表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

338/373

338 ご招待

 翌朝、食堂で朝食を()っていた俺たち三人の元へ再び来客があった。

 ただ、やってきたのは騎士ではなく、初老の執事っぽい男性だった。セバスチャンといった感じだろうか(いや、名前は知らんけど)。

 その人が俺に差し出したのは、ガードナー辺境伯からの招待状だった。どうやら俺たちを自分の屋敷へ招きたいらしい。

 ちなみに、招待状の宛先は『ツキオカ男爵殿』ではなく『冒険者サトル殿』だったので、まだ俺の正体はバレていないってことになる。

 あと、招待されたのは俺だけでなく、サユさんとミユちゃんもぜひご一緒に…ということだったよ。

 これって何となく罠の匂いもするんだけど、『虎穴(こけつ)()らずんば虎子(こじ)()ず』だよなぁ。問題の早期解決を図るには、あえて敵中に飛び込むこともありかもしれない。


 なお、『罠』とか『敵』などと言っている理由だけど、招待状の封筒の封蝋(ふうろう)に押された印璽(いんじ)の角度で判断したのだ。

 貴族家の当主とその後継者にしか知らされていないこの国の極秘情報なんだけど、印璽を押す角度って厳密に定められているんだよね。これによって、誰かが当主になりすまして印璽を押しても、それが『なりすまし』であることが分かるってわけ。なかなかうまい仕組みだと思う。

 つまり、この招待状はガードナー辺境伯本人からのものではなく、おそらくは三男のボークスが出したものだろう。勝手に印璽を使ったのだろうね(それだけでもかなりの重罪だ)。

 屋敷に着いたらいきなり拘束されたり、毒入りの茶を(すす)められたりといったことが考えられるかな。まぁ、俺に毒は()かないんだけど…(【状態異常耐性】のスキルレベルが100だからね)。


「辺境伯様にお伝えください。『承知しました。お(うかが)いさせていただきます』と」

「それでは外に馬車を待たせておりますので、食事が済みましたらお乗りくださいませ。御者にはあらかじめ指示をしておりますので、お乗りいただくだけでお屋敷までお連れ致します。なお、私は旦那様にお伝えするため、このまま失礼します」

 ふむ、この男も敵ってことか。招待状が偽物なのに、『旦那様』という言葉を使っていることからそれが分かる。

 一足先に帰って、俺たちを拘束するための準備を整えるつもりじゃないかな?


 俺はサユさんとミユちゃんへ小声でこう伝えた。

「このあと皆でガードナー辺境伯家のお屋敷へ行きますが、これは辺境伯様からのご招待ではありません。九分九厘ボークス様からの呼び出しでしょう。ですが、心配しないでください。君たちのことは俺が必ず守りますから」

「なぜご領主様でないと分かるのでしょうか?いえ、それが分かっていて出向くのはどうして?」

「パパ、大丈夫なの?昨日の騎士さんたち、強そうだったよ」

 心配そうな二人に笑顔でこう言っておいた。

「二人とも俺に任せておいてほしい。決して悪いようにはしないよ」


 ・・・


 乗り込んだ馬車の中でも親子は不安そうな表情をしていた。

 俺の見た目もあるんだろうな。頼りなさそうというか、弱っちそうというか…。

 しばらくして馬車は大きな門を通り抜け、かなり立派な建物の前に停車した。ようやく目的地へ到着したようだ。

 俺が最初に降り、次いでミユちゃんを抱きあげて降ろしてあげた。最後にサユさんの手を取って降車をエスコートする。これって何だか貴族っぽい仕草(いや、貴族なんだけどね)。


 …っと、ここで突然玄関ドアが開け放たれ、そこから十人ほどの騎士がぞろぞろと出てきた。

 一人の騎士が玄関の近くにいたミユちゃんを拘束し、その首筋に短剣を突き付けた。くそっ、油断した。ミユちゃんに俺の近くにいるよう、事前に言っておくべきだった。

 おそらくは冒険者としての俺の戦闘力を警戒して、ミユちゃんという人質を確保したのだろう。この展開は想定外だったよ。


「これはどういうことですか?私たちはご領主様からのご招待をいただき参っただけでございます。娘を放してくださいませ」

 俺の言葉を聞いて、騎士たちが鼻で笑った。嘲笑だ。めっちゃムカついたけど、これで彼らは俺たちにとっての敵であることが確定したわけだ。

 指揮官らしき一人の騎士が俺に向かってこう言った。

「武器を捨てろ。お前が魔道武器を所持しておるのは分かっておる。その武器を地面に置いてから、こちらへと蹴りだせ」

 俺は背負っていたリュックサックの中から『魔道ライフル・改』を取り出し、それを地面に置いたあと騎士たちの方へ向けて足で蹴った。ただし、魔石カートリッジは取り(はず)している(敵に悪用されないようにね)。


 指揮官らしき男がそれを拾い上げた瞬間、ミユちゃんを拘束していた男の警戒が緩んだのを俺は見逃さなかった。先ほどまで首筋に当てていた短剣を持つ右手が下がったのだ。

 俺は男の右肩に照準(レティクル)を合わせて【ウォーターカッター】を発動した。細い水流が奴の右肩を穿(うが)つ。

 悲鳴が上がる前に【空間魔法】の【ジャンプ】を発動した俺は、一瞬後にはその男のすぐ目の前にいた。そして、即座に【アイテムボックス】から取り出した十手をそいつの頭に振り下ろし、昏倒させた。

 ミユちゃんを抱え上げた俺は、後ろを振り向いて再度【ジャンプ】を発動し、サユさんのいる馬車の近くへと戻った。ちょうど御者の男がサユさんに手を伸ばそうとしていたので、そいつも十手でぶん殴ってやったよ。


「馬車の中へ」

 短い言葉で指示を出し、二人を馬車の中へと押し込んだ。

 騎士たちは玄関前に半円状の陣を敷いている。一人倒れているので、残りは九人だ。

 さて、このあとはどうしよう?

 範囲攻撃魔法は上級魔法に分類されるので使えない。一度に大勢の敵を攻撃することはできないのだ(上級は【光魔法】しか使えないからね…現時点では)。

 やはりマルチキャストで対処するしかないか…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