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352 思考の閲覧

「ホシノさん、すごいカマかけだね。確証は無かったんでしょう?」

「はい。でもナナさんとイザベラ様の共通点を考えた結果です。そこそこ自信はありましたよ」

 俺の質問に得意そうに答えるホシノさんだった。てか、まじですごいな、この子。


「ナナさんとイザベラ様って?」

 イリーナさんが不思議そうに質問してきたので、それについては俺のほうで答えてあげた。

「ああ、二人とも日本からの転生者で『アカベタ』っていう乙女ゲームのファンらしいんだよね。あ、このホシノさんは転生者ではなく転移者だけどさ。ちなみに、君もそのゲームのファンみたいだね」

「チッチッチ、ツキオカさん。『ファン』ではなく『信者』と呼ぶように。それにしてもロードベルク卿()しとは珍しいですね」

少数派(マイノリティ)なのは自覚してますよ。でもそこが良いんじゃないですか。エロい人にはそれが分からんのですよ」

 ん?『エロい人』?『偉い人』だったような気が…。いや、別にどっちでも良いんだけどさ。


「話がそれたけど、君は転生者で間違いないんだね?」

「…はい。隠していて申し訳ありませんでした。でも絶対、頭がおかしくなったって思われるから…」

 まぁ、分かる。仕方ないっちゃ仕方ないんだろうな。


「それじゃ、君がアリーナに日本語を教えることってできないのかな?」

「うーん、できると言えばできるのですが、あまりにも大変で…。それにあと10年もすれば、私の【預言】のスキルレベルは90を超えるはずです。であれば、預言者が一人だけでも問題ないかと…」

 なるほど、確かにそうかもしれない。ただ、それまでにこの前のようなこと(解釈間違いによる暗殺未遂事件)が起きなきゃ良いんだけど…。


 ここでクロダ先生が俺に向かって提言してきた。彼女は神託言語が日本語であることを見破った人だからね。何か有効な手段を思いついたのかもしれない。

「ツキオカさん、翻訳系スキルの【コーチング】が無理なら、魔道具や魔装具(マジックアクセサリ)で何とかならないでしょうか?」

「ああ、俺の今の【細工】スキルレベルならば、初級魔法の魔道具や魔装具(マジックアクセサリ)の製作は可能ですね。ただ、たとえ【全言語理解】の魔装具(マジックアクセサリ)を作れたとしても【+10】や【+20】程度の効果ではほとんど意味が無いでしょう。魔道具のほうで何とかできれば良いのですが…」

 そう言えば、【光魔法】の魔装具(マジックアクセサリ)を作るつもりが、すっかり忘れていたよ(ビエトナスタ王国で発生した戦争のせいだ)。


「師匠、翻訳魔法って無いのか?」

「そんなものは無いな。まぁ【光魔法】以外の上級魔法は魔法名一覧にまだ表示されていないから、絶対にないとは言いきれないけど」

 サガワ君との会話を聞いたイリーナさんが驚いた様子で俺に質問してきた。

「【光魔法】以外ってどういうことですか?ツキオカさんって二属性(ダブル)の魔術師なんですか?」

「まぁね。一応【風魔法】の中級までは使えるよ」

 …ってことにしておこう。サガワ君たち三人がジト目になって俺を見てるけど、全属性ってのはできるだけ隠しておきたいのだ(すぐバレそうだけど…)。


 ・・・


 イリーナさんが退室して、部屋の中には俺たち四人だけとなった。

「四大属性の魔法は無意味だし、【光魔法】にも役に立ちそうなものは無いんですよね?じゃあ、【闇】や【空間】だったらどうですか?何か使えそうなやつってありませんか?」

 ホシノさんの質問を受けて【闇魔法】と【空間魔法】を確認してみた俺。ちなみに四大属性とは【火】【水】【風】【土】のことだ。

 【闇魔法】や【空間魔法】は文献が少なく、俺にも使い方が分からない魔法がいくつかある。この二つの属性の魔法は悪用された場合の脅威度が高いので、あえて文献を残していないのかもしれない。【空間魔法】のほうは単に使い手が少ないせいなのかもしれないけどね。


