035 転生者
「それらの道具は人工遺物なのか?単なる魔道具ではないな?」
全員がフリーズしている状態から最初に復帰したのは支部長さんだった。さすがは年の功ってやつ?
「ええ、そのようなものです」
よく分からないけど、そういうことにしておこう。アーティファクトって何だ?
「とにかく、これが真実を記録したものなら犯罪行為は明らかだな。婦女暴行の未遂犯として警吏に突き出すこととする。さらに、冒険者資格は剥奪だ。エリー、すぐに警吏の担当者を呼んでくるように」
「そ、そんな…。なんでこんなことに…」
カイルというおっさんが嘆いていたけど、どう考えても自業自得です。刑務所(ってあるのかな?)でしっかり罪を償ってほしい。
「ノーパソとスマホ…、黒髪で日本人っぽい顔…」
ナナさんがめっちゃ小さい声で呟いていた。おいおい、ナナさんも異世界転移者か?いや、金髪で西洋風の顔立ちだから、もしかしたら異世界『転生』者かもしれない…。
あとで問い質すことを心に決めた俺だった。
あと、ノートPCとスマホはカバンに入れるふりをしながら【アイテムボックス】に格納した。できるだけ電池の消費を抑えないとね。
・・・
で、しばらくすると警吏の人たちがやってきて、カイルたち三人を連行していった。
それと入れ替わるかのようにアンナさんが支部長室に現れた。
「エイミー・アインホールド伯爵令嬢の名代として参りましたアンナ・シュバルツです。支部長はいらっしゃいますか?…あれ?サトルさん?」
「アンナさん、どうも」
支部長がたった今気付いたって顔で俺に言った。
「アインホールド伯爵家の護衛依頼を『指名』されたサトル・ツキオカ殿か。すまん、気付かなかった」
「なぜここにサトルさんが?」
「話すと長くなるのですが…」
俺はこの事件の概要をアンナさんに説明した。
「はぁ、なるほど。私も人工遺物に映し出された映像を見てみたかったですね。サトルさん、あとでゆっくりお話ししましょうね」
最初は呆れたように、最後は謎の微笑みと共に圧をかけてきたアンナさんだった。いや、ちょっと怖いです。
「それはあとで…。あのぉ、屋敷に泊めさせてもらっている身で言いにくいのですが、この子、ナナさんも屋敷へ一緒に連れていくわけにはいきませんか?あの犯罪者の知り合いなんかが逆恨みで報復を企む可能性もありますので…」
本当は、ナナさんのさっきのセリフについて質問したいだけなのだ。もちろん、逆恨みのおそれもあるんだけど…。
「お嬢様にお伺いを立てねばなりませんが、おそらく大丈夫でしょう。ナナさんとおっしゃるのですよね。もしよろしければ、伯爵家の別荘へいらしてください」
「え?え?お貴族様のお屋敷へ?そんな…、良いのかな…」
「ナナさん、俺も一緒に行くから心配しないで良いよ。なにより、エイミーお嬢様もこのアンナさんも信頼できるお方だから…」
その後、アンナさんは支部長さんと打ち合わせがあるらしく、『あとで合流しましょう』と言われて、いったん俺たちとは別行動となった。おそらく護衛依頼の件だろうな。
で、俺とナナさんは時間をつぶすため、連れ立って冒険者ギルドの近くにある公園へと移動した。ここには常時屋台なんかが出店しているのだ。
公園にあるベンチに並んで腰掛けた俺たち。まずはナナさんのほうから口を開いた。
「サトルさん、月岡悟という日本人なんですよね?」
「きみも日本人だったのかい?」
「はい、相浦菜七子と申します。前世の名前ですけど」
ここからナナさんの事情をヒアリングしていった。
それをまとめると、こうなる。
・前世では享年17歳の高校二年生だった。
・死因は道路に飛び出した子供を助けるためにトラックに轢かれたこと。
・今世の名前はナナで、家名は無い。
・Cランクの冒険者だった父親は彼女が三歳のときに亡くなった。
・母親と一緒に暮らしていたのだが、つい最近その母親も病没。
・ナナさんの嫁入り費用としてコツコツ貯めていた100万ベルを母親の死の直前に受け取った。幸いなことに借金は無い。
・父親の形見のショートソードを活用するため【剣術】スキルを習った(50万ベルの【コーチング】費用がかかった)。
・冒険者登録してからは【剣術】スキルを活かしてEランクの討伐系依頼を一人で受注していた(ゴブリンやスライムが主)。
・数日前にカイルのパーティーに勧誘されて加入し、今回の事件につながったというわけ…。
「転生者なのにチートも無いんですよ。一応【水魔法】の適性はあるんですが、【コーチング】してもらうには300万ベルは必要だそうで、まだ習えてません。だから今の目標はお金を貯めて【水魔法】を習うことなんです」
「そうか…、苦労したんだな。俺のほうは数日前にこの世界に飛ばされたばかりで、何が何だか分からないって感じだよ」
「でも、あいつらを倒したのって【風魔法】ですよね?良いなぁ。最初から魔法が使えて…」
うっ、全属性使えるって言ったらどういう反応になるんだろ…。ずるって言われるんだろうな、きっと。




