364 マジックハンドバッグ
食事のあと、ホシノさんの部屋を訪れた俺…。当然一人ではなく、エレンさんと一緒にだ。
ホシノさんがスキル付与の立会人として名乗り出てくれたので、場所(部屋)を借りることにしたのだ(食堂で実行するわけにもいかないし…)。
で、エレンさんの承諾を得た上で、彼女に対して【アイテムボックス】を【コーチング】してあげたってわけです。
もちろん、無償だよ。
これにより現在の彼女のステータスはこうなった。
・名前:エレン
・種族:エルフ族
・状態:健康
・職業:冒険者(Dランク)
・スキル:
・鑑定 56/100
・耐鑑定 61/100
・アイテムボックス 31/100
・魔法抵抗 82/110
・弓術 86/120
・徒手格闘術 43/100
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・風魔法 102/200
人族や獣人族と同じように、何の問題もなくスキルを取得できたみたいだね。うん、良かったよ。
「それじゃ、100ゴル札100枚の札束を960個出しますので、エレンさんの【アイテムボックス】の中へ収納していってくださいね」
「え?えぇ。この差額って、本当に貰っていいものなのかどうか、ちょっと疑問と不安を感じるわね。【アイテムボックス】の【コーチング】料金って、本来だったら幾らくらいなの?」
「さあ?今まで対価を貰ったことがないので、よく分かりませんね」
そんなことより、札束を出していく作業で今は忙しいのですよ。札束をさらに10束まとめた状態で収納していたので、それを96個取り出していく。
めっちゃ大変…。てか、束ねる単位をもっと多くしておけば良かった(100束単位とか…)。
「一つの札束がきちんと100枚あるのかどうかは、さすがに信用していただかないといけません。まぁ、別に数えてもらっても良いですけどね」
「いやいや、そんなの信用するに決まってる。帯封もあるし…」
「それではこれでアレン君への【リジェネレーション】料金と『マジックバッグ』料金の相殺が差額を支払うことで完了したということになります。よろしいですね?」
「ああ、こちらとしても異論はない。ただ私たち姉弟があなた方に恩義を感じていることだけは覚えておいてもらいたい。エルフ族はサトル氏とその仲間たちに対して、今後最大限の便宜を図っていくことを誓約するよ。本当にありがとう」
恩は売れるときに売っておくべきだって誰かが言っていたような気がする。将来、どんな役に立つか分からないしね。
エレンさんに(期せずして)恩を売れたようで良かったけど、俺としては『マジックバッグ』で十分元は取れたと思っているよ。
ここで今まで静かだったホシノさんが口を開いた。
「実年齢はともかくとして、見た目が犯罪的になりますから篭絡するのはほどほどに…。ロリコン疑惑をかけられないようにしてくださいね」
え?それって俺に言ってるの?
てか、篭絡なんてしてねぇよ。あと、俺はロリコンじゃねぇ!
・・・
このあと、ホシノさんのハンドバッグ(もちろん中身は空にしてもらった)を受け取ってから自室へ戻った俺は、すぐにハンドバッグの改造を始めた。
ちなみに、トートバッグやショルダーバッグほど大きくはないけど、『魔道基板』や『魔石ケース』を内蔵するためのスペースくらいはありそうだ。
問題はミスリル板を設置する位置だな。側面?底面?うーん、デザイン面と運用の際の利便性を考慮すると…。
あっ、持ち手の部分に筒状にしたミスリルを巻き付けることで身体的接触を実現すれば良いのでは?
うまくいくかは実験してみないと分からないけど…。
革製のハンドバッグの底の部分に魔道具としての機構を組み込んでいって、それを厚みのある皮革で蓋をする。要するに、二重底だな。
内部容量はかなり減るけど、普通にハンドバッグとしての機能も維持するわけだ。
問題は魔石のセット方法なんだけど、魔石カートリッジ方式を採用したほうが利便性は高くなるだろうね。面倒くさいけど…。
あと、『魔道スイッチ』はハンドバッグ内部に取り付けることで、目立たないようにしよう。
運用方法については、ハンドバッグの持ち手の一つ(ミスリルを巻き付けた側)を左手で持って、バッグ内に右手を入れてからスイッチを操作すれば良いんじゃないかな?
