345 再びの帝都
宴会の翌日、村の出入口付近に佇み、乗合馬車がやってくるのをジル村長と二人で待つ。
そこへミユちゃんの手を引くサユさんと、サユさんのご両親がやってきた。
「パパぁ~」
空いているほうの手をブンブンと振りながら歩いてくるミユちゃんを見て、ほっこりする。もはや『パパ』呼びを矯正する者は誰もいない(俺がそれを許しているからね)。
「ミユちゃん、パパはこれから隣の国へ行って、その中にある別の国へ行ってくるからね。どれだけ時間がかかるかは分からないけど、この国に戻ってきたら絶対ミユちゃんに会いに来るよ。良い子で待っててね」
「うん!ていこくに行ってからしんこくに行くんだよね?ミユ、待ってるよ。早く帰ってきてね」
おお、すごいな。帝国経由神国行きってことをきちんと理解できてるよ。なんて賢い子なんだ。
「サトルさん、どうかお気をつけて。ミユと一緒にお帰りをお待ちしております」
サユさんもにっこりと微笑んでくれた。旅立ちに際し、笑顔で送り出してもらえるのは何よりも嬉しいです。
このタイミングでちょうど乗合馬車がやってきたため、俺はそれに乗り込んだ。ここは馬車の出発地ではなく中継地なので、すでに数人の乗客が乗っていたよ。
俺は空いた席に座ってから、窓から顔を出して、こう言った。すでに馬車は動き出している。
「皆さん、またお会いしましょう。それでは行ってきます」
見送りの人たちが笑顔で手を振ってくれている。ジル村長を含めて総勢五人だ。ちなみに、村人全員が見送りたいと言ってたんだけど、めっちゃ目立つだろうから遠慮してもらったのだ。
最後に小さく見えたミユちゃんの顔が今にも泣き出しそうになってたよ。それを見た俺のほうもちょっと感傷的な気分になってしまったのは秘密だ。
・・・
ほどなくして乗合馬車は国境の検問所に到着したので、乗車料金を支払ってから降車する。
そこで冒険者カードを提示する俺。エーベルスタ王国側とゴルドレスタ帝国側の二箇所でそれを行った。
あとはゴルドレスタ帝国側の国境近くの街へ徒歩で向かい、そこで帝都行きの乗合馬車を探すのだ(直行する馬車があるかどうかは分からないけど)。
ただ、街へと向かうべく街道を歩いていると、前方から一台の馬車がやってきて、それが俺のすぐ近くで停車した。
その馬車から降りてきたのは神官服を着た若い男性で、ゴルドレスタ語でこう言った。
「その黒髪、神使であらせられるツキオカ様とお見受け致します。国境の検問所から鳩による知らせが届きましたので、急ぎお迎えに参りました。どうかこちらの馬車へお乗りいただきたくお願い申し上げます」
おぉ、それはありがたい。帝国内でも乗合馬車の乗り継ぎ旅になるかと思ってたよ。クロムエスタ神国まで馬車で送ってくれるのかな?
・・・
それからはその馬車を使い、二週間ほどで帝都へ到着した。やはり乗り換え無しは楽だな。
ちなみに国境付近で俺を出迎えてくれた若い神官だけど、あれからずっと同行してくれている。彼の名はクローシュ。クロムエスタ神国の神官の一人で【光魔法】のスキル持ちでもある。
「クローシュさん、少しだけ帝都に滞在したいのですが、よろしいでしょうか?我が国の国王陛下から帝国の皇帝陛下へ向けた親書を預かってきているのですよ。できれば拝謁の栄誉を賜りたいと思っているのですが、クロム教会から働きかけていただけないでしょうか?」
「そのようなことお安い御用でございます。神国教皇の聖名をもって、ツキオカ様への拝謁につきまして、すぐに皇帝に命じる所存でございます」
ありがたい。てか『皇帝に命じる』ってすごいな。どれだけクロム教の権限ってあるのやら…。
はっ、待てよ。彼の発言って、皇帝陛下『が』俺『に』謁見するって話じゃないだろうな。なんだかそういうニュアンスに聞こえたんだけど…。
「帝都大聖堂に皇帝を呼び出して、ツキオカ様への拝謁をしてもらいましょう」
「ちょ、ちょ~っと待って!そうじゃなくて、俺が皇帝陛下に拝謁を願うほうですよ。俺の方から直接宮殿へと出向きますので…」
「それではまるでツキオカ様が皇帝よりも下にいるようではありませんか。神使であらせられるお方が皇帝風情よりも下というのは神に対する冒涜ですぞ」
えっとどうしよう?何とか理由を…。
「俺はエーベルスタ王国の臣としての立場で謁見したいのです。神使としてではなく…」
「ふむ。ツキオカ様のご希望はできるだけ叶えるようにと厳命されておりますれば、ここは仕方ありませんな。そういう体で会談を調整致しましょう」
ほっ、良かった~。宗教家の人って独特の思想・信条で動くから怖いよ。
てか、危うく外交問題になったかもしれないっつーの。




