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330 久々の我が家

 対ワイバーン戦のあとは特に強い魔獣が出現することもなく、また盗賊団なんかにも遭遇しなかった。

 旅路は極めて順調かつ平穏なもので、ナナなんかはちょっと欲求不満気味だったよ。いや、まじで好戦的すぎる。そんな子だったっけ?

 『装甲戦闘車』への乗車についても、全員が交代で体験搭乗した。イーサ(キャノン)を撃ったのは結局ナナだけだったけどね。

 なお、【操車術】のスキルを持つオーレリーちゃんとサーシャちゃんに至っては、『装甲戦闘車』の御者も務めたのだ。二人とも嬉しそうに操車してたよ。


 こうしてついに王都へと帰り着いた俺たち一行…。

 季節はすっかり夏である。かなりの長期に渡ってこの王都を離れていたことになるね。


 で、うちの屋敷へと帰着した際、イザベラとエリさんの二人に出迎えられた。帰宅日時を通信魔道具で事前連絡していたからだ。

「お帰り、サトル君。イーサ(キャノン)が活躍したようで嬉しいよ」

「お帰りなさいませ、サトル様。叙勲につきまして、お祝い申し上げます」

「ただいま帰りました。あ、そうだ。アインホールド伯爵様からお聞きしたんだけど、ビエトナスタ王国への難民支援物資の無償提供について、ルナーク商会が随分と頑張ってくれたらしいじゃないか。イリチャム姫に代わってお礼を言わせてもらうよ」

 そう、一銭の得にもならないのに、支援物資によって難民たちの暮らしを守ってくれたのだ。まじで頭が下がる思いだよ。


「ふっ、私は商人だぞ。()の国に恩を売るために決まってるだろ。将来、ルナーク商会があっちの国の王室御用達(ごようたし)になるために打った布石だよ」

 露悪的な発言だけど、実は単なる照れ隠しだろうな。ま、そういうことにしといてやろう。

「いや、それよりこの装甲馬車はどうしたんだよ。しかもイーサ(キャノン)まで少し改造が(ほどこ)されているように見えるのだが…」

 俺は『装甲戦闘車』及び『AC-2010R22型』の両方について、簡単に説明してあげた。イーサ(キャノン)の22型については発射機構と架台の改良点、つまり手回しハンドルによる連射機構と砲身固定のロック機能の説明である。

 通信魔道具では一回当たりの通信時間が100秒間と短いため、こういった細かいところまでは伝えきれていなかったのだ。


「イーサ(キャノン)は最初の仕様ですでに量産が始まっているらしいぞ。君の言うところの『AC-2010R11型』だな。どうする?設計図を引き直すか?」

「そこまでしなくても良いんじゃないか?まぁ、こいつは一式丸々陛下に献上するつもりだけどな」

 この現物を見て、もしも有用と判断すれば国のほうで勝手に改良するだろう。王立砲兵工廠(こうしょう)には優秀な技術者たちも揃っていることだろうし…。


 イザベラと俺は屋敷の玄関前で会話していたんだけど、建物の中から近衛騎士団第二小隊所属の女性騎士三名が現れた。ベルンさんと他二名だ。

「ツキオカ男爵様、お帰りなさいませ。不法侵入者などの不届き者はおりませんでした。どうぞご安心ください」

「ベルンさん、長期に渡る留守番、本当にありがとうございました。助かりました」

 俺の後ろからユーリさんも(ねぎら)いの言葉をかけてあげていた。かつての部下らしいからね。

「フラン、留守居役としての任務、ご苦労だった。そっちの二人もな。お前たちがいてくれたから、安心して旅ができたぞ」

 ベルンさんのことをフランという愛称で呼ぶユーリさん。フランソワーズ・ベルンというのが彼女の本名だからね。


 このあとサリーとユーリさんは女性騎士たちと業務引き継ぎの打ち合わせのためリビングへ、ナナとサーシャちゃんはキッチンへ、オーレリーちゃんは厩舎(きゅうしゃ)へ、アンナさんとマリーナさんは事務作業のため書斎へと入っていった。

 え?俺?俺は特に仕事が無いので、イザベラとエリさんと一緒にダイニングテーブルに座っている。


「二人とも今夜の夕食は一緒に()れるのかい?」

「ああ、大丈夫だ。久々にナナ君の手料理を味わえるからな。実は楽しみにしていたのだよ。もちろん、エリもな」

 この声が聞こえたのだろう、キッチンからナナが話しかけてきた。

「イザベラちゃんとエリさんもいるのなら、腕によりをかけないとね。ふふ、今日の晩御飯は『ブイヤベース風・煮込みうどん』だよ」

 何ぃ~!?うどんだと?

