034 動画再生
冒険者ギルドの建物に入ると、ちょうど依頼を終えた報告者が多いのだろうか、多くの冒険者が屯していた。
そこにロープで縛られ猿轡をかまされた男たち三人、俺とナナさんの若者二人という異様な集団が現れたのだ。しかもCランク冒険者であるカイルたちには顔見知りも多いはずで、俺やナナさんを不審そうに見る者も多かった。
「ちょ、ちょっとこれは何事ですか?」
新規登録担当のエリーさんが近づいてきて、事情を説明しろと迫ってきた。知っている受付嬢で良かった。
「エリーさん、Fランクのサトルです。こっちは同じFランクのナナさん。犯罪者を捕縛したので連行しました。事情をご説明したいのですが、上の階に会議室みたいな部屋はありませんかね?」
「は?はぁ、では支部長室へご案内します」
好奇の目に曝されながら階段を上がっていく俺たち五人+エリーさん。
うう、こんなに目立つつもりは無かったのに…。
ある部屋の前でエリーさんが扉をノックした。
「支部長、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
ん?小さくしか聞こえなかったが、かなり高い声だな。もしかして女性なのか?
エリーさんの先導でぞろぞろと部屋に入った俺たち。
目の前の重厚な机に座っていたのはやはり女性だった。30~40代くらいだろうか。年齢はともかく、かなりの美人だった。
「冒険者ギルドデルト支部の支部長であるアイーシャ・デルトだ。見覚えのある冒険者たちと見たことのない若者たちだな。いったい何事かね?」
家名がデルトってことは、この街の領主であるデルト準男爵の係累かな?
【鑑定】したくなるのをぐっとこらえた俺だった。勝手に【鑑定】するのはやはり失礼だと思うし…(どの口が言ってるんだ?)。
俺は事件の経緯を詳しく説明した。もちろん、説明を遮られないように、男たちの猿轡はそのままだ。
「ふむ、それが本当なら由々しき事態だ。警吏に引き渡して刑罰を科さねばならぬ。ただ、一方の主張のみでは判断できないな。次はそいつらの主張を聞こう」
俺はカイルだけ猿轡をはずしてやった。
「ぷはぁっ、てめぇ、よくもやってくれたな。あとで覚えてろよ」
殺しそうなほどの剣呑な目つきで俺を睨んできたけど、『あと』は無いと思うぞ。
「はやく釈明しろ!」
支部長さんがいらっとした表情で怒鳴った。
「俺らはこの女をパーティーに入れて鍛えてやっただけだ。それをこの野郎がいきなり攻撃してきやがった。多分、魔法だろう。で、気付いたら縛られてたんだよ。俺らは被害者だ」
「嘘です!こいつら私を…」
ナナさんが思わずといった感じで叫んだ。カイルに睨まれたせいで発言が尻すぼみになってしまったけど…。
「ふむ、どうやって真贋を判定すべきか…。双方の主張が食い違った場合、ポイントとなるのは犯罪を立証できるだけの証拠があるかどうかだが…」
目撃証言だけじゃなく、物証を提示しろってことか…。
俺は【アイテムボックス】からスマートフォンとノートPCを取り出して、まずノートPCを起動し、USBケーブルでスマホと接続した。
スマホはソーラーバッテリーで充電できるけど、ノートPCはバッテリーが切れたら使えなくなってしまう。なので、できるだけ起動したくは無かったのだが、ここは使うべきだろう。
ノートPCで動画を再生しようと思ったのは、ここにいる全員に見せるためだ(スマホの画面では小さすぎるからね)。
わけの分からない装置を取り出してごちゃごちゃやっている俺に好奇の視線が集中している。
準備が完了したので、俺はさっき撮影した動画をノートPC上で再生した。
「おい、傷をつけるな。今からお楽しみの時間なんだからよ」
「わーかってるって。こいつの【剣術】スキルは31だぜ。すぐに終わらせてやるさ」
・・・
「よし、お前そこで服を脱げ。下着もだぞ。剣で切り裂かれたくはないだろ?」
うん、犯罪行為の立証としては十分だろう。
念のために撮影しておいて良かったよ。
…って、あれ?なんか静かだな。再生は終了しているのだが、寂として誰も声を発しない。
ノートPCの画面から目を離し、振り返って全員を見ると、漏れなく全員が目を見開いて固まっていた。あ、これはヤバいやつ?