「【闇魔法】の初級に効果不明な魔法はあるよ。【マインドビュー】って魔法なんだけど、発動しても照準(レティクル)が出てこないし、何も起こらないんだよな。名前からすると読心魔法だとは思うんだけど…」

「それだっ!イリーナさんとアリーナさんの間に精神的な経路(パス)を作って、アリーナさんが受信した神託をイリーナさんが閲覧できるようにすれば良いんじゃない?」

「俺もアカリに賛成。師匠だったらそいつの魔道具も作れるんじゃね?」

「私もそれでうまくいく気がします。でも魔法が効果を発揮しない理由って、何なんでしょう?」

 順にホシノさん、サガワ君、クロダ先生の感想だ。いや、俺もうまくいきそうな気はするんだけど、それはこの魔法が効果を発揮することが前提なのだ。


「実験、というか検証作業をしづらい魔法だからね。何回か試してみて全く効果を発揮しなかったから、ほうっておいたんだよ。別に人の心を読みたくもないし…」

 尋問するのなら心神耗弱魔法である【ウィークネス・オブ・マインド】があるからね。それに相手の心を読んだことで、逆に俺のほうがショックを受ける可能性だってあるのだから…。

「それはぜひ検証してみましょう。タイキ、あんたツキオカさんに協力しなさい!」

「うっ、まぁ別に心を読まれたって問題は…ない、…って、んなわけあるかい!嫌だよ、俺」

 だよね~。俺も逆の立場だったら嫌だよ。


 このあと、ホシノさんに半ば脅されるような形で、しぶしぶ実験に同意したサガワ君だった。読み取った内容を絶対に口には出さないってことを約束させられたけどね。

 俺はサガワ君と向かい合わせに座り、彼の目を見ながら【マインドビュー】を発動してみた。


 …。


 ところが、予想通り何も起こらなかった(何の声も聞こえてこなかった)。そもそも相手を特定するための照準(レティクル)が出現しないのだ。

「ダメだな。ほかの【闇魔法】の魔術師に聞いてみたほうが早いかもしれないね」

「うーん、もしかしたら肉体的接触が必要なのかもしれませんよ。二人でちょっとキスしてみてくださいよ。で、そのまま、もう一度【マインドビュー】を発動してみてください」


 …って、そんなの嫌に決まってるがな!

 まさかホシノさんって腐ってるのか?BLっぽい光景(シーン)になるためには、俺のほうの容姿(イケメン度)が不足しているはずだが…。

 ちなみに、サガワ君のほうも嫌そうな顔をしていたので、内心かなりほっとした。


 ここでクロダ先生が口を挟んできた。

「キスじゃなくて、握手だったらどうでしょう?肉体的接触が必要というのは、可能性としては大いにあると思うのですよ」

 右手でサガワ君と握手した俺は、あまり期待することなく再び【マインドビュー】を発動してみた。ちなみに、今度は目を閉じた状態だ。


 すると驚いたことに、俺の脳裏に俺自身の姿が映し出されたのだ。え?何これ?

 ただその姿は鏡で自分を見たときのようなものではなく、写真(動画)撮影したものをあとから閲覧したような感じの映像だった(要するに、鏡のように左右反転していない)。

 んん?これって…。おそらく、俺の目の前にいるサガワ君が現在見ている映像なんじゃないか?

 文字や音声ではなく、映像として相手の内心を閲覧する魔法なのかもしれないね。てか、初めて効果を発揮したよ、これ。

 超能力(テレパシー)のように相手の心の声がそのまま聞こえてくるような魔法じゃなくて良かった…。


 なお、その効果時間は10秒間程度であり、かなり短かった。どうにも何の役に立つのか分からん魔法だな(肉体的接触が必須条件でなければ、色々応用できるとは思うんだけど)。

 まぁ、相手が心の中で思い浮かべたものを魔法で閲覧できるというのは、複雑な情景を口頭で説明しなければならない場合、その手間が(はぶ)けるという効用はあるかもしれないね。


「多分、成功した。俺の脳裏に映し出されたのが、今サガワ君が見ているものであるのなら…」

 サガワ君とクロダ先生は驚愕の表情を浮かべていたけど、ホシノさんだけはドヤ顔でふんぞり返っていた。何となくイラっとしたけど、『肉体的接触が必要』という仮説を(とな)えたのはこの子だからね。うん、さすがです。


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