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334 乗合馬車の旅

 今、俺は王都から南西にある街へ向かう乗合馬車に乗っている。

 ただ、ゴルドレスタ帝国との国境まで直接行ける乗合馬車は無いらしく、いくつかの街や村ごとに乗り換えが必要みたいだ。日本の路線バスみたいな感じかな。

 しかも以前ルナーク商会の一行と共に帝国入りした際は直線的な最短ルートだったのだが、乗合馬車を乗り継ぐ場合はかなり遠回りになってしまうらしい。まぁ、仕方ないね。

 なので、通過する予定の国境検問所も異なるため、以前と同じ職員から奇異の目で見られることもないはずだ。いや、以前はFランクだったのに、現在はCランクだからね(一気に昇格し過ぎだよ)。


 ちなみに、乗合馬車が使用しているルートは比較的安全なものらしい。てか、最短ルートの場合、割と危険な場所を通ることになると乗合馬車の御者の人に教えてもらったよ。

 は?昨年のゴルドレスタ帝国往復と勇者たちの出迎えで使ったルートは、まさにその最短ルートだったのですが…(危険だったのかよ!)。

 あと、同乗者の中に5歳くらいの幼女とそのお母さんがいて、彼女たちと会話している内に自然と仲良くなれたのは良かったよ。幼女の名前はミユちゃん、母親はサユさんというらしい。サユさんは多分、俺よりも年下だと思う。

 俺はCランク冒険者のサトルとだけ名乗っている。ツキオカという家名及び貴族であることは秘密だ。


 客の数は10名で、サユさんとミユちゃん親子以外は全て男性だった。若い男もいれば年配の方もいたが、俺が会話したのはこの親子だけだ。

 …で、現在、馬車は道の駅のような街道脇の休憩所に停まっている。馬と客のどちらにも休息は必要だからね。

「お客さん方、一時間後に出発しますので、集合時間に遅れないようお願いします」

 御者のアナウンスのあと、トイレへ駆け込む客、テーブルについて飲み物を取り出す客、辺りをうろうろと散歩する客など、様々だ。


 俺は(誰も座っていない)空いているテーブルに座ってから、リュックサックから(取り出したふりをして【アイテムボックス】から)ナナ特製サンドイッチを取り出した。焼肉サンドと玉子サンドだ。焼肉サンドには甘辛いタレが塗られており、玉子サンドの方は当然だけどマヨネーズを使っている。

 さて食べようかと思ったとき、トイレに行っていた(と思われる)親子が俺の座るテーブルへとやってきた。

「サトルさん、ここ良いですか?」

「サトルお兄ちゃん、座っても良い?」

「どうぞどうぞ」

 四人掛けのテーブルなので、全く問題ない。てか、俺のテーブルってわけでもない。

 ちなみに、ミユちゃんはめっちゃ可愛い美幼女だし、サユさんもなかなかの美人だ。彼女たちとの会話は楽しいし、俺としても断る理由が無い。


 ちょうどお昼時なので、彼女たちもカバンからお弁当を取り出していた。固そうな黒パンとこれまた固そうな干し肉だったよ。見ただけで(あご)が疲れそう。

 ミユちゃんが俺の目の前に置かれていたサンドイッチをガン見している…。うっ、なんか食べづらいのですが…。

「ミユちゃん、これはサンドイッチという食べ物なんだけど、食べてみるかい?」

 子供には玉子サンドだろうと思い、そっちを差し出した。

 ミユちゃんは母親の方を見上げて、小首を(かし)げるような仕草をした。めっちゃ可愛いんですが…。

 サユさんが頷くと、ミユちゃんは俺から玉子サンドを受け取り、小さな口でかぶりついた。

「!!!」

 目を丸くして、かじった断面を見つめるミユちゃん5歳。どうやら気に入ってもらえたようだ。


「美味しいかい?」

「うんっ!ものすごーく美味しいよ。こんなに美味しいもの食べたこと無い!」

 俺は同じものをサユさんにも差し出した。

「サユさんもよろしかったらどうぞ」

「あ、ありがとうございます。遠慮なくいただきます」

 一口食べたあとのサユさんはミユちゃんと全く同じ反応だった。親子だな。


「こっちは肉を挟んだサンドイッチなんですが、もし良かったらどうぞ」

 焼肉サンドのほうも(すす)めてみた。美味しそうに食べてくれるのを見て、嬉しくなってしまったからね。なお、俺の【アイテムボックス】には大量の料理が収納されているので、少しくらいあげちゃっても全然問題ないのだ。

 食べた際の反応はやはり絶句だった。うむ、さすがはナナの作った料理だよ。


 俺も追加でサンドイッチを取り出して、自分も食べ始めた。やはり、うまいな。

 あと、リュックサックから(取り出したふりをして【アイテムボックス】から)コップ三個と水筒を取り出し、その水筒からコップに果実ジュースを(そそ)いだあと、二人に差し出した。

「甘いジュースだよ。あと、追加でサンドイッチを置いておくから、どんどん食べちゃって良いからね」

 親子二人に等分に目線を合わせながらニッコリと笑顔でそう言った俺に対し、サユさんが(恐る恐るといった感じで)問いかけてきた。

「あの…、見ず知らずの私たちに、なぜそこまで親切にしてくださるのですか?」

「あー、確かにちょっと気持ち悪いですかね。でも、裏などありませんよ。俺なんかと会話してくれたお礼です。おかげで道中退屈せずにすみましたし…」

 ちなみに、俺は幼女趣味のペド野郎ではありません。念のため。


 サユさんがシングルマザーであるという事情を聞いて、ちょっと同情したってのもあるかな。彼女たちはずっと王都に住んでいたんだけど、一念発起して出身の村へ戻ろうと考えたらしい。実家にはサユさんのご両親も健在みたいだからね。

 その村は何回か乗合馬車を乗り継がないと辿(たど)り着かないくらい遠方にあるんだけど、ゴルドレスタ帝国へのルート上にあるため、俺とも割と長い時間を一緒に旅する仲になるのだ。それもまた、彼女たちを気に掛ける理由だね。


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