を聞いていなかったな。


「ナナって歳はいくつなんだ?俺は21歳なんだけど、まさか俺より上ってことはないよな?」

「えへへ、18歳だよ。ちょうど良い感じの年齢差だね」

 あ、良かった。姉と弟ではなく、兄と妹だったよ。

 ん?でも前世の年齢を合算すると35歳なのでは?…まぁこれは指摘しないほうが良さそうだ。


「住まいは借家なのか?それとも持ち家?」

「借家だよ。でももう借家契約を解除する手続きをしても良いんだよね?」

「ああ、もちろんだ。とりあえずデルトでの拠点はこのお屋敷にして、エイミーお嬢様を領都リブラまで護衛したあとは、リブラの中で借りられる部屋か家を探そう」

「うん、分かった。明日は大家さんのところに行くから、お兄ちゃんも付いてきてくれるかな?」

「いいぞ。しばらくの間はお互いに単独行動はしないようにしようぜ。逆恨みの仕返しなんかがあるかもしれないからな」

 そう、そのときは返り討ちにしてやるつもりではあるけど、不意を突かれてピンチになったりする可能性もあるからね。用心だけはしておこう。


「あ、そう言えば…」

 俺は数日前のこと(菓子パンの一件)をふと思い出した。

「なぁ、ナナさんや。きみはマヨネーズやトマトケチャップのレシピを知ってたりしないか?俺は知らないんだが…」

「おぉ、異世界名物、知識チートだね。マヨネーズの作り方は知ってるんだけど、問題は卵の鮮度というか衛生度なんだよね。【光魔法】の上級に【ピュリフィケーション】ってあるんだけど、それを使えば卵をきれいに殺菌できるはずだよ。でも、それが無いと危険すぎてマヨネーズは作れない。と言うか、作っちゃいけないと思う」

 ほほう。俺の【光魔法】のスキルレベルは現在80なんだが、それが90にさえ上がれば上級魔法の【ピュリフィケーション】が使えるようになるわけだな。

 それまでマヨネーズ作りはおあずけか…。

 いや、【光魔法】の上級が使える人間を探せば良いだけかもしれないが…。


「とりあえずレシピを紙に書き出しておいてくれないか?お嬢様への恩返しになるからさ。あ、もちろん【ピュリフィケーション】が必要なことも書いておいてくれよ」

 俺は【アイテムボックス】からA4のノートを取り出して、そこから一枚分の紙を破り取り、シャーペンや消しゴムと共にナナに差し出した。

「うわっ、懐かしいな~。シャーペンと消しゴムだぁ。これ他の人に見せちゃダメだよ。人工遺物(アーティファクト)だと思われるからね」

「その『アーティファクト』って何なんだ?」

「古代の遺跡から発掘された遺物で、古代超文明のすごいテクノロジで作られてるらしいよ。オークションにかけたら数億ベルになったりするものもあるみたいだけどね」

「へぇー、俺のスマホなんかだと数兆ベルになるかもな」

「お兄ちゃんのスマホ、良いなぁ。羨ましいなぁ。ねぇ、私にちょうだいよ」

 いや、俺は健全な男子大学生だから、検索履歴なんかを見られた日には大変なことになってしまうのだ。なので、絶対に渡せない…。


「絶対にダメだ。ちなみにソーラーバッテリーも持ってるから、故障しない限りはずっと使えるぞ。記念に二人で写真でも撮るか?」

「そだね。あ、一応念のために、ロックの解除方法を教えておいてよ」

「う…、ま、まぁそれくらいは仕方ないか…。ロック解除の暗証番号は…」

 あれ?なんか自然に教えてしまったような…。しかも【アイテムボックス】から取り出したスマホは、現在ナナの手に握られている。

「ふふふ、これでお兄ちゃんの弱みを握れるかも…」

「…っておい!ブラウザの検索履歴だけは見るなよ。絶対だぞ。約束できないなら、今後一切スマホを使わせないからな」

 ここではインターネットに接続できないんだから、ブラウザを起動することは絶対に無いはず…なのだ。

 しまったな。先に履歴の削除をしておけば良かった。


 ふとナナの顔を見ると、スマホを手にしたまま涙ぐんでいた。

「お、おい。どうした?」

「あ、ごめんなさい。あまりにも懐かしくて泣きそうになっちゃった。えっと、そんなことよりも写真撮ってあげるね」

 スマホのレンズを俺に向けたナナの手元からカシャッカシャッという音が鳴っている。

 このあと、俺がナナをモデルに写真撮影し、さらに自撮り風に手を伸ばしてツーショットの写真も撮った俺たちだった。

 見た()的には全く兄妹(きょうだい)に見えない俺たち(金髪の西洋人風であるナナと黒髪で日本人風の俺)だが、こうして仲の良い兄妹(きょうだい)っぽい雰囲気になっているのがとても嬉しいよ。てか、中身は同じ日本人だからね。


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