369 外壁完成
【土魔法】の攻撃魔法である【ストーンバレット】や【ストーンライフル】は何も無いところから石礫の弾丸を生成するため、その弾丸のサイズというのは決まっている。
しかし、土壁を作る【クレイウォール】や穴を掘る【ディグホール】は既存の土(つまりは地面)の操作であり、無から有を生み出しているわけではない。なので、【クレイウォール】で生成する土壁の大きさは特に定まっていないのだ。大きいものから小さいものまで自由自在なんだよね。
ただし、最大値はスキルレベルに依存する。これは同じ魔力量10を消費したとしても、スキルレベルの高低で地面の操作『効率』が異なるせいらしい。
俺の場合は最大で2m×2m×1m(つまり4立米)の容積を一回の魔法発動で操作できる。あ、立米ってのは立方メートルのことね。
ちなみに、サルトル氏のスキルレベルであれば1立米程度となるはず…。なので、高さ2m、厚さ50cmであれば、横方向の長さは1mまでとなるのだ。
俺が現時点の土壁の仕様(高さ2m、厚さ50cm)に合わせて構築するならば、一回の魔法発動で4mの長さの土壁を構築できるということになる。
なお、あくまでも土操作なので、土壁構築のための土(材料)はその壁の外側から持ってきている。要するに、深さ1m、幅1mの空堀が同時に作られるってわけ。これにより、外から攻める際は2mではなく、高さ3mの壁ってことになるのだ。
あと、総魔力量と魔力回復速度を考えると、最初に50回を連続発動し、そのあとは1時間に20回くらいのペースで発動できるはず…(20回ではなく、もっと多いかもしれないけど)。
俺の【土魔法】のスキルレベル(70)では魔法の成功率が90%となるので、ざっくり計算すると、夜間の8時間で45+18×8=189回の魔法発動成功を見込めることになる。4倍すると756mだな。
現在1kmの外周(工事予定長)のうち、およそ半分は完成しているみたいなので、概算では4時間半くらいで残り全ての土壁を構築できると思うよ。時間的には余裕だな。
…で、結局村人全員が寝静まった深夜、ジル村長の指示に従って村の外壁をほとんど作ってしまった俺だった。ざっくり4時間くらいの作業時間だったよ。
午後10時から翌日の午前2時頃までの作業時間で、徹夜することもなく終わったのは本当に良かった。照明を掲げるジル村長の目が虚ろになっていたのが、ちょっとホラーだったけど。
いや、なんか驚き過ぎて呆然としていたらしい。もちろん、土壁構築地点の指定についてはしっかりとやってくれたけどね。まぁ、ほとんどは既存の木の柵の少し外側に作れば良かったみたいなので、指示出しについては特に要らなかったかもしれないんだけど。
あ、ちなみに完成はさせていない。土壁には残り1mほどの隙間を設けているよ。この隙間って、サルトル氏が最後に構築する箇所になるんだよね。
・・・
「なっ!なんじゃこりゃ~!!!」
10時頃に起き出してきたサルトル氏が今日の分の作業を始めようと作業現場にやってきたときの第一声がこれだ。
確認のため土壁に沿ってゆっくりと走るサルトル氏。ようやく1mの隙間(木の柵のみの場所)を発見して少し安堵した表情になった。
その場所に待機していたジル村長が彼に話しかけた。
「サルトル様、流石でございますな。いつの間にやらここまで完成させてくださっていたとは…。それではこの場所が最後の1mのようですが、どうぞ魔法をお願い致します。村民一同も今や遅しと待っておりますぞ」
そう、村民のうち約50人がこの場で待っていたのである。これはサルトル氏にプレッシャーをかけるためだ(何やかやと理由をつけて、作業の引き延ばしを図ろうとするのを許さないため)。
もちろん、この場にはサガワ君、ホシノさん、クロダ先生、そして俺の姿もあるよ。こんな面白い場面を見逃すなんてできません。
「い、いや、俺様がやったわけでは…。ごほん、いや何でもない。きょ、今日は体調が悪いから作業は休ませてもらいたい」
この発言の理由は、今日が作業を始めてちょうど一か月目になるからだな。今日中に完成すれば報酬は一か月分だけど、明日までかかれば二か月分の報酬となるのだ。これは日割り計算を行う旨が依頼書に記載されていなかったためである。たった一日でも二か月目に突入すると、二か月分の報酬が発生することになるのだ。
「体調が悪い割には先ほど走ってましたよね?それに毎日作業しないと違約金が発生しますよ」
ホシノさんがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、そう言った。確かに、依頼書には『毎日作業できる人物であること』という文言があったな。
「ぐっ、ぐぬぬ。わ、分かった…」
サルトル氏が(嫌々ながらも)【クレイウォール】の魔法を発動したことで、最後の1mが完成したのであった。村民たちから贈られる拍手の音がこの場に鳴り響いていたよ。
ジル村長が依頼書に完了の署名をしたことで、サルトル氏の受注したこの依頼は僅か一か月で成功裡に終わったわけだね。その後、村長宅に戻った彼は身支度を整えたあと、すぐにこの村を出立した。この領の領都にある冒険者ギルドの支部へ行って、依頼達成報告と報酬受け取りを行うのだ。
ただ、出立直前にホシノさんがサルトル氏にこっそりと耳打ちしていた。話の内容は聞こえなかったんだけど、彼の表情を見る限りなんだか怯えていたようにも思える。いったい何を言ったのやら…。
「『暁の銀翼』の名を騙るのを諫めただけですよ。ツキオカさんの評判が悪くなっても困りますし」
「ああ、それはありがとう。てか、あの人、かなり怯えていなかったか?」
「ふっふっふ、『暁の銀翼』のリーダーは男爵位に叙爵されているので、このままだと貴族の名を騙った罪で死罪になりますよって言っただけですよ」
なるほど。それは肝が冷えたことだろう。
あ、そう言えば『あの伝説の冒険者パーティー』という言葉の意味を聞くのを忘れてたな。『伝説』って何なんだよ。




