362 エレンとアレン
『ん、ううーん、あれ?ここはどこ?』
ようやくエルフの少年が目を覚ましたようだ。先ほどまでは衰弱状態だったけど、【リジェネレーション】をかけたことによる回復効果もあったのだろう。すっかり元気そうに見える。
『アレン、あなたの手足を帝国に住んでる人族の神官様に再生してもらったのよ。どう?気分は…』
『あれ?両手がある!両脚も!す、すごいや。えっと、気分は最高だよ、お姉ちゃん』
エルフの姉弟は二人揃って嬉しそうにはしゃいでいた。見てるこっちも嬉しくなる。
『神官様、どうもありがとう。おかげですっかり元気になったよ』
神官服を着ていることと、この部屋の中で最も貫禄のある態度から神官長さんを見極めたのだろう。彼に向かって最敬礼でお辞儀をする少年だった。
もちろん、俺が少年の話すエルブレスト語を帝国の公用語であるゴルドレスタ語に翻訳してあげたのは言うまでもない。
「あー、うむ、実はな。儂ではなくこちらの御仁が【リジェネレーション】をかけてくれたのだよ」
手の平を上に向けた形にした右手で俺のほうを指し示しながら、そう発言する神官長さん。
この言葉を姉弟に通訳してあげると、姉のほうが驚いたように目を見開いた。
『あ、ごめんなさい。まさかあなたのような若い人族の青年が上級魔法を発動できるなんて思わなかったの。いえ、もしかして見た目通りの年齢ではないのかしら?種族も人族ではなかったりして…』
【耐鑑定】が100なので、俺のステータスを【鑑定】で見ることができないからだろう。見当はずれの推測をしているエルフ(姉)だった。
『紛れもなく人族だよ。年齢も見た目通りだからね。それよりも先ほどの質問に対する答えをまだ貰ってないんだけど、どうする?』
お釣りをどこの通貨で支払えば良いかって質問のことだ。
まぁ、できればゴル紙幣の札束だったらありがたい(冒険者ギルドでクロムエスタ神国での成功報酬を受け取ったばかりだからね)。
『うちの集落では帝国の通貨をそのまま使ってるから、できればゴル紙幣が良いわね。あ、でも100ゴル札9万6千枚は困るかな。弟と二人でも重すぎて持ち運べる気がしないもの』
あぁ、まぁそうだろうね。ざっくり100kgくらいにはなるだろうし。
てか、エルフの国では自国通貨を発行せずに、帝国のゴルを使ってるんだな。まさにこの大陸の基軸通貨って感じだよ(転移前の世界におけるドルのようなイメージだろうか)。
余談だけど、クロムエスタ神国からの依頼の成功報酬である1億ゴルは四等分して、俺が2500万ゴルを受け取り、残りの7500万ゴルはクロダ先生の【アイテムボックス】に収納されている(サガワ君とホシノさんの分も一緒に)。
なので、960万ゴルのお釣りに関しては余裕で出せるのだ(エーベルスタ王国の通貨であるベルに換算すると9億6千万ベルだね)。
・・・
このあと、エルフの姉弟と俺たち四人は教会を辞したのちとある飲食店へと入った。個室のあるちょっと高級な店だった。
エルブレスト語で会話すれば誰にも分からないとは思うけど、一応念のために個室を利用させてもらうことにしたのだ。
「あらためて今後の話をしようか。あ、この三人も君たちの使うエルブレスト語を理解できるからね。勇者のサガワ君、聖女のホシノさん、賢者のクロダ先生だ。あ、俺の名はサトルで、単なる冒険者だよ」
「いやいやいや、どこが単なる冒険者ですか。ああ、頭を叩いてツッコミたい。まぁ、それはともかく聖女のアカリ・ホシノと申します。よろしくね」
ホシノさんのツッコミ体質がうずいているらしい。てか、貴族だとか特級神官だとか言いたくないんだよ。
「勇者のタイキ・サガワだ。サトル師匠の弟子だぜ。よろしく頼む」
「賢者のサチ・クロダと申します。賢者とは言っても、まだ魔法を一つも使えないのですが…」
サガワ君に師匠らしいことは何一つしてないけどな。あと、クロダ先生への【コーチング】はまだまだできそうにない。
「エルフ族のエレンだ。こっちは弟のアレン。弟は見た目通りの6歳だが、私は28歳だからな。多分、この中では最年長だと思うが…」
え?見た目では10歳くらいなのに、さすがはエルフだな。お見それしました。
思わず彼女を【鑑定】してみたんだけど、そのステータスは以下の通りだった。
・名前:エレン
・種族:エルフ族
・状態:健康
・職業:冒険者(Dランク)
・スキル:
・鑑定 56/100
・耐鑑定 61/100
・魔法抵抗 82/110
・弓術 86/120
・徒手格闘術 43/100
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・風魔法 102/200
【風魔法】の上限値がすごい…。てか、現時点のスキルレベルもだけど。
あと、冒険者みたいだけど、依頼書の文言とか読めるのかな?
「エレンさんって冒険者なんだ。あ、でもゴルドレスタ語ができなくて大丈夫なの?」
ホシノさんの心配もよく分かる。俺も同じことを思ったからね。
「ああ、魔法と弓の戦闘力さえあれば問題ない。他のパーティーに所属するときは身振り手振りで意思疎通できるしな。それにうちの集落にもギルド支部があって、そこではエルブレスト語で依頼書が書かれているのさ」
冒険者ギルドの支部って、ほんとどこにでもあるよな。エルフの集落にもあるのかよ。
「とりあえずの懸案から片付けていきましょう。『マジックバッグ』と【リジェネレーション】の差額なんですが、960万ゴルと考えています。『マジックバッグ』が1000万ゴルで、【リジェネレーション】の料金が40万ゴルですね。あ、本当は一回当たり10万ゴルで、先ほどは一回だけしか発動してないのですが、四肢全ての再生に伴う料金ということで40万ゴルとさせていただきました」
ちなみに敬語でしゃべっているのは、エレンさんの年齢が俺よりも上であることが判明したからだ。
「ああ、それは全然構わない。しかし、あの箱がそんなすごい価値のものだったとは夢にも思わなかったよ。なにしろスイッチを入れても動かないしな」
へ?ま、まさか故障してるの?!




