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340 真相究明 ~第三者視点~

 ガードナー辺境伯領の領主であるジグムント・ガードナー辺境伯は、苦虫を噛み潰したような顔で執務机に座っていた。

 ここは彼の屋敷の中にある執務室であり、彼の目の前には直立不動の侍従と騎士、それに三男のボークスの姿があった。侍従は宿屋へ招待状を持参した者であり、騎士は先ほどの現場指揮官である。

 彼らとは別に、辺境伯の背後には侍従長と騎士団長が控えていた。目の前にいる侍従と騎士の上司である。


「で、これはいったいどういうことなのだ?(わし)に分かるよう、詳しく説明してみよ」

 ボークスは顔面蒼白でブルブル震えているのみであり、とても申し開きができるような状態ではなかった。彼にとっての父親は(子供の頃から)恐怖の対象なのだ。

 しかも、辺境伯家の印璽(いんじ)を勝手に使ったことがすでにバレているようで、それをチクったサトルという冒険者に対する悪感情が内心に渦巻いていた。要は、逆恨みである。


 侍従が隣に立つボークスの様子を見て、溜め息を()きながら話し始めた。

「旦那様、実はボークス様が永年(した)っていたにもかかわらず、今までその行方(ゆくえ)が分からなかった女性がいるのです。その方がようやく見つかり、求婚をしたのですがあえなく断られたようでございます。そして、その女性の夫を名乗る人物を亡き者にしようと、その者に招待状を渡してお屋敷へと(おび)き寄せたのです」

 ここからは騎士が話を引き継いだ。

()の者から魔道武器を奪い取り、拘束しようと試みました。ところが魔法で反撃され、あのような状況に…」

「ツキオカ殿は娘を人質に取られたと言っておったが、まさか本当にそのような卑劣な振る舞いをしたのではなかろうな?どうなのだ?」

 騎士の顔からは汗が噴き出ていた。嘘が付けない性格なのかもしれない。


「お前たち、あのお方が何者か知らぬのか。いや、知らぬからこそ、このような無謀なことができたのだろうな」

 辺境伯は大きな溜め息を一つ()いて語り始めた。

「彼の名はサトル・ツキオカ。ツキオカ男爵家の当主である。国王陛下やミュラー公爵閣下、アインホールド伯などからは『サトル君』と親しく名前で呼ばれ、王都の警吏本部長官であるグレンナルド伯からの信頼も厚い。元々は他国の人間ではあるが、今ではこの国に無くてはならぬお方と言えよう。そうそう、クロムエスタ神国からは『神使(しんし)』の称号も得ておったな」

 侍従、騎士、ボークスの三人は、目を見開いた状態かつ口が半開きとなっていた。擬音で表せば『ポカ~ン』だろう。驚愕のあまり身体が固まってしまったようだ。


「さて、どうやって彼に詫びれば良いのだ?意見を言ってみよ」

「いくら貴族とはいえ所詮は男爵、旦那様のような高位貴族ではございません。身分を(たて)に取り、あの者を納得させればよろしいのでは?」

「彼は陞爵(しょうしゃく)を望まないがゆえ、あえて男爵位に(とど)まっておるのだ。しかも陛下とは非常に懇意であり、ミュラー閣下からは自身の名代(みょうだい)とまで言わしめている御仁(ごじん)であるぞ。そのような者に高圧的な態度をとった場合、いったいどのような展開になるのだろうな。潰されるのは間違いなく我がガードナー辺境伯家になるだろうよ。ちなみに、これらの情報は春の登城の際、陛下から直接お(うかが)いしたのだ。真実であることに間違いはない」

 意見を言った侍従長もまた『ポカ~ン』状態へと(おちい)っていた。

 これを聞いた侍従と騎士はさらに冷や汗を流し始めた。自身の行為を振り返り、犯した(こと)の重大さに気づいたのだろう。


「彼はこうも言っていた。【闇魔法】による取り調べをするように、と。これはあくまで推測だが、ボークスの犯罪行為がガードナー辺境伯家への連座制度適用となることを危惧したものと思われる。自分が動けば連座は(まぬが)れない。ならば、(わし)に取り調べを一任することで、私刑による解決を…ということではないだろうか」

