328 感動の再会
「お兄ちゃ~ん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
馬車から降りたばかりの俺に向かって、妹のナナが抱き着いてきた。
妹の身体の柔らかな感触がちょっと懐かしい。いや、別に嫌らしい意味じゃないよ。兄としての思いです。
「ちょっとナナさん。独り占めはダメでしょう。サトルさん、おかえりなさい。ご無事のご帰還、とても嬉しいです」
「サトル!戦争に勝ったことよりも、戦死者数の少なかったことこそがすごいことだよ。さすがはサトルだよ」
アンナさんとサリーも声をかけてくれた。そう、今回の戦争って、大兵力同士のぶつかり合い(5万人VS10万人)だったのに、関ヶ原のような野戦が発生しなかったからね。戦死傷者数はゼロではないけど、かなり少なかったのだ。彼我共にね。
この三人以外の仲間たち(オーレリーちゃん、ユーリさん、マリーナさん、サーシャちゃん)も口々に俺の帰還を喜んでくれた。
ただ、イザベラとその護衛のエリさん、サガワ君たちニホン人三名はここにはいない。
先の二人の現在地は王都エベロンで、後の三人はゴルドレスタ帝国の帝都にいるのだ。まぁ、イザベラとは通信魔道具でいつでも会話できるんだけどね。
「よくぞ無事に帰ってきてくれた。君がビエトナスタ王国に取り込まれるんじゃないかと少し心配したよ」
アインホールド伯爵様の言葉だ。実は彼の国の貴族に勧誘されたことは(通信魔道具では)言っていないのである。勘の良さにちょっとドキッとしたよ。
「お父様、ツキオカ様が我が国を裏切ることなどあり得ませんわ。ええ、私は信じておりましたとも。なにしろこちらにはアンナがいるのですから」
いやまぁ、アンナさんだけじゃないけどね。エイミーお嬢様って、自らの元・侍女であるアンナさんのことを本当に信頼しているのだ。姉妹みたいな関係で、かなり微笑ましい。
「皆さん、ここに帰国を果たしましたことをご報告申し上げます。また、通信魔道具でも報告済みですが、リュミエスタ王国によるビエトナスタ王国への侵攻を阻止しましたこと、あらためてご報告申し上げます」
ちなみに、もしもビエトナスタ王国が落ちた場合、侵略性国家であるリュミエスタ王国が我が国の隣国となるという事態になったわけだ。それを防ぐことができたのは、極めて重大事だと思うよ。
それについてはアインホールド伯爵様も、そして我が国の王家も重々認識していたみたい。
「陛下もお喜びだよ。ツキオカ男爵家を陞爵させたいという意向もあるようだけど、君は断るんだろうね?」
なお、国王陛下のいる王城とアインホールド伯爵家のお屋敷の間は、通信魔道具によって連絡できるようになっている。毎日定時に通信しているらしい。
「はい、申し訳ありませんが、現状の男爵位ですら持て余している状況です。と言いますか、男爵としての責務を果たしているとは言い難く…」
「そんなことはない!領地を持たない法衣貴族ではあるが、国に対する君の貢献度は貴族の中でも群を抜いているよ。通信魔道具しかり、イーサ砲しかり…」
俺の発言の途中だったんだけど、伯爵様から食い気味に否定されたよ。功績が認められて嬉しいけど、それらはイザベラの功績でもある。てか、どちらもイザベラの存在を抜きには語れない。
・・・
ここでナナが空気を変えてくれた。
「ねぇ、お兄ちゃん。これって装甲馬車だよね?もしかして買ったの?」
この『装甲戦闘車』の存在までは(通信魔道具では)伝えていなかったのだ。戦争における役割や、報奨として貰ったことなどもね。
「叙勲の褒賞で貰ったんだ。天井に設置しているのはイーサ砲だよ」
「うわぁ~、これってかなりヤバい兵器になるんじゃないの?それこそ、ただの男爵家で持ってて良いものじゃないよ」
「分かってる。これは『装甲戦闘車』と言うんだけど、丸ごと陛下に献上するつもりだよ。イーサ砲も含めてね」
「うん、それが良いと思う。なんか禍々しいよ」
いや、失礼な。禍々しくは無いだろ。てか、イザベラだったら嬉々として触りまくるぞ。
「とにかく、王都エベロンへ帰還する旅については、うちの幌馬車とこの『装甲戦闘車』の二台で向かうつもりだからね。こっちに乗りたい人は申し出てくれ」
そう言った瞬間、全員の手が上がった。七人全員だよ。
まぁ、分からなくもない。軍用の装甲馬車って、実はかなり乗り心地が良いのだ。車体自体の重さによるものもあるんだけど、乗車する兵士のコンディションを保つためなのか、サスペンション性能がかなり優れているんだよね。
それは俺自身が実感している。揺れが少ないため、酔いにくいのだ。左右の車輪の幅も普通の馬車に比べると広いし…。
「うーん、それじゃ二台それぞれに乗車する人間を固定せず、途中で入れ替えしながら帰ろうか」
くじ引きで決めても良いんだけど、王都までの道のりは長いからね。全員にこの『装甲戦闘車』の素晴らしさを体験させてあげたい。
あと、アンナさんとオーレリーちゃん、サーシャちゃんの三人は御者もできるので、天井御者席からの見晴らしの良さについても教えてあげたいんだよね。




