350 聞き取り調査①
預言者の日常は早朝の礼拝から始まる。てか、仕事としてはそれだけだそうだ。
神託が下されるのは一日一回、早朝の時間帯のみ。
ただし神託は毎日ではなく、一か月に一度か二度くらいの頻度であり、その内容も業務連絡的なものが大半だそうだ。いや、神の業務連絡って…。
神託を受け取らないと【預言】のスキルレベルも上がらないため、定期的に神託を下すのだろうと推測されている。ただ、たまに異世界召喚の神託のような重要なものが混ざっているため、決して気を緩めることはできないってさ。
…というわけで朝食後、俺たちは応接室を借りてアリーナさんに対する聞き取り調査を始めた。
周りにはサガワ君、ホシノさん、クロダ先生も揃っている。
「アリーナ様、あらためましてサトル・ツキオカと申します。どうぞ敬称無しでサトルとお呼びください」
「私のことも呼び捨てで構わないよ。様付けなんてされちゃ、肩がこるってもんだ。敬語もいらないよ」
「分かり…いや、分かった。アリーナ、よろしくな」
これを聞いて『にぱっ』と笑顔を見せてくれたアリーナは、ギャルっぽい化粧ではあったけど可愛かったよ。この子はすっぴんのほうが可愛いんじゃないか?
「サトルは私が神託を預言されてもそれを周囲に伝えないのはなぜかってことを知りたいんだろ?」
「ああ、神託は受け取ってるんだよな?」
「多分ね。変な模様にしか見えないけどさ」
ん?模様?神託ってのは言語化されてないのか?
いや、妹のイリーナさんのほうは言葉としての神託を受け取っているみたいだから、そんなことはないはずだ。
「その模様っぽいものを書き写したものは無いのか?」
「無いよ。だって覚えられないんだもん。何というかグニャグニャしてたり、きっちり直線が引かれてたり、四角い模様もあったね。文字と言われればそうかもしれないけど、少なくとも大陸の言語に該当する文字は無かったよ」
どうやらこの子、大陸中の言語を調べたらしい。ゴルドレスタ語、エーベルスタ語、ビエトナスタ語等々…。
見かけによらず(失礼!)勉強熱心だった。てか、本人も何とかしたいとは思ってるんだろうな。
ちなみに、ここまでは神国政府のほうでも把握している事柄らしい。
ここでクロダ先生が【アイテムボックス】から筆記用具を取り出し、さらさらと何かを書き始めた。
その書き上がったものをアリーナへ見せながら、こう言った。
「ねぇ、アリーナさん。それってこういう模様じゃなかった?」
その紙を見たアリーナの反応は劇的なものだった。
「そうそう、こういうの!全く同じかどうかは分からないけど、かなり似てるよ。お姉さん、なんで分かったの?」
「ちょ、ちょっと俺にも見せてください」
クロダ先生から受け取った紙をサガワ君やホシノさんと一緒に見た俺は、そこに書かれていた文字に驚いた。これって…。
「「「日本語じゃん!」」」
三人の声がハモったよ。そう、クロダ先生が書いた文字は漢字とひらがな、あとカタカナだったのだ。
・・・
主語(S)、目的語(O)、動詞(V)の語順としては、英語やフランス語、中国語のようにSVO型、つまり動詞が主語のすぐ後ろに出現するものがある。
しかし、日本語や朝鮮語(韓国語)、イラン(ペルシャ)語のようにSOV型、つまり動詞が文章の最後に出現する言語も存在するのだ。
この世界の言語体系は(日本語と同じ)SOV型のようで、少なくともこの大陸内の言語は全てそうらしい。
なので、日本人にとって語順の問題は生じない。文字や単語を覚えれば良いだけであり、外国語習得にかかる学習コストというのはそれほど高くないのだ。そして、それはアリーナにとっても同様である。
ただ、彼女にとっての日本語は全くの未知の言語であり、学ぶこと自体が不可能だったのだ。
翻訳はスキルで何とかならないのか?
確かに俺の【全言語理解】や勇者たちの【言語翻訳】というスキルは存在する。ただ、これらは転移者独自のスキルらしく、他者への【コーチング】ができないのだ。
いや、【言語翻訳】のほうは知らないよ。少なくとも【全言語理解】に関しては無理だ。
「私の【言語翻訳】スキルは100になったのですが、メニューに【コーチング】は出ませんね。アリーナさんに【コーチング】できれば良かったのですが…」
なるほど。あれ?だったらイリーナさんは?




