353 思考閲覧魔道具
このあと様々なパターンで【マインドビュー】の実験を繰り返した俺たち(というか、サガワ君と俺)。
肉体的接触については、右手同士の握手だけでなく、左手同士、右手と左手、服越しの接触、手で足や顔を触ったら…等々をやってみた(当然、キスは試してない)。
これによって色々と分かったのだが、直接肌が触れ合っていればOK(布一枚でもあったらNG)で、触れる箇所はどこでも良いという結論だった。
次に試したのは、相手にも目を瞑ってもらって、頭の中に模様や図形、文字などを思い浮かべてもらい、それを俺のほうで閲覧できるかどうかだ。
検証用にESPカードみたいなもの(一枚一枚のカードに異なる図形が描かれているやつ…超能力の実験で使う)も自作してみたよ。
で、その結果だけど、問題なくそれらも読み取ることができた。…ってことは、おそらくアリーナに下される神託も閲覧できるんじゃないかな?(さすがに実験することはできないけど)
あとはこの魔法を魔道具化できるかどうかが問題だ。
しかし、ここでハタと気づいた。この魔法を魔道具化したとしても、それは魔道具そのものが閲覧するだけであり、魔道具の使用者が閲覧できるわけじゃないのでは?
そう、結果表示の問題だ。
魔術師による魔法発動であれば脳内に表示されるんだけど、魔道具の場合はどうやって情報を外部に出力すれば良いんだよ。
魔道具の素材店にはそういう表示装置は売っていない。いや、売っているのを見たことがない。王都でも帝都でもね。
例えば、デスクトップPCにおいてマザーボードやグラフィックボードのDPから出力される映像信号を人間の脳内にそのまま表示できるだろうか?…って、できるわけがねぇ!
何らかの表示装置が必要なのは間違いない。LCDやELだね。
魔道具の部品の中にそういうものがあれば良いんだけど、(俺の知る限りでは)無さそうなんだよな。うーん、どうしよう?
「ツキオカさん、『魔道基板』…でしたっけ?それを人間に繋ぐことで脳内に出力することってできないんですか?」
「改造人間かよ!そんな非人道的な手術はできないし、そんな技術も無いよ」
ホシノさんが恐ろしいことを言いだしたけど、即座にその意見を却下した俺だった。
「いえいえ、脳内に埋め込んだりするんじゃなくて、『魔道基板』からの出力端子を手で触るとかです。ご都合主義の神様が何とかしてくれるかもしれませんよ」
確かにそういう可能性があることを頭ごなしに否定することはできないかな。てか、『ご都合主義の神様』って…。
初級魔法用の『魔道基板』は俺の【アイテムボックス】内に常時ストックしているので、一つ取り出して【マインドビュー】の魔法陣の刻み付けを行ってみた。
幸運なことに一発で成功したよ(【細工】のスキルレベルが高いおかげだろう…魔装具で底上げしてるしね)。
その『魔道基板』に『魔石ケース』や『魔道スイッチ』を『ミスリルコード』を使って配線していった。俺の【細工】スキルは『魔道基板』のどこに魔力供給端子があるのかを教えてくれる。なので、そこに配線すれば良いだけなのだ。
なお、【マインドビュー】は対象者との肉体的接触が必要なので、『魔道基板』にはそのための入力端子も存在する。で、そこには薄いミスリル板(掌サイズ)を『ミスリルコード』で接続してみた。
そのミスリル板に読み取り対象となる人の掌を当ててもらうわけだ。あ、鉄板じゃなくミスリル板にしたのは、魔力伝導率が高いほうが良いと思ったから(もしかしたら鉄板でもいけるかもしれないけど…)。
さて、問題は情報の出力だ。
実は『魔道基板』の映像出力端子の存在もまた、【細工】スキルが教えてくれたのである。そこに(もしも存在するのなら)表示装置を接続すれば良いはずだ。
でも、無いものは仕方ないよね。
試しに、読み取り用のミスリル板(以下、入力板と呼称)と同じように、出力用のミスリル板(以下、出力板と呼称)も設置してみた。
つまり、読み取り対象者と【闇魔法】の魔術師の間に握手という接触があるのと同様、二人の人間(どちらも魔術師ではない一般人)の間にこの魔道具が置かれることで、魔道具を通じて接触しているという状態にするわけだ。
何となくうまくいきそうな気もするんだけど、これでうまくいったらまさにご都合主義的展開だろうな。
実験機なので筐体には収めず、それぞれの部品が剥き出しの状態になっている。しかし、とりあえずは完成だ(うまく動作するかどうかは分からないけど)。
まぁ、とにかくテストしてみよう。
入力板にはサガワ君の手を、出力板には俺の手を置いて『魔道スイッチ』をONにする。まさか感電したりはしないだろうな?(いや、電気じゃないから感電はしないんだけど…)
サガワ君は入力側だから良いとして、俺のほうは出力側なのでちょっと怖いよ。
そして、その結果は…。
目を閉じた状態の俺の脳裏には、現在サガワ君が見ている映像(多分だけど…)が映し出されていた。…って、まさかの一発成功かっ!
あまりのご都合主義的展開に、ちょっと申し訳ない気持ちになった俺だった。
でも良いのだ。これで依頼達成の目途が立ったわけだからね。
・・・
閲覧時間はやはり約10秒間だった。
閉じていた目を開けたら、三人(サガワ君、ホシノさん、クロダ先生)全員が何かを期待しているような表情(キラキラした瞳)で俺を見ていた。
「ちょっと信じられないんだけど、うまくいったみたいだよ。サガワ君が見ているものが俺の脳裏に映し出された。皆も試してみるかい?」
「!!!」
絶句のあと、すぐに大歓声が上がった。喜んでもらえて俺も嬉しいよ。
このあと、皆で入力側と出力側を交代しつつ、何度もテストを繰り返していった。三人とも例外なく感動した面持ちになっていたよ。
てか、分かる。【闇魔法】を使えない人間が【マインドビュー】を発動できたってことになるわけだからね。




