359 エルフの姉弟
帝都の街中を散策するのは久しぶりだ。
もっとも以前は一人だったけど、今回は四人だよ。やはり道中で会話しながらぶらぶら買い物するのは楽しいものです。
まぁ、効率を考えれば一人のほうが良いんだけど、別に急ぐ旅でも無いしね。
「師匠、ちょっと武器屋に行ってみたいんだけどな」
「ツキオカさん、アパレルと化粧品店は外せませんよ」
「君ら、俺の目的を分かってて言ってるんだよね?はぁ、まぁ良いけどね」
サガワ君とホシノさんの要望(買い物)にも付き合いながら、本来の目的である薬屋巡りを行う俺たち…。
てか、君たち、クロムエスタ神国でも結構買い物してなかったか?
余談だが、サガワ君やホシノさんが買いこんだものは、全てクロダ先生の【アイテムボックス】に収納してもらっているらしい。やはり【アイテムボックス】は便利だよな。
ここ帝都には大きな教会が四か所にあるらしく、その一つが現在俺たちが歩いている大通りの先にあった。
名称としては、帝都中央教会(大聖堂)、東教会、西教会、南教会の四つだそうだ。俺たちが訪れたことがあるのは、帝都の北部寄りにある中央教会(大聖堂)だけだけどね。
現在、通りの先の方に見えているのは東教会なんだけど、出入口である大きな扉の前になぜか人集りができていた。
「ツキオカさん、あれ何でしょうね?」
「とりあえず近くまで行って、野次馬に話を聞いてみましょう」
クロダ先生からの問い掛けに対する答えを持ち合わせていなかった俺は、そう提案した。
集団の外側にいた一人のおばちゃんに話しかけてみた。温厚そうな小太りの中年女性だったので、聞きやすかったのだ。
「すみません。これって何の集まりですか?」
「ああ、なんだか外国語を話す子供が教会に来てるんだけどさ。何言ってるのか誰も分からないんだよ。ありゃおそらくエルフ族だと思うんだけどね」
「ありがとうございました。ちょっと前へ行ってみます」
外国語の理解だったら、俺の【全言語理解】やサガワ君たちの【言語翻訳】のスキルで楽勝だよ。もっとも、エルフ族の言葉に対応できるかは不明だけど…。
人集りをかき分けて前の方へ進んでみると、そこには10歳くらいの子供がさらに幼い子供を背負って立っていた。
その子供たちの容姿だけど、普通の人よりも耳が長く、その先端が細く尖っていたよ。あれっておばちゃんの言ってた通り、エルフだろうか?てか、初めて遭遇したよ、エルフ。
『お願い!弟を助けて!』
教会の人に対して必死に懇願しているみたいだけど、女性の神官は困ったように首を傾げるのみだった。確かに言葉が通じてないっぽい。
俺は女性神官に問いかけてみた。
「どうしました?」
「はぁ、この子たちが何を言っているのか、さっぱり分からなくて…」
突然俺から話しかけられた形になった彼女だけど、それでもきちんと返答してくれた。かなり困惑している様子だったけど…。
俺はエルフの子のほうへ向き直り、ゆっくりと話しかけてみた。怖がらせないように…。
『おぶっている子が君の弟さんなんだよね?助けてってどういうことだい?』
今にも泣き出しそうだったその子は、キョトンとした顔になって俺のほうをガン見したあと、こう呟いた。
『え?人族よね?エルブレスト語をしゃべれるの?』
なるほど。この言語はエルブレスト語というのか。
『俺のスキルで理解できるよ。で、弟さんがどうしたの?』
『魔獣に襲われて、四肢を食いちぎられたの。もちろんポーションで止血はしたから命に別状はないわ。ただ現状、かなり衰弱している。それに手足を失ったままでは、到底生きていけないわ。最低でも腕一本くらいは復元してあげなければ…』
『なるほど。この教会で【光魔法】の【リジェネレーション】をかけてもらいたいってことか』
『ええ。私たちエルフ族って【風魔法】なら大得意なんだけど、【光魔法】を使える者がほとんどいないの。でもポーションでは部位欠損を再生できないし…』
なるほどなるほど、状況はよく理解できた。この子の背にいる弟さんには大き目の外套が首から下にかけられていた。そのため見た目では分からなかったけど、どうやら手足が欠損しているらしい。
俺は女性の神官に向かって先ほどの会話を通訳してあげた。
あ、ちなみに神官服を着ているから神官だと思ったんだけど、彼女は神官補だったよ。クロム教会では【光魔法】を使えない人は神官にはなれないらしい。
「よく分かりました。それでは教会の中へどうぞ。すぐに対応できる者を呼んで参ります。あ、大変申し訳ありませんが、あなた様も通訳としてご一緒して頂けないでしょうか?」
「もちろん、大丈夫です。君たちはどうする?ここは俺一人でも構わないけど…」
サガワ君たちに聞いてみたけど、三人とも俺に同行するそうだ。まぁ、彼らもエルフの子と交わした先ほどの会話を理解できたらしいし、俺としてもそのほうが何かとありがたい。
「ツキオカさんから目を離すと、どんな騒動を巻き起こすか分かったもんじゃありませんからね。そう、私たちはお目付け役なのです」
「おい、アカリ。師匠に失礼だぞ。まぁ、分からなくもないが…」
「サガワ君もホシノさんもツキオカさんのことをディスっちゃダメよ。でも私も心配だからご一緒しますね」
えっと、君たち俺のことを何だと思ってるんだ?
俺が騒動を引き起こしているわけじゃないぞ。騒動が俺のほうへ寄ってくるのだ。いや、それもまた問題なんだけど…。