こうして大まかな設計が固まったところで実際の作業を開始。
俺の【細工】スキルのスキルレベルの高さも相まって、それほど苦労することなく試作品が完成したよ。徹夜作業になったけどね。
てか、気づいたら朝だった。
動作テストでも問題は発生しなかったし、なかなか良いものを作り上げたと思うよ(自画自賛)。
そして現在、ホシノさんの部屋にはサガワ君とクロダ先生、そして俺が集まっている。
「とりあえず試作品レベルだけど完成したよ。このあと不具合を修正したり、使い勝手を良くしたりって作業は必要かもしれないけどね。名称は『マジックハンドバッグ』だ」
ホシノさんがバッグを手に取って、外側を眺めたり中を覗き込んで確認している。
「なるほどなるほど。デザイン的には問題ありませんね。持ち手の一つが銀色になっているのがちょっとオシャレです。中は…っと、あ、このボタンを押すと…ははぁ、なるほど魔石カートリッジってわけですか」
「今は魔力量60の魔石をセットしているけど、最大で120の大きさまではセットできるよ。入れるにしても出すにしても、一回あたり30の魔力を消費するから注意してね。まぁ魔石カートリッジは5個作ったから大丈夫だとは思うけど」
魔力量60では「入れて出して、はい終わり」なんだよな。ただ、魔力量の多い魔石は高価だからね。安い魔石を随時交換しながら運用していくのが吉だと思う。
「その持ち手の銀色の部分を握ってから、バッグの中にあるスイッチを入れてみて」
「あっ、【IN】【OUT】って出ましたよ。てか、何で英語?」
「それは知らん。とにかく収納したいものにバッグを向けてから【IN】を選択してみて。あ、焦点距離は5cmから15cmだから、目安として10cm先にあるものと覚えておけば良いよ」
ホシノさんが自分の目の前にある紅茶の入ったカップに向けて起動したのだろう。湯気を立てていたカップが一瞬で消え失せたよ。
うん、うまくいったようだね。てか、ソーサーやスプーンはそのままでカップだけが消えたけど、それは仕方ない。一つの塊として認識されなかったということだ。
「問題は取り出すときなんだけど、バッグを向けた先10cmの位置に出るからね。もしもそこが空中だったら、即座に落下することになるよ。それだけはマジで気を付けてね」
バッグを何も無いテーブル上に向けてから再度操作しようとするホシノさん。少し緊張気味だ。
【OUT】を選択し、一覧からカップを選択したのだろう。ごとっと音がしてカップがテーブル上に出現した。
ピタッと静かに取り出すことができないのはどうしようもないので許してほしい。ここが【アイテムボックス】と大きく違うところだな(【アイテムボックス】は照準が出現するからね)。
「お茶がこぼれそうでしたよ。もっと静かに出せないものですかね?」
「それは勘弁して。これでも結構チューニングを頑張ったほうなんだよ」
「うーん、でもこれは良いものですね。魔石費用がかさみますけど、収納できる大きさが50立米で、時間経過無しでしょ?クロダ先生の【アイテムボックス】よりも現時点では性能が上じゃないですか」
そう、クロダ先生の【アイテムボックス】は(現時点では)スキルレベル50未満なので、時間経過有りなのだ。
「アカリちゃん、料理や食材などはあなたに頼んだほうが良いみたいね。二人でうまく役割分担しましょう」
「はいっ!」
微笑むクロダ先生と、嬉しそうに満面の笑みを浮かべているホシノさんだった。喜んでもらえたようで俺も嬉しい。
「あ、あとツキオカさん、もう少し魔石カーリッジを作っておいてもらえますか?セットする魔石も魔力量120のものでお願いします。お金なら払いますよ」
「いや、別に金は要らないよ。無償でやってあげるけど、正直面倒くさいだけなんだよな~」
「いい若者が面倒くさいなんて言っちゃダメですよ。『若い時の苦労は買うてもせよ』って言うじゃないですか」
んん?俺よりも若いホシノさんから言われると、なんだかモヤっとするぜ。
まぁ別に良いんだけど、とりあえずは寝たい。徹夜明けのハイテンションって、それほど長時間は持続しないので…。




