361 マジックバッグの価値
土下座している神官長を何とか立たせて、詳しい事情を聞いてみた。
どうやら『マジックバッグ』というのはかなり貴重なものらしく、オークションに出せば1000万ゴル(10億ベル…つまり10億円)程度にはなるらしい。なお、貴重すぎて魔道具店の店頭には並ばないとのこと。
…って、そりゃそうか。【空間魔法】のスキルレベルが90以上、かつ【細工】のスキルレベルが110以上じゃないと作れないものだからね。
ならば【リジェネレーション】一回の料金が高額なのかというと、さすがに1000万ゴルにはならないそうだ。教会によって多少の変動はあるらしいけど、平均して一回あたり10万ゴル(1000万ベル)くらいらしい。確かに高いけど、それほど非常識な金額でもない。
で、神官長がもったいぶった理由だけど、あわよくばもう一つか二つくらいの『マジックバッグ』が手に入るかも?…って思ったらしい。いや、【リジェネレーション】を発動できるのが世界でこの神官長だけだったら、そういう特権的な思考になるのも分からなくはないけどね。
でも【光魔法】の上級魔法なんて、上級神官だったら誰でも発動できると聞いたよ。クロムエスタ神国にいたモーリス枢機卿も発動可能らしい。もっとも自分の脚は魔力量不足で再生できなかったみたいだけど…。
「それでは、今回の案件につきましては俺のほうで対処させていただきます。よろしいですね?」
「は、はい。ただ、今回の私の失態につきましては、できればご内密に…」
「ああ、大丈夫ですよ。大事にはしませんから」
神官長が『失態』と言っているのは、『マジックバッグ』を入手するせっかくの機会を失ったことを意味している。そう言えば、エーベルスタ王国にも『国宝』として一つだけ存在するって、我が国の国王陛下が以前おっしゃっていたな。そう、『マジックバッグ』とは国宝になるくらい貴重な品なのである(すっかり忘れていたけど…)。
俺は早速この場で【リジェネレーション】をかけてあげることにした。失われた四肢の内の一つでも再生してあげれば、このエルフの女の子も安心するだろう。
照準を横たわる弟さんの右肩あたりに合わせ、魔法を発動した俺。まずは右腕からだ。
魔力量が不足している場合の例のメッセージ(『完全には復元できません。発動しますか?』ってやつ)が出現することもなく、眩い光の効果がこの子の身体全体を覆う。
しばらくすると光の奔流もおさまったんだけど、そのあとの弟さんを見た全員が絶句していた(俺も含めて)。なぜって、手足全てが完全に再生されていたから…。
おそらく小さな子供の身体だったからだろう。手足全ての再生に足るだけの魔力量を一度に供給できたと考えられる。うーん、予想外…。
神官長さんとこの場に案内してくれた女性の神官補さんも目を見張って驚いている様子だったよ。
「少なく見積もっても440、多めに見積もった場合は480ほどの魔力量が必要ですぞ。目の前で見たことが信じられません。さすがは神使様であり、特級神官様でございますな」
なるほど、だったら納得。俺の魔力量は500を超えているからね。
ちなみに、現時点の俺のステータスは以下の通りだ。
【】内の数値は魔装具による底上げ分で、()内の数値は以前記載したときからの増加分ってこと。
・名前:サトル・ツキオカ
・種族:人族
・状態:健康
・職業:ツキオカ男爵家当主 兼 冒険者(Cランク) 兼 特級神官
・スキル:
・全言語理解 100/100
・鑑定 100/100(+4)
・耐鑑定 100/100(+9)
・アイテムボックス 100/100
・状態異常耐性 100/100
・魔法抵抗 101/110(+9)
・棍術 70/110(+10)
・徒手格闘術 93/120(+8)
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・細工 96/110【+12】(+11)
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・火魔法 65/120(+8)
・水魔法 83/120(+9)
・風魔法 75/120(+10)
・土魔法 70/120(+9)
・光魔法 100/100(+9)
・闇魔法 40/100(+6)
・空間魔法 53/100(+10)
ついに【鑑定】と【耐鑑定】(のリアル値)、さらに【光魔法】が上限まで到達した。ちなみに【光魔法】については、クロムエスタ神国での【リジェネレーション】乱発による成果だ。
四大属性(【火】【水】【風】【土】)は全て中級魔法まで発動できるようになってるし、【空間魔法】の上がり幅も納得のいくものだね。
総魔力量については、587にもなっているよ(【魔法抵抗】と【〇〇魔法】の総合計なので)。
エルフの女の子がすっかり元通りの身体となった弟さんに覆いかぶさって号泣していたんだけど、ゆっくりと顔を上げてこう言った。
『ありがとう。一回だけの発動ってこういうことだったのね。まさか一度で全ての四肢が再生されるなんて…。人族の中にもすごい傑物がいるのね。でも本当にありがとう。心から感謝しています』
神官長に向かって頭を下げるエルフの女の子。
【リジェネレーション】を発動したのが神官長だと思ったみたいだね。いや、さっきの神官長と俺のやり取りをこの子に通訳しなかったので、発動したのが俺だとは夢にも思っていないのだ。
一応、このお礼の言葉は神官長に通訳してあげたんだけど、彼は何とも言えないって感じの顔になっていたよ(見当違いのお礼なので)。
『あ、そうだ。差額が960万ゴルになるんだけど、ゴル紙幣での支払いで良いかな?それとも白金貨や大金貨のほうが良い?』
紙幣だと9万6千枚もの量(100枚ずつ束ねた札束が960個)になってしまうんだけど、エーベルスタ王国の白金貨ならば960枚になる。どちらにしてもかなりの重量になっちゃうけど…(ざっくり計算して紙幣なら約100kg、白金貨なら約30kgというところだろうか?)。
エルフの女の子は何を言われたのか理解できないって表情になっていたけどね。いや、普通にお釣りってことですよ。




