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343 村長との会談

 貧乏な村というのは本当のようで、夕食は固い黒パンと野菜くずのスープ(肉無し)だけだった。

 でも心のこもった料理って感じで、(胃はともかく)心は満たされたよ。サユさんの父親も穏やかな性格の人で、俺たちのことを心から歓迎してくれた。

 ちなみに、俺が貴族であることについては秘密にしてくれるよう、サユさんにはお願いしている。ミユちゃんの『男爵令嬢』発言も子供の戯言(たわごと)としてスルーされたようだ。


 家は狭くてぼろかった(失礼!)けど、何とか寝床も確保できた。てか、サユさんのご両親が自分たちの寝室を俺に提供しようとして、それを断るのにめっちゃ苦労した。

 俺としては、屋根のあるところで寝られるだけで十分なのだ。


 翌朝の朝食も質素なものだったが、今後は改善していくことだろう。

 その件を話し合うため、サユさんと俺は村長さんの家へと(おもむ)いた。なお、ミユちゃんはサユさんのご両親が見てくれている。

(わし)が村長のジルである。サユよ、久しいな。そちらの御仁(ごじん)は冒険者と名乗っておったようだが、ランクは?」

「はい、現時点でCランクとなっています。名はサトルと申します。どうぞよろしく」

「うむ、それで今日は二人揃って何用かな?」

 言葉遣いは丁寧だが、ジル村長の目は怒りを含んでいるように思える。その理由は分かっているし、実はその件を話し合うためにここへ来たのだ。


「その前にサユよ。お(ぬし)がラルクと共に村を出奔してから、この村にかかる税率が跳ね上がったのを知っておるか?それまでの税率が収入の4割だったのに、いきなり6割になったのだぞ。近隣の村が4割のままであることも分かっておる。うちの村だけが不当に高い税を課されているのだ。この件にお(ぬし)は関わっておるのか?」

 そう、俺たちが村に着いた際の睨みつけるような視線は、これが理由だったわけだね。『四公六民』が『六公四民』になったってわけ。ちなみに、江戸時代ですら『五公五民』だったことを考えると、相当高い税率であることが分かる。

 でもサユさんは知らなかったみたいで、驚愕の表情を浮かべていた。もちろん、俺は知ってたよ。

「知りませんでした。でもおそらく私のせいです。私がご領主様のご子息のご機嫌を(そこ)ねたから…」

 ここで俺は(ラルクの死亡原因以外の)全ての事情を(つまび)らかに説明した。


「はぁ~、なるほど。そういうことだったのか。お(ぬし)に村のために犠牲になってくれとは言えぬわな。原因が分かってすっきりはしたが、このままでは村は立ち行かぬ。こうなれば王都へ行って、王様に直訴するしかあるまいて」

 サユさんのことを責めるような言葉を発しないあたり、ジル村長の人柄の良さがよく分かる。でも村長さん、直訴は不要ですよ。

 ボークスが以前言っていた『もっと高い税をかける』という言葉について、ガードナー辺境伯を問い(ただ)し、そのあたりの事情について調べておいたのだ。


「ご領主様はこの村の税率が変更されたことをご存知なかったようですよ。実はある事務方の人間が勝手にやったことであり、その者はすでに逮捕されております。で、この村へのお詫びとして、こういう通達が発布されました。ただし、これは極秘事項となりますので、この場にいる三人限りの秘密ということでお願いします」

 俺は一枚の書類をジル村長に手渡した。高級な紙に記されていた内容は箇条書きにすれば以下の通り。


・ウルヒ村(この村の名前だ)が納めた5年分の過剰納税額については速やかに村へ返還する。

・今後10年間、ウルヒ村の納税を免除する。ただし、村民には4割に戻ったと伝えるようにせよ。これは近隣の村へ情報が漏れるのを防ぐためである。

・納税免除期間のあとは税率4割に戻すものとする。

・この通達については村長とその後継者限りの情報とし、村民には秘密にすること。


 一番下にガードナー辺境伯のサインが記され、印璽も押されている正式な公文書だ。

 ちなみに、サユさんにも秘密にしていたので、ジル村長と一緒になって驚いていた。

「こ、これは本当のことなのでしょうか?とても信じられません。そもそもなぜ冒険者であるあなたがこれを持ってきたのか…」

「官吏や騎士を使うと、この件を秘密にすることが難しくなりますからね。俺はこの書類の運搬をご領主様から直接依頼されたので間違いありませんよ。ただ、盗賊団のような不逞の(やから)に目を付けられる恐れもありますし、今後は自警団など村の防衛に力を(そそ)ぐ必要があるでしょう。もっとも、この地域への定期的な騎士の巡回をご領主様にお願いしておきましたので、当面は大丈夫だと思います」

「ちょ、ちょっとそれは情報量が多すぎて目が回ってきましたぞ。あなたは本当にただの冒険者なのですかな?とてもそうは思えぬのですが…」

 まぁ、ご領主様から直接仕事を依頼され、こちらからお願いまでできるような人物ってことだからね。でも俺が貴族であることについては秘密にしておきたい。


「サトルさんはすごい方なのです。国王陛下とも仲良しらしいですよ」

「ちょっ、サユさん、待って!村長、今のは冗談ですからね。てか、不敬罪になりますって」

 これはガードナー辺境伯との話し合いが終わったあと、雑談の中で彼がぽろっと漏らした情報なのだ。いやまぁ、確かに懇意にさせていただいてはおりますが…。

 ドヤ顔で微笑むサユさんと焦る俺を交互に見ながらジル村長がポツリと言った。

「これは下手に詮索せぬ方が良いのだろうな。知らないほうが幸せってやつだろうて」

 あー、まぁ、そうかもしれませんね。

 てか、サユさん。秘密にしておいてほしいって言ったじゃん。


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