 これを聞いたボークスは目に見えて狼狽(うろた)え始めた。何か後ろ暗いところがあるに違いない。

「とにかく、早急に調査を進めるよう取り計らえ。真実を(つまび)らかにして彼の怒りを(しず)めるしか、もはや手は残されておらぬ。()く取り掛かれ」

 侍従長と騎士団長がすぐに行動を開始した。まずは目の前の侍従と騎士を拘束することからだ。

 彼らが厳しい取り調べを受けることは明らかだった。


 ・・・


 ガードナー辺境伯領の領都にある警吏署は、王都の警吏本部ほどではないがかなり大きなものであり、領都とその周辺の犯罪捜査と治安維持に尽力している。

 その中の鑑識課に所属する【闇魔法】の魔術師の手を借り、捜査が進められた。

 直近の事態に関するものだけでなく、過去の犯罪に関しても徹底的に調べ上げられたのである。

 そして判明した結果はガードナー辺境伯の表情を曇らせるものであり、逆に自らの調査で判明したことを喜ぶものでもあった。もしもこれが王都の騎士団による調査であったなら、連座制度が適用された結果、ガードナー辺境伯家はお取り潰しになっていたことだろう。


 以下はその調査結果である。


・辺境伯家三男のボークスが横恋慕していた相手は、サユという名の平民の女性である。

・彼女の以前の夫であるラルクという人物は、冒険者として王都周辺で活動していた。

単独(ソロ)で受けた依頼を果たすべく、独りで森の中へ出掛けたラルクを偶然ボークスの手下が発見した。

・彼を尾行すれば家が判明したにもかかわらず、手下たちは功を焦ってラルクを拉致してしまった。

・そして、拷問により妻サユの居場所を吐かせようとしたのだが、誤って殺してしまう。

・拷問の痕跡を隠すため、彼の死体を魔獣の餌とした。

・無残にも骨だけとなったラルクの死体状況では殺人事件としての嫌疑をかけるには不十分であり、捜査は行われなかった。

・ただし、死体の身元については所持していた冒険者カードにより判明している。

・上記の事件は三年前のことであり、今年になってようやくサユの居場所が判明した。

・ボークスは彼女に求婚したが拒絶され、それでも諦めきれずストーカーと化した。

・サユと娘のミユは王都から逃げ出し、実家の村へ戻るため、現在はこの領都に滞在している。

・ツキオカ男爵は旅の途中に彼女たちと知り合ったらしい。なお、実際に結婚はしていないようだが、肉体関係の有無は不明だ。


「はぁ~、手下がやったこととはいえ、殺人に関与したのは明らかだ。まぁ、馬鹿息子に人を殺すほどの度胸は無いが、それでも何らかの罪には問われるだろう。知っていて黙っていたのだからな。とりあえず、その手下どもを捕縛せよ。殺人罪だ。殺意を否定して、傷害致死を主張するかもしれんがな。だが、死体損壊・遺棄罪になるのは間違いない」

 このあとすぐに(監禁または誘拐、殺人または傷害致死、死体損壊・遺棄の罪状で)実行犯たちが逮捕された。


 こうして、調査を開始して(わず)か三日後には供述調書を始め、全ての資料が揃ったのである。【闇魔法】を活用したとはいえ、かなりのスピード解決であった。

 ガードナー辺境伯はツキオカ男爵宛ての招待状を(したた)めながら、謝罪を目に見える形で示すにはどうすれば良いかを悩んでいた。

 話を聞く限り、どうやら欲のない人物であるらしい。高潔な精神を持つ者に対して、金銭や貴金属による謝罪ではかえって失礼になるかもしれないのだ。実に困ったものである。


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