346 皇帝陛下への拝謁
「エーベルスタ王国において男爵位に叙されておりますサトル・ツキオカと申します。皇帝陛下におかれましてはご健勝のご様子、お喜び申し上げます。また、拝謁の誉を賜りましたこと、感謝申し上げます」
「うむ、貴殿がツキオカ男爵か。クロムエスタ神国より神使の称号が贈られていること、聞き及んでおる。ゆえに朕に対して畏まる必要は無いぞ」
現在、俺は宮殿の中の『謁見の間』で帝国の皇帝陛下と対面している。なお、すでにエーベルスタ王国の国王陛下からの親書は彼の手元に届いていて、その内容についてもすでに確認してもらっている。
てか、神使の肩書きってすげぇ。
ちなみに、皇帝陛下の容姿は壮年の大柄な冒険者って感じで、もちろん威厳も兼ね備えていた。我が国の国王陛下よりも年上で、こちらの方が風格ある感じだな。王冠と豪奢な衣装を身に着け、顎髭を生やしたイケオジでもある。
この大広間には現在、皇帝陛下と皇太子殿下、皇妃様しかいない。あ、もちろん護衛の騎士や侍従・侍女たちはいるけどね。
帝国貴族たちがずらっと居並ぶ中の謁見じゃなくて良かったよ。
皇帝陛下のお言葉は続いている。
「また、ニホン国から来られた三人の異邦人をその身を挺して守り切ったこと、この国の頂点として感謝を伝えたい」
「ありがたき幸せにございます。それよりもビエトナスタ王国からの難民を受け入れていただいたことにつきまして、彼の国の次期女王イリチャム・ビエトナスタに代わり、お礼申し上げます」
「ふむ、ツキオカ殿はイリチャム姫とも面識が?」
「はっ、彼女は私の大事な友人であります」
同じようにあっちも友人と思ってくれてれば嬉しいけどね。
「くっくっく、リュミエスタ王国の野望を阻んだビエトナスタ王国の王都防衛戦において、貴殿の果たした役割が極めて大であること、諜報部からの報告によって十分認識しておるぞ。ニホン人たちからも、貴殿のいるエーベルスタ王国とは絶対に敵対しないようにと釘を刺されておるわ」
おっと、バレバレですか。俺が義勇兵として参戦したことは、一応秘密だったんだけどな。まぁ、別に知られても構わないんだけど…。
「侵略戦争の阻止に助力できたことは私の誇りであり、誉であります。今後もこの大陸が平和であらんことを望みます」
これは帝国への牽制でもある。帝国が他国を侵略するなら黙っていないぞ…ってことを遠回しに伝えたのだ。
この言葉を聞いた皇帝陛下は面白そうな笑みを浮かべて俺を見た。この人の腹が読めなくてちょっと怖い…。
「うむ、朕も同感である。この国が強大な外国から攻め込まれた場合、ツキオカ殿の助力を期待しても良いのかな?」
「もちろんでございます。ただ、そのような無謀な国が存在しないということもまた確信しております」
この大陸においては、ゴルドレスタ帝国が一強という状態なのだ。もちろん、複数の国が連合を組めば帝国には対抗できるし、だからこそ帝国による大陸統一という事態にはなっていない。
別の大陸からの侵略という可能性はあるものの、『帝国による平和』という状況にある中で、帝国に挑む国は出てこないだろう。リュミエスタ王国とビエトナスタ王国の戦争のように、小国間での紛争は割と発生するらしいけどね。
「言質は取ったぞ。くくっ。貴殿が味方になるということは、クロム教までが味方になるということだからな。もちろん、ツキオカ殿の武力にも一目置いておるぞ」
なるほど。確かにそうだよな。なにしろ俺は神使(という肩書き)だからね。
「代わりに貴殿の望みを叶えよう。何か希望があれば言ってみよ」
「はっ、それではお言葉に甘えまして…」
俺はクロムエスタ神国からの依頼を受注したこと(もちろん依頼内容は秘密だ)、その依頼にニホン人三名を同行させたいこと、依頼が完了したら(一度帝都には戻ってくるけど)一緒にエーベルスタ王国へ向かいたいこと(留学の続きってことだね)などを伝えた。
皇帝陛下はその場での即断は難しいとは言ったものの、謁見の翌日には全ての希望が通ったことを伝えられた俺だった。言ってみるもんだな。
・・・
「師匠ぉ~、久しぶり。ビエトナスタ王国での活躍は聞いたぜ。さすがは師匠だよな」
「ツキオカさんの味方したほうが勝つ…それがこの世の理なのよ」
「ツキオカさん、ご無事で何よりです。ほ、本当に良かった…」
順に、勇者であるサガワ君、聖女であるホシノさん、賢者であるクロダ先生の発言だ。
ホシノさんの発言にはちょっとツッコミを入れたいところだが…。
そのホシノさんが言った。
「先生はずっと心配してたんですよ。愛されてますねぇ~、このこのっ」
「ちょっ、アカリちゃん、何を言ってるの?そんなんじゃないってば!」
肘で俺の脇腹を突いてくるホシノさんと、なぜか焦っているクロダ先生だった。
「この国が難民を受け入れてくれたこと、そしてそうなるように尽力してくれた君たちには本当に感謝しているよ。ありがとう」
「へっへぇ、そんなのお安い御用だぜ。師匠から受けた恩を万分の一でも返せたとしたら、俺たちも嬉しいんだけどな」
得意気なサガワ君の後頭部をホシノさんが平手で叩いていた。
「何すんだよ、アカリ」
「あっ、ごめ~ん。つい、いつもの調子でツッコんじゃったよ。てか、タイキには珍しくまともな発言だったね」
「人の頭をポンポン叩くな。まぁ、良いけどよ」
…って、良いんかい!
俺とクロダ先生の気持ちが一つになった瞬間だった。何というか…バカップル?




