354 マインドビューア
翌日、実験機だった思考閲覧魔道具(仮称)をきちんと筐体に収め、見栄えを整えた。うん、これはもはや初号機と言っても良いだろう。
「ツキオカさん、この魔道具の名前ってどうするの?」
「そうだな。魔法名が【マインドビュー】だから、『思考閲覧機』で良いんじゃないか?」
「えぇぇ、なんかダサくない?」
し、失礼な!
俺の名付けに対して、必ずダメ出しが入るのはなぜなんだ?納得いかねぇ。
「いえ、そこまで悪くはないと思いますよ。どちらかというと良いほうでは?」
クロダ先生の発言も何気に失礼だな。
「師匠にネーミングセンスを期待するのは酷ってもんだぜ。いや、それが師匠らしさってことだと思うぞ」
サガワ君…。堂々と隠すことなく貶してくるのは正直でよろしい。…って、んなわけあるかい!
「名前なんてどうでも良いのです。偉い人にはそれが分からんのですよ」
有名なセリフをパクってみた。いや、実際どうでも良いっつーの。
ただ、三人はニヤニヤと何とも言えない笑みを浮かべて俺のことを見ていたよ。いや、何か言ってください。
・・・
現在、広い応接室の中にはモーリス枢機卿、神官のクローシュさん、正預言者のアリーナ、副預言者のイリーナさん、サガワ君、ホシノさん、クロダ先生、そして俺の8人が揃っている。最初に枢機卿と面談した応接室だ。
「ツキオカ様、何か進展がございましたか?もしやアリーナ様の抱える問題の解決に目途が立ったのでしょうか?」
俺たちがこの問題に着手してからまだ数日しか経過していないため、すでに解決策が用意されているとは全く考えていない様子のモーリス枢機卿だった。
「アリーナ、あ、本人の希望で呼び捨てにしていますので、ご容赦を。…えっと、アリーナやイリーナさんに下される神託なんですが、その言語が少し特殊なものでして…」
俺は神託言語が『日本語』であり、イリーナさんはなぜかそれを理解できるものの、アリーナやこの世界に存在するほとんどの人間にとっては理解できない言語であるということを説明した。 もちろん、転生云々については言わなかったよ。イリーナさんもそのことを隠しておきたいみたいだし…。
「うーむ、ツキオカ様も神託言語を理解できるということは、名実ともに神使様なのではありませぬか?単なる名誉称号というわけではなく…。いや、完璧な【リジェネレーション】を発動できることから考えてもその可能性は高いですな」
俺が神の使い?いやいや、そんなことあるわけがない。単なる異世界転移者ですよ(…って、言えないけど)。
モーリス枢機卿の発言は続く。
「アリーナ様に対してイリーナ様がその特殊な言語、ええっとニホン語でしたかな?それをお教えいただくことで神託の理解が可能になるということですな。即効性は薄いですが、原因と解決策が提示されたことは大変喜ばしいことでございます。誠にありがとうございました。冒険者ギルドの依頼書への署名についてですが、成功報酬の受け取りができるようにしておきますので…」
ああ、1億ゴル(エーベルスタ王国の通貨に換算すると100億ベル)の成功報酬ね。てか、この神託言語の情報に対する報酬としては貰い過ぎだよ。
ここで俺は【アイテムボックス】に収納していた『思考閲覧機』を取り出して、テーブルの上に置いた。
「まだ話は終わっておりません。検証していないので実際に役に立つかどうかは分からないのですが、こちらの魔道具を作ってみました。えっと【闇魔法】の魔道具です。明日からの朝の礼拝において、アリーナとイリーナさんのお二人にはこれを使ってみていただきたいのです。これがうまくいくようであれば、成功報酬を受け取りたいと思っております。さて、魔道具の使い方ですが…」
ここから『思考閲覧機』の使用法を説明していった俺。
クロムエスタ神国側の四人が絶句していたけど、これって単なる初級魔法の魔道具だからね。別にそこまで驚くほどのものじゃない(案外簡単に、たった二日で完成したし…)。
「この国でも帝国でも【闇魔法】の魔道具など、見たことも聞いたこともありませぬ。あなた様がこれをお作りになったということは、【光魔法】だけでなく【闇魔法】までもそのスキルをお持ちということになるのではないですかな?一人の人間に【光】と【闇】の二つの属性が共存することなどありえないことでございますぞ」
え?そうなの?まぁ、確かに【光】と【闇】って相反する属性だとは思うけど…。
あと、【闇魔法】の魔道具が存在しないってのは何となく理解できる。わざわざ【細工】スキルを取得してそのスキルレベルを上げていかなくても、【闇魔法】の魔術師って十分に高収入を得られるらしいからね(警吏関係が主な就職先らしい)。
「俺の魔法属性はどうでも良いのです。とりあえず、アリーナとイリーナさんで実際に試してみてください。問題点が見つかり次第、適宜改修していきますので…」
このあと、入力側(思考を読み取られる側)をアリーナ、出力側(閲覧する側)をイリーナさんとした実験を複数回行ってみた(逆パターンもね)。当然、何の問題もなく、検証作業は成功裡に終わったよ。
さらにモーリス枢機卿やクローシュさんも試してみたい様子だった(何だかうずうずしていた)ので、この検証作業に参加してもらった(テストデータは多いほど良い)。もっとも、そのせいで魔石交換を何度もする羽目になったけど…。
皆さん、これって玩具じゃないからね。楽しそうに目を輝かせて、そんなに何度も何度も試さなくても良いと思いますよ(苦笑)。




