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357 リジェネレーション再び

「とりあえず神託の件は置いておいて、ツキオカ様への指名依頼の件ですが、こちらは見事達成したということで依頼書のほうへ署名させていただきます」

 モーリス枢機卿が冒険者ギルド発行の依頼書にさらさらと自らの署名(サイン)を書き入れて、それを俺に手渡してくれた。

 これで俺の依頼達成率が100%であるという状態を維持(キープ)できたってことになる。実はこれってなかなかすごいことらしい(EランクやFランクの冒険者ならあり得るけど)。


 エーベルスタ王国への帰路、帝都の冒険者ギルドに立ち寄って依頼達成報告をしよう。ただ、その場合ゴルドレスタ帝国の通貨(ゴル)で報酬を受け取ることになるんだよな。いや、金貨や白金貨なら問題ないのだが、おそらく紙幣(100ゴル札)での支払いになると思う。

 エーベルスタ王国の王都に帰ってから、そっちの支部で報告しても良いんだけどね。冒険者ギルドは国を(また)ぐ組織なので…。

 あ、ちなみに税金(源泉徴収)は依頼者の国籍で決まるので、今回のケースではクロムエスタ神国への納税ってことになるらしい。なので、達成報告をどこの国で(おこな)っても良いのだ。


「師匠、すぐにエーベルスタ王国へ出発するのか?結局、この国を観光する暇もなかったぜ」

「そうね。ほんの数日しかいなかったことになるし、もう少しノンビリしたいところよね。ねぇツキオカさん、せめて二週間くらいは滞在しませんか?」

 サガワ君とホシノさんの言いたいこともよく分かる。俺としてもこんなに早く終わるとは思っていなかったよ。


 ここでモーリス枢機卿が新たな依頼を申し出てきた。

「ツキオカ様、できれば部位欠損患者への【リジェネレーション】をお願いすることはできないでしょうか?一日一人で構いませぬ。冒険者ギルドへの新たな指名依頼とさせていただきたくお願い申し上げまする」


 そう、時間があれば片手間でやってあげると以前に言ったものの、本来の依頼があまりにも早く終わってしまったため、まだ誰にも【リジェネレーション】をかけていないのだ(モーリス枢機卿以外)。

「ギルド経由の依頼にする必要はありませんよ。以前お伝えした通り、無償で行います。あと、おそらく2時間おきくらいに発動できると思いますので、一日に五人くらいは対応できるかと…」

「ああ、ツキオカ様へ最大級の感謝を(ささ)(たてまつ)ります。なお、そこまで人数は多くないとは思いますが、国民全体ですとおそらく50~60人くらいではないかと推定しております。ぜひぜひよろしくお願い申し上げまする」

 どうやらすでに患者リストを作成していたらしい。これくらいの人数だったら10日から二週間程度で終わるだろう。

 サガワ君たちもゆっくり観光できるし、俺の【光魔法】のスキルレベルもかなり上がることになるはずだ。患者さんたちも喜ぶだろうし、良いこと尽くめだね。


 ・・・


 その後、この国の(たみ)の間に口コミで噂が広がっていったとのこと。

 (いわ)く…。


神使(しんし)様による奇跡が大聖堂にて行われているらしい。身体に欠損を抱える者は神使(しんし)様の元へ急げ』


 これにより、枢機卿や上級神官たちも巻き込んだ大騒動へと発展することになる。

 つまり、指一本程度の軽微な欠損については、【光魔法】のスキルレベルが90以上の者であれば誰でも復元できるのだ。これまでは必要なお布施が高額だったため再生を諦めていた国民も、神使(しんし)様が無償で治してくださるという噂を聞きつけて大聖堂へとやってきたのである。

 で、俺が対処しても良いんだけど(ほとんど魔力を消費しないからね)、心ある枢機卿や神官たちが無償治療に名乗りを上げてくれたってわけ。

 俺は腕一本や(あし)一本といった重傷者への対処に集中できたから、彼らの献身は決して無駄ではなかったよ。


 なお、【リジェネレーション】(だけでなく全てのヒール系)に高額な費用がかかるのは他国とのからみもあるらしい。

 この国から帝国や王国の教会へと派遣されている上級神官たちが、派遣先の国で無償治療を行うわけにはいかないのだ。労働に対して正当な対価を得ることは経済活動の一環として重要だからね((かすみ)を食って生きるわけにもいかないし)。

 …ってわけで、今回の治療行為は例外中の例外であり、箝口令(かんこうれい)(他言しないようにという命令)が敷かれることになったのだった。


 ・・・


 明日にはこの国を出立するという日の午前中、なぜか俺たち四人(サガワ君、ホシノさん、クロダ先生、そして俺)は法王猊下(げいか)に拝謁していた。

 穏やかそうな顔をしたご高齢のお爺ちゃんだった。まさに好々爺(こうこうや)といった感じ…。

「ツキオカ殿、そのほうの献身的な治療行為に対して、この国の(おさ)として深く感謝申し上げる。また、預言者の問題を解決してくれたことに関しては、君たち全員へ謝意を伝えたい。(まこと)にありがとう」

「いえ、リジェネに関しましては私自身のスキル上げに役立ちましたし、預言のほうは冒険者としての依頼を達成したにすぎません。どうぞお気遣いなく」

「うむ。ちなみに神使(しんし)とは名誉称号であり、権威はあれど特段の権力を持つことはない。ゆえにツキオカ殿には、教会内において(ふる)うことのできる権力を授けたいと思う」

 え?なんか嫌な予感…。


「貴殿を『特級神官』に任ずる。これは上級神官のさらなる上位者として、彼らへの命令権を持つ者である。この役職は制度としては存在するが、任命された者はここ200年ほど出ておらぬ。どうかこの任を承諾してほしい」

 えええぇぇぇ?!できれば断りたい。てか、断っても良いのだろうか?

「なお、月の手当ては2万ゴルであり、位置付けは枢機卿と上級神官の間となる。ただ、現状では特に与える指令も無いし、住居も自由である。エーベルスタ王国の貴族や冒険者として活動しても構わない。ぶっちゃけると『神国の唾を付けておきたい』ということであるな」

 …って、ぶっちゃけ過ぎだろ!

 まぁ、正直な発言には好感が持てるけど。


 隣ではサガワ君たちがキラキラした目で俺を見ていた。何を期待してんだか…。

 はぁぁぁぁぁ、まぁ仕方ないか。

「その任、(つつし)んでお受けしたいと存じます。ただし、月の手当ては不要です。何かご依頼があれば冒険者として対処させていただきますので、冒険者ギルドに指名依頼を出してくださいませ」

 月に2万ゴルって、200万ベルってことだからね。仕事も無いのに、そんな大金受け取れないよ。


 こうして双方納得の上、俺は『特級神官』という肩書きを得たのであった。てか、教会の教義とか全く知らないんだけど、良いのかね?


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