 確かに小麦粉はあるんだし、手打ちうどんは不可能じゃないのか…。ただ、醤油も味噌も無いから、味付けは魚介出汁(だし)でブイヤベースみたいな感じにするのだろう。


 イザベラと俺の目がめっちゃ輝いている反面、エリさんは不思議そうな顔になっていた。

「お嬢様、サトル様、ブイ…何でしたっけ?あと、にこみうど?初めて聞く名前で想像もできません」

「エリ、食べてみれば分かるさ。楽しみに待ってようぜ。てか、私も待ちきれん」

「お、俺も待ちきれない。すでに口の中に唾液が(あふ)れ出しているんだけど…」

 醤油が無いのが本当に残念だ。でもナナの作る料理に(はず)れは無いからね。まじで期待は高まるばかりである。


 ・・・


 夕食はうちの屋敷の人員8名、イザベラとエリさん、それにベルンさんたち騎士3名を含めて、総勢13名で食卓を囲んだ。

 ダイニングテーブルの二箇所に大鍋が置かれ、湯気を立てている。各人の目の前にも配膳されたスープ皿が置かれていて、すでに料理(『ブイヤベース風・煮込みうどん』)が取り分けられていた。

 メインである肉料理の皿もあったんだけど、イザベラと俺の興味はスープ皿の中のうどんに集中していたよ。

「スープは目の前の大鍋から各自適当にお代わりしてね。中に入っている細長いのは『うどん』という名前の小麦粉で作ったパスタだよ。ではどうぞ召し上がれ」

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

 食事開始の合図としてこの言葉を発したのは、うちのメンバーとイザベラだけだった。ナナと俺がいつも言っていたら、全員が同じように唱和するようになったのである。


 フォークで麺を持ち上げ、すすり上げる。ずるずるっ。

 アンナさんが驚いたように目を見張って、何か言いたげにしているのが見えた。

 その機先を制して、俺は言った。

「うどんはこうして『すする』のがマナーだからね。音を立てるから行儀が悪いとはならないんだよ。てか、美味いよ、ナナ。涙が出そうだ」

 惜しむらくは(はし)が無いところかな。フォークでは『うどん』をうまく持ち上げられないよ。いや、俺が【細工】で作れば良いのか。


 イザベラもナナも音を立てながらすすっている。サリーも真似をしようとして、盛大にむせていた。すするのって何気に難しいのか?

「む、難しいな、『すする』のって。でもすっごく美味しいよ。さすがはナナだね」

 アンナさんやマリーナさんも苦戦していた。一気にすすらず、少しずつ口の中に入っていく様子はなんだか可愛らしい。


 食べ方はともかく、料理自体の味は全員に大好評だった。まぁ、ナナの手料理だから当然か。

出汁(だし)は海の魚から取っているんだけど、ルナーク商会の氷式冷蔵庫(アイスボックス)が登場したおかげで、王都に新鮮な海産物が出回り始めたんだよね。イザベラちゃんには本当に感謝だよ」

 なるほどな。エーベルスタ王国って一部が海に面しているものの、王都と港はかなり離れているのだ。これまでは干したものしか手に入らなかったけど、今では生の魚介類が手に入るらしい。

「私じゃなく、君の兄貴のおかげだよ。サトル君の作ったものをそのままパクっただけだからな」

 でも、そのおかげでこんなに美味しいブイヤベース(風・煮込みうどん)を味わえるのだ。氷式冷蔵庫(アイスボックス)の普及に尽力したのは間違いなくイザベラなんだから、誇っても良いと思うよ。


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