348 リジェネレーション
「もしよろしければ俺に試させてもらえませんか?」
「は?試す?何を…でしょうか?」
「俺は一応【リジェネレーション】を使えますし、魔力量も問題無いかと…」
懐疑的なモーリス枢機卿と呆れた顔のホシノさん。サガワ君とクロダ先生は瞳をキラキラさせて、楽しそうな顔で俺を見ている。
「一つお約束をお願いします。もしも『完全には復元できません。発動しますか?』というメッセージが出現したら、必ず『いいえ』を選択してください。中途半端に再生されると逆に困るのですよ」
へぇ~、魔力が不足している場合はそういうメッセージが出るんだな。ユーリさんのときって、何のメッセージも出現しなかったよ。
とりあえず、条件付き了承を得た俺はモーリス枢機卿に義足を外してもらい、すぐに【リジェネレーション】を発動してみた。てか、発動自体は二回失敗したけど、三回目には成功した。
で、発動した際、(予想通りではあるけど)何のメッセージも出なかったよ。魔力量は足りているってことだろうな。
眩い光の効果が収まったあと、ソファに座るモーリス枢機卿の右脚が完全に復元されているのを確認できた。問題なく成功したようだね。
左足の靴を脱いで、その場に立ち上がったモーリス枢機卿(右足が裸足なので、足の高さを揃えたのだ)。
足踏みしたり、手で右足の甲をつねったり、足の指を動かしたりと嬉しそうに自己検証していたよ。見た限り問題は無さそうだ。
「歴代の法王猊下ですら不可能でしたのに…。あぁ、何ということでしょう。ツキオカ様、あなた様に最大級の感謝を捧げ奉ります」
「いえいえ、そんな大したことでは…」
…っと、いきなり後頭部に衝撃を感じた(そんなに痛くはなかったけど)。
後ろを振り向くと、右手を手刀の形にして立っているホシノさんの姿が…。
「んなわけあるかい!」
ホシノさんのツッコミだった。てか、この子はツッコミ体質なのだろうか?
「アカリ、師匠にまでツッコミを入れるなよ。というかさぁ、師匠だったら何でもありじゃん?」
「はっ、そうだった。なにしろツキオカさんだもんね」
いや、君たち…。そっちのほうが失礼な気がするのですが…。
「あ、そうそう。今更ですが、このことは内密にお願いします。騒ぎになると困るので…」
「え?いやいやいや。私の右脚が義足でなくなったことなど、すぐにバレますぞ。それに部位欠損で困っている信者は多いのです。できればその者たちも診ていただければありがたいのですが…」
うーん、依頼の趣旨が変わってるよ。俺の自業自得ではあるんだけど…。
あくまでも本来の依頼を解決するのが主の仕事だからね。リジェネのほうは、片手間でできるようだったら対応してあげても良いかな。【光魔法】のスキルレベルを上げる訓練にもなるし…。
そういう内容をモーリス枢機卿に伝えたら、はっと思い出したような顔をしていたよ。まさか忘れてた?
「ごほん。そ、そうでした。あまりの喜びに我を忘れておりました。クローシュよ、そのほうも今見たことは秘密にするようにな」
部屋の中には神官のクローシュさんもいたんだけど、置物のように微動だにせず、目を見開いた状態で立っていた。え?気絶してるんじゃないよね?
「き、奇跡…」
ぶつぶつ独り言をしゃべっていたので、気絶してるわけじゃなさそうだ。大丈夫かな?
・・・
「それでは依頼の話でございますが、それを話す前にご誓約をお願いします。これから話すことは我が国の最重要機密事項ですので、決して他言はしないと…」
モーリス枢機卿が今回の依頼に関する内容を部屋の中を歩き回りながら話し始めた。よほど自分の足で歩けることが嬉しいのだろう。リハビリにもなるし別に良いんだけど、ちょっと気が散るのは否めない。
このあと、俺たち全員が秘密を守ることを神に誓ったのは言うまでもない。ただし、口頭での誓約であり、誓約書という書面ではなかったんだけどそれで良いのだろうか?
すぐにモーリス枢機卿の説明が始まった。
「主はそのご意思を人間界へ伝えるため、我が国の巫女に対して神託を下すことをご存知でしょうか?
「貴国の大使閣下からお聞きしたことがあります。その解釈の間違いによってニホン人の暗殺が計画されたのだということも。ただし、巫女の存在までは仰っておりませんでしたが…」
「そうですか。ところで、神託を受け取る者は預言者と呼ばれます。そしてそのためには【預言】という特殊なスキルが必要なのです。もちろん、スキルですからスキルレベルも存在します。それが低いと、預言の正確性は低下するのです。ここまではよろしいですか?」
なるほど。神託の言葉が抽象的で分かりにくいせいで、解釈違いなどという事態になるのだと思っていたよ。スキルレベルが100であれば、100%正確に神託を受け取れるってことだろう、多分…。
「ここからが本題になるのですが、現在この国には預言者が二人おります。職業としては『預言者(正)』と『預言者(副)』です。この両名には同じ内容が神託され、それを突き合わせることで正確な内容を類推することができるようになっているのです。本来ならば…」
ん?本来ならば?




