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341 ご招待再び

「サトルさん、お聞きしてもよろしいですか?」

 ガードナー辺境伯家のお屋敷から宿屋へ向かう道すがら、隣を歩くサユさんが話しかけてきた。まぁ、色々と聞きたいこともあるだろうね。

「ええ、どうぞ」

「あなたは、いえ、あなた様は魔術師様ですよね?しかも複数の属性を操っておられたように見えました。また、ご領主様があなた様に頭を下げていたのは、いったいどういうことなのでしょう?もしやサトルさんはお貴族様なのですか?ツキオカ殿とも呼ばれていたようですが…」

 うーん、どうしよう…。さっきの辺境伯家をあらためて訪問する際にはどうせバレるだろうし、俺の正体を正直に伝えたあと、彼女たちに口止めをお願いしておいたほうが良いかもな。


「冒険者ギルドに登録されている情報では、【風魔法】と【光魔法】の二つを使える二属性(ダブル)の魔術師ということになっています。本当はさらに他の属性も使えるのですが、それは秘密にしておいてもらえますか?ミユちゃん、さっき見たことは内緒だよ。パパとの約束だ」

「うん!分かったぁ~。パパ、降りる~」

 ミユちゃんを抱きかかえたままここまで歩いてきたのだが、どうやら自分の足で歩きたいらしい。俺はミユちゃんをゆっくりと降ろしてあげた。

 彼女を中心にして、その両手を俺とサユさんが繋いでいる。その状態で、ミユちゃんのペースに合わせてゆっくりと歩く三人。(はた)から見れば、仲良し親子以外の何ものでもない。


「それと俺の名前はサトル・ツキオカです。元々は他国から来た平民なんですが、現在はこの国の男爵位に叙されています。でも(へりくだ)る必要はありませんよ。どうか今まで通りでお願いします」

「だ、男爵様…。これまでの非礼をどうお詫びすれば…」

「いえ、本当にこれまで通りにしてください。俺はどこにでもいるCランクの冒険者として帝国経由神国行きの旅をしているだけですし、なにより今はミユちゃんのパパですからね」

 隣をとことこと歩くミユちゃんを見下ろすと、彼女もちょうど見上げているところだった。ばっちり目が合ったよ。

「パパが貴族だったら、ミユはれいじょう(・・・・・)になるの?」

「あはは、そうだね。男爵令嬢かな?」

 よく『令嬢』なんて言葉を知っていたな。我が娘の賢さを実感して誇らしい気持ちになった俺だった。


 このあとサユさんは心なしか気落ちした感じになっていたけど、単に畏縮しているだけかもしれない。いや、まじで(かしこ)まらないで欲しいのですが…。


 ・・・


 その四日後、俺たちの泊まる宿屋へ再度の訪問者があった。以前に来たセバスチャン(仮)とは別の人物だったけど、やはり『ザ・執事』って雰囲気の初老の男性だったよ。

 執事さんの自己紹介のあとに伝えられたのは、予想通り屋敷へのご招待の言葉だった。てか、この方は侍従長だった(ツキオカ男爵家で言えば、アンナさんの位置付けだな)。

「ツキオカ様。どうか我が(あるじ)の元へおいでいただきたく、()してお願い申し上げます」

 今度の招待状に押された封蝋(ふうろう)印璽(いんじ)は正しい角度で押されていた。どうやらジグムント・ガードナー辺境伯(またはその嫡男)からの招待であることに間違いはなさそうだ。

 当然、俺だけでなくサユさんとミユちゃんも招待されている。今回も罠だったら、迷わずメフィストフェレス氏を呼び出そう。そう固く決心したよ。


 宿屋をチェックアウトしてから三人揃って、辺境伯家の紋章付きの豪華な馬車へ乗り込む。なお、侍従長さんは別の馬車に一人で乗ったみたい。

 見覚えのある道を通ってガードナー辺境伯家のお屋敷へと到着した俺たちは、使用人一同が玄関の前にずらっと並ぶという出迎えを受けた。ミユちゃんもサユさんも目を見張って驚いていたけど、俺としてはまだ安心できない。油断を誘うためという可能性もあるからね。

 で、立派な応接室へと案内されたあと、まずはお茶とお菓子が出てきたよ。当然、【鑑定】して毒が入っていないことを確認した俺だった(俺には()かないけど、横に座る二人には有効だからね)。

「毒は入っていませんから、これらを飲食しても大丈夫ですよ。ミユちゃん、お菓子食べるかい?」

「うん!」

 うちの娘は何て可愛いんだ。お菓子を食べて満面の笑みを浮かべているミユちゃん。それを見てほっこりしている俺。緊張しているサユさん。三者三様だった。


 待つこと2~3分、ジグムント・ガードナー辺境伯と先ほどの侍従長、それに武人っぽい人(あとで聞いたら騎士団長だった)が入室してきた。

「ツキオカ殿、お待たせした。あらためて今日はここへ来ていただいたことを感謝する」

「ガードナー辺境伯様、先日は失礼致しました。怒りで冷静さを失っておりましたこと、この場であらためて謝罪申し上げます」

「いやいや、悪いのはこちらである。正確に言えば、愚息ボークス及び諫言(かんげん)することなく唯々諾々(いいだくだく)と命令に従った部下たちの失態だ。こちらこそ謝罪させてほしい。そちらの親子にもな。本当に申し訳なかった」

 ソファに座ったままではあるが、その場で頭を下げた辺境伯を見て、サユさんがめっちゃ焦っていた(ミユちゃんはキョトンとしていた)。

 変な(わだかま)りはこれで消えたことだろう。あとは事件の真相を聞かせてもらうだけだな。


